40 エピローグ
不本意かつ無理難題な人事異動がきっかけで適応障害を発症し、自身の頑張りすぎと職場や上司の無理解からうつ病へと移行。ついには精神障がい者となってしまった主人公。家族絡みのトラブルにも巻き込まれながら、3年以上の年月をかけ、「復職」ではなく、本来の自分らしさを発揮できる新たなステージを見つけ、活躍の場を移した。
うつ病は「心の風邪」と言われた時期がある。それは「誰でもかかる」という意味であって、風邪のように日にち薬で自然治癒するものではない。その表現がうつ病という病気が軽んじられるというか、「甘え」だの何だの、あらぬ誤解を生む原因にもなっているようで心苦しい。
最新の研究では、うつ病は「脳の器質的障害」であると認識されている。極度のストレスが原因で脳の神経伝達がうまく行かなくなり、気分の落ち込みといった症状が現れるのだ。エビデンスも出揃ってきているが、世間に浸透するにはまだしばらく時間がかかりそうである。
うつ病の症状は気分の落ち込みだけではない。物忘れをしたり、簡単な計算ができなくなったり、集中力が続かなくなったり、食欲がわかなくなったり・・・想像以上に多岐にわたり、かなり個人差がある。むしろ気分の落ち込み以外の症状が社会生活を阻害することが多いように思う。そして抗うつ剤は、気分の落ち込みを改善させるのには比較的有効だけれど、それ以外の症状への効果は限定的な印象がぬぐえない。
うつ病にはなりやすい性格があるように思う。「自他罰的な人」・・・わかりやすくいえば、自分にも他人にも厳しい、真面目で実行力のある人である。
この物語の主人公もそう。もっと気楽に仕事に取り組むタイプの人ならば、いくら無理難題であってもこういう結果には至らなかったのではないかと思える。裏返せば、なりにくいよう、症状が改善しやすいように立ち回ることができるともいえるかもしれない。経験上は、生きやすい環境を見つけることに加え、「自分が変わる」というのも大事なことだと思う。
私は、うつ病は「怠け者」や「甘え」の病ではなく、真面目で頑張る人だからなる病気だと感じている。しかしながら、世間の病気に対する理解は皆無に等しい。精神障がい、発達障がい、知的障がいの区別もつかない人がほとんどであり、時には根拠のない誹謗中傷に晒されることもある。どうかやめていただきたい。自身が渦中に置かれたときにどう感じるか・・・そういう視点を持ってほしい。
病気で休んでしまった時にできる膨大な自由時間・・・罪悪感は捨てて、長い人生のちょっとした休憩時間と捉え、体調の許しの利く限り、そして主治医の助言も得ながら、これまでできなかったことや好きなことに費やすのが良いと思う。そうすることが早期の回復につながるように思う。
しかしながら、一度壊れた心は完全に元に戻るのは難しい。諸説あるが、私は脳が安全装置を働かせてしまうことが原因ではないかと思っている。「限界線」が下がってしまうのだ。それを踏まえて、主人公と同じように、元の世界に戻るのが本当によいのか、視点を変えて新たな世界を見出すのかを考えるべきではないかと思う。
この物語を通じて伝えたかったこと・・・止まない雨はないし、明けない夜もない。渦中にいる時は死にたくなるくらいに辛いけれど、きっと出口はある。そして懐かしく振り返ることができる日がきっと来る。少なくとも主人公・・・筆者はそうであった。
最後に・・・本作は筆者の実体験をフィクション化したものである。いろんな出来事があったけれど、こうして振り返りができるくらいにまで回復した。
この拙い作品が、職場のメンタルヘルスで悩んでいる人や、適応障害やうつ病と闘っている人の一助となれば幸いである。




