5 心療内科へ
4月3日朝。定刻の6時に目が覚めたが布団から出ることができない。目が覚めたというよりは、なかなか寝付けず気付いたら朝になっていたという表現が正しい。体が鉛を巻き付けられたように重い。トイレに行きたいのだが動けない。これでは仕事へ行くどころではない。この段になって、ようやく自分の身に何かが起きていることを理解した。
30分ほどかかって何とか布団から抜け出し、とりあえずトイレと洗顔は済ませた。そして再び寝室に籠った。とにかくここから出たくないのだ。気分を紛らわせるのにテレビをつけた。すると、中央児童相談所に通勤するのに使う「京阪電車」のCMが流れてきた。私は慌ててテレビを消し、そのままふさぎ込んでしまった。
始業時間になり、妻が職場へ休む旨の電話を入れてくれた。私は朝食も摂れず、相変わらず寝室からは出られない。
妻の良子があちこち電話をかけて、心療内科を探してくれた。どこも予約制とのことで診察は1週間後とか2週間後とかそんな感じだったらしい。昼前になり、ようやく一件今日診察してくれる心療内科を見つけてくれた。とりあえず今のままではどうしようもない。言葉で伝えられる自信がなかったので、パソコンで簡単な診察メモを作り、夕方良子に連れられて心療内科のドアをくぐった。
仕事では幾度となく通った心療内科・・・世間のイメージとは全く違い、ごくごく普通の町医者と変わらない。保険証提出と引き換えに問診票をもらう。記入を終えた問診票にパソコンで作成した診察メモを添えて受付に渡した。経験上心療内科や精神科はいつも混んでいて待ち時間もかなり長い。それにしてもこの病院・・・人が少ないぞ。
5分ほど待っただろうか。名前を呼ばれて診察室に入った。医者はどこかぶっきらぼうな年配の男性。良子が一瞬顔をしかめた。
「高槻さんね・・・うんうん、今日から仕事に行けなくなった・・・?人事異動で不本意な職場に配属されたのがきっかけ・・・?」
「昨日の今日で受診・・・?ってまだ1日しか行ってないやないの。」
私が死ぬ思いで書いた診察メモにはほとんど目を通さない。
「とりあえず・・・いろいろ症状が出てるから薬は出しておくけれど・・・これ飲んで明日から頑張って仕事行ってみな。ほんで・・・また1週間後においで」
診察は3分で終了した。いつもは穏やかな良子が態度で怒りを表していた。
医療費を支払い、処方箋を持って近所の薬局へ・・・。薬は3種類、うち2種類は朝夕、残り1種類は眠前に服用せよとある。結構な量だ。それを見て良子がまた態度で怒りを表している。当の私は何が何だかわからない。
医師曰く、私はどうやら病気ではなく、ただ単なるワガママだと言っているらしいと理解した。やっぱりそうか・・・ではなぜ安定剤やら眠剤やらが処方されるのか・・・矛盾している。
良子曰く、人通りの多い駅前の心療内科で、それも夕方にもかかわらずほとんど待ち時間がなかったこと。医師の態度を見てこれはダメだと思ったとのことである。
とりあえず何とか夕食を摂り、処方された薬を服用して床についた。気持ちが悪いほど寝付きが良かったが、翌朝はやはり布団から出られず、寝室から出ることもできなかった。
手元には処方された大量の薬がある。これらを一気飲みすれば・・・。いやいや、ちょっと待てよ・・・。早まってはいけない。
良子と相談し、別の心療内科のセカンドオピニオンを求めることにした。
ちなみに・・・医師は薬を処方する時、万が一変な気を起こして一気飲みする時のことも考えるらしい。すなわち、処方薬を全部飲んでも命にかかわることはないそうだ。だからといって一気飲みするのはお勧めしない。