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異動ガチャ  作者: 泉北亭南風
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6 セカンドオピニオン

 4月5日の朝。良子に付き添われ、自身が運転する車で「さかいこころのクリニック」にやってきた。いくつか候補があったうち、利便性の良いところを選んだ。今後長期戦になるのを見据えてのことである。


 良子によれば、電話で事情を説明したら予約を割り込ませてくれたとのこと。受付の対応も良く、安心感があったとの弁である。


 クリニックはよく利用していた乗換駅の近くだったが、私は電車に乗るどころか改札もくぐれなくなっていた。だけど不思議なことに車の運転は何とかできた。それだけでもかなり助かる。


 受付を済ませると、問診票を書くように指示された。出来上がったら、まず精神保健福祉士さんと面談し、症状や困っていることを事細かに説明する。先の病院で紙くず同然に扱われた「診察メモ」もしっかり読み、私が置かれている状況を理解しようと努力してくれた。30分以上話をしていたと思う。


 少し休憩させてもらった後、医師の診察に移行した。主治医は安藤先生。私より少し年下と思われる温和な男性医師だった。先生は精神保健福祉士さんが作成した記録と私が作成した「診察メモ」にじっくりと目を通しながら、私の話を親身になって聞いてくれた。


 「高槻さん、しんどかったですね。診断は『適応障害』です。仕事に行けなくなってしまったのはあなたの甘えやワガママではありません。れっきとした病気です。少し休みましょう。とりあえず1ヶ月の休職の診断書を書きます。症状が改善しなければ更新しますので安心してください。」


 安藤先生は静かに私に語りかけてくれた。


 私はホッとした。そして次の瞬間涙が止まらなくなった。実母が亡くなっても涙一つ流さなかった男がこのザマ・・・私が病気であることは明らかであった。


 「先生。前の先生から処方された大量の薬が家にあるんですがどうしたらいいですか?」


 良子が安藤先生に質問した。


 「それは・・・浩司さんがわからない場所に全部捨ててください。薬は改めて私が処方します。薬はあくまでも対症療法であって、病気そのものを治すものではありません。当院は漢方薬を基本として、向精神薬は最小限しか処方しない方針です。そしてカウンセラーによる認知行動療法を併用しています。」


 私はこの先生なら私の力になってくれると確信した。1週間後に次の予約を取ってクリニックを後にした。


 2つの病院での診察を経験して病院選びの大切さを知った。一般論的にはさまざまな病院をかけもちする「ドクターショッピング」は良くないといわれるが、精神医療の分野ではそれは当てはまらないと思う。


 精神疾患は点滴や注射や手術等で症状が緩和されるものではない。主治医そのものがすごく大きな存在・・・患者の最大の味方である。そういう意味で、「自分に合う」医師を探すことは非常に重要と思う。


 精神医療の分野は日々進歩している。特に「気分障害」や「発達障害」に関しては、ここ20年ほどで大きく考え方が変化している。決してベテランの医師を否定するわけではないが、比較的若くて最新の理論を学んだ医師の方が器が大きいように思う。


 私は先の医師から比較的古典的な向精神薬をてんこ盛り処方されたが、今は副作用が少なくて服用も少量で済む安全な薬が次々と開発されている。先にも述べた通り、薬で病気が治るわけではないが、症状緩和の一助にはなる。理解のある医師の下で、必要最小限使用するのは大いにありと考えている。


 そして1週間後、再び良子に付き添われてクリニックにやってきた。まだ電車に乗れない。それどころか改札機がくぐれない。必然的に車での通院となった。


 この回からカウンセリングが始まった。担当カウンセラーは元木さんという若い女性。私が福祉専門職であることを意識してか少し緊張している。カウンセラーにも傾聴型、コーチング型、折衷型等いろんなタイプの人がいるが、安藤先生が当てがった元木さんは傾聴型の人だった。


 とにかく私にいろいろしゃべらせてフンフンと頷く・・・。最初は正直「大丈夫か?」と思ったが、気持ちを吐き出すのはスッキリする。2週間に1回40分・・・「認知行動療法」が始まった。少し前まで私は「やる」側にいた人間。それが「受ける」側に回るとは・・・わからないものである。

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