8 東京からの来客
私が駅の改札機と格闘している間に、スマホにLINEのメッセージが入っていた。送り主は東京に単身赴任している中学校時代からの親友である安慶名だ。
『病人がどこほっつき歩いてるねん?』
相変わらずぶっきらぼうな奴である。しかし・・・東京にいる男が、何故私が家にいないことを知っている?
「改札機と格闘してたんや。お前どこにおんねん?」
『お前の家の前や』
・・・どういうことか?とりあえず急いで家に帰ろう。
家に帰ると、玄関先に黒い大きなバイクが停まり、玄関先に安慶名が座り込んでいた。
『よう!病人!元気そうやな!』
いつのことながら詳しくは言わないが、どうやら私を心配して東京からバイクで帰ってきたらしい。家の前では何なので、行きつけのポプラカフェに移動し、安慶名と向き合った。
安慶名は私の話を真剣に聞いてくれた。そして・・・
『大阪府もひどいことするよなぁ・・・お前は全然悪くないぞ。そんな人を歯車とか虫けらみたいに扱う組織・・・許せんな!まぁ・・・今はゆっくり休め。長いことしんどい職場で働いてきたんやから、ちょっとくらい休んでも罰は当たらんよ。』
安慶名はこう見えても大企業の管理職である。会社のコンプライアンスとかメンタルヘルスにはめっぽう詳しい。
2時間近く話し込み、安慶名はバイクで東京へと帰っていった。往復16時間1000キロ・・・申し訳ない。
帰り際、安慶名は小さなお守りを2つ私にくれた。家に帰った私は涙が止まらなかった。
安慶名がどうこうできる問題ではないし、どうにかしてくれということもないのだが、心配して飛んできてくれたこと、そして真剣に話を聞いてくれたこと・・・それらが素直にうれしかった。
しんどさの渦中にいる人間はとにかく孤独である。味方や理解者がいるとどれだけうれしく心強いか・・・。ホストが貢いでもらうために発するような気の利いた言葉はいらない。知ったかぶりもいらない。気にかけてくれる・・・それだけで十分なのだ。