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異動ガチャ  作者: 泉北亭南風
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25 先生どうしたら・・・?

 9月30日。私は愛媛県松山市にいた。極度に悪化した体調・・・とにかく今の環境から離れたくて、一泊分の着替えを愛用の小さなリュックに詰め、半ば勢いで関西空港からLCCに飛び乗ってやってきた。


 松山市の郊外には、私が「恩師」と慕っていた西野先生の墓がある。先生と初めて出会ったのは1993年の初春。当時大学生で愛媛を旅行中だった私は、ひょんなことで先生と知り合い、そのまま意気投合。初対面にもかかわらずご自宅に泊めていただいたり、その後何度も会いに出かけた。


 先生は当時68歳。長年支援学校の教員を務め、退職後悠々自適の生活を送っていた。私は福祉学科の学生であり、簡単にいえば「見込まれた」わけである。


 先生とはいろんな話をした。そして卒業後の進路を迷っていた私に、福祉の世界で仕事をするよう強く勧めてくれた。大阪府の福祉専門職試験に合格したのを親よりも喜んでくれたのが先生だった。今思えば、ご自身の意志を誰かに受け継いでほしかったのだと思う。


 しかし、私が就職する直前・・・1995年の2月に先生はこの世を去った。後でわかったことだが、私が出会った頃には末期がんを患い、すでに余命宣告を受けていたらしい。前月に阪神淡路大震災が起き、心配する電話をくれたのが最後になった。葬儀の時、私は先生に誓った。ご意志は私が継ぎますと。


 先生のお墓によく一緒に飲んだコーヒーを供え、私も一緒に飲んだ。ここにやってきたのは6年ぶりか・・・。


 私は仕事では、相談者中心のかなりフランクな接し方をする。それは、どんな人でも向き合えばいつかは必ず応えてくれるという先生の教えがベースにあるから。10年前、山口所長は私のそんな支援方法を極端に嫌った。


 「心理検査とかいろいろ・・・やるべきことやらんと何か言われたらどうするねん!」


 「誰が何を言うんですか?我々は相談者のために仕事をしてるんでしょ!」


 衝突は日常茶飯事だった。


 なるほど・・・だから私は退職勧奨を受けたのか・・・?私が病気になったのをいいことに、危険因子は排除しようというわけか・・・話がつながった。


 私は先生に詫びた。これ以上大阪府で福祉の仕事を続けていくのは無理ですと・・・。


 「浩司君。君らしく・・・人生楽しく生きようね。」


 先生の優しい声が聞こえた気がした。気が付いたら2時間近くが経過していた。私はお墓に深く一礼をし、お墓を後にした。そして先生によく連れて行ってもらったゆかりの地を訪ねて歩いた。


 逝去から24年が経ち、随分と街の景色も様変わりはしているが、当時のエピソードが懐かしく思い出された。やはりこの街は私の第二の故郷である。次の人生を見つけてまた来よう・・・。


 その1週間後、産業医面談があった。田村次長と山中次長が同席した。私は一瞬迷ったが、先の三者面談でのやりとりを事細かに産業医の木村先生に話した。退職勧奨を受け、私の人権を踏みにじられたような気がしたと・・・。田村次長が明らかに怒っている。でもそんなものは関係ない。私は滔々と話を続けた。


 それに対して木村先生からはリアクションはなかった。産業医は組織サイドの医者である。基本的には組織の・・・大阪府の味方である。組織にとって都合の悪いことはスルーするのだ。


 私はそんなことは百も承知であった。産業医面談のやりとりはすべて「公文書」として記録が残る。私はそこを狙ったまでである。


 面談終了後、予想通り田村次長から呼び止められた。


 「あなたの考えはよくわかりました。でも私にも言いたいことがあります。」


 ・・・どうせとカフェとバイクのタレコミのことだろう。


 「私はすべて木村先生にお話ししました。それ以上お話しすることもお聞きすることもありません!」


 私は田村次長をキッと睨み返してその場を離れた。


 後日、この間の経過をまとめて「職員総合相談センター」に持ち込んだ。しかしながら担当相談員は尻込みしてしまい、再度職場とよく相談するようにと話をまとめてしまった。


 私は思った。この組織は終わっている。しがみつく必要があるのだろうかと・・・。

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