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プロローグ
灰色の雲の群れからポツリポツリと透明な雫が『シュアリー』という国の首都『ベルミヤ』の路地裏に立ち尽くす一人の女に降り注ぐ。
雫は黒い髪を艶やかに濡らし、頬を伝い、首筋へ。そこから肩に、腕に、そしてだらりと力無く下がった指先へ……。最後は彼女の身体から離れて地面に真っ赤な跡を刻みつける。
無色の雫が赤く染まったのは彼女の身体に付いていた“血液”と混ざり合ったから。女が怪我をしているわけではない。女が怪我をさせたのだ。
「……また、やってしまった……」
自分達の血液で真っ赤に染まった水溜まりに浸かりながら、白目を剥き、夢の世界へとトリップしている無数の男達。
その中心で『神代藤美』は天を仰ぎ、きめ細やかな肌に施された返り血の化粧と、熱く滾った激情を冷たい雨のシャワーで洗い流した。