表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異動ガチャ  作者: 泉北亭南風
21/40

21 空に帰りたい

 3月中旬から再休職に入った。給与は再び8割に戻る。体調面では給与云々を気にしているどころではなかった。まるでジェットコースターみたいに上がり下がりする感情の起伏、集中力の欠如からくる物忘れや忘れ物、何とかリハビリ出勤前の日々のルーティンに乗せはしたものの、苦しい日々が続いた。行きつけの喫茶ガジュマルのマスターはその頃の私を見て、声をかけることすらできなかったと表した。


 3月24日、山口所長から電話がかかってきた。年度の人事評価の結果を伝えるとのこと。


 「高槻さん。あなたの評価は第5区分のDです。」


 大阪府の人事評価は時代錯誤甚だしく、中学校の内申書みたいに「相対評価」を採用している。「第5区分のD」とは、相対評価最下位プラス能力が相当劣るということになる。これが2年続くと分限免職の可能性すら出てくる。


 「弱ってる人間に電話かけてきてわざわざ言うか・・・?」


 電話を切った後ひとり呟いた。そして、電話の向こうでニヤッとした所長の顔が見えたような気がした。


 4月。年度が替わった。山口所長、田村次長、山中課長の3人は留任。またこの3人とやりとりせねばならないかと思うと、余計に気分が落ち込んだ。そしてこの時期になると困った症状が出てきた。「希死念慮きしねんりょ」である。


 「希死念慮」・・・わかりやすく言い換えれば「自殺願望」である。病気を再発させ、最低ランクの人事評価を突き付けられ、先行き不安が相当に強まった結果だったのだろう。日頃ふとした瞬間に「死にたい」という感情が浮かんできて、どんどんと心の中に存在感を広げていく。振り払おうにもしつこくて取れない。例えるならば・・・自転車に乗っていても、ご飯を食べていても、音楽を聴いていても、ふとしたきっかけで、


 いつ死ぬか?どうして死ぬか?


 と問いかけてくる。そして酷い時にはふさぎ込んでしまう。


 妻の良子の前ではさすがに死にたいとは言えないので、「空に帰りたい」という表現を使ってSOSを出していた。そんな状態が1ヶ月以上続いただろうか・・・?主治医の安藤先生からは入院もちらつかされ、最後は何とか抗うつ剤の調整で落ち着いた。


 日本の自殺率は先進国の中でも群を抜いて高いと言われる。実際にしつこい希死念慮を経験した私が思うに、不幸にも自殺を敢行する人のほとんどはうつ病を患っていて、湧き上がってくる希死念慮のしつこさに恐怖心を抱いて行動を起こすのではないかと・・・。


 つまるところ、本人の意志ではなくて病気の症状がそうさせるのではないかということである。


 福祉専門職として仕事をしていた時、「死にたい」「死ねいうんか!」という人と数多く接してきた。私はどちらも、「口に出している間は大丈夫」と勝手に信じて対応してきた。


 でも今は思える。「死にたい」は要注意。「死ねいうんか!」はほぼ大丈夫。


 身近な人に「死にたい」と言われたらどうするか・・・?とにかく遮ることなく本人の話を聞いてやって欲しい。そしてあなたはかけがえのない存在だということを優しく伝えてやってほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ