『王様ゲーム』 王様は誰だ!!誰なんだ!!
「王様だーれだ!!」
俺はバイトの先輩に連れられて、飲み会に来ていた。
夜7時に始まった飲み会は、すでに2時間を経過。先輩はもちろん他のバイト仲間もすでに結構出来上がっていた。本当は来たくなかったのだが、世話になっている先輩の頼みだったことと、結構気になっている彼女が来るってんで、ついてきてしまった。
2時間も経つと、すでに会話はない。バイトの話、下世話な話、惚れたはれた、将来叶うかどうかも分からない夢の話。以前話した聞いたことのあるような話を延々と繰り返し、くだを巻くヤツが出てきていた。俺は元々酒が強いことと、チビチビと飲んでいたこともあって、あまり酔ってはいない。唯一残念なことは、お目当ての彼女が遠くに座っていて、あまり話せなかったことだ。そろそろいい感じにお開きかな。
・・・と思っていたら、誰かが突然言い出した。
王様ゲームやろうぜ!
何を血迷ったのか。そんな昭和チックなゲームなんて、誰がやるんだよ。そう思っていた。しかし他のメンツがなぜかノリノリだった。きっと酔いが回って、頭がおかしかくなっていたんだろう。例の彼女もいえーい!とか言っている。一人が割りばしに番号を書き始めた。えっ、本当にやるのかよ。
「王様だーれだ!」
くだらないとは思いつつ引かされた割り箸。番号は2番だった。
「6番が2番のほっぺにキーーース!!」
俺の左隣のやつが叫びやがった。6番の割り箸を持っていたバイトの後輩君(♂)が俺に気持ち悪く近寄ってきて、俺のほっぺたに雰囲気良くキスをしていった。
気持ち悪い、くだらない・・・
俺は酔ったふりして、顔を伏せた。『恥ずかしがらなくてもいいのに』と更にくだらない言葉が浴びせられた。あぁ面倒くせぇ、いっそ本物の王にでもなって命令したらいいのに・・・
「王様だーれだ!」
俺の前に勝手に置かれたクジ。番号は3番。顔を伏せていたので、誰が王様なのかは分からない。
「はーい!俺が大王でぇ~す! それじゃあ、2番のパルメニオンさんはぁ、騎兵で5番のダイレオス3世を攻めちゃってくださ~い!」
へっ?!
思わず顔を上げた。一瞬、大平原が見えたような気がした。頭を振ると、普通の飲み屋のはず・・・だ。
「大王様、後でちゃんと助けてくださいよ」
「分かってるって」
「ぇえー、俺滅ぼされちゃうの~!」
「いいじゃん、そのうち大王様は疫病で死ぬんだから」
どういうこと?俺は夢でも見てるんだろうか。それとも酒に酔ったのか?どう考えても意味不明の会話が繰り広げられている。そのうち5番が『やられたー』とか言って、席を立っていった。
一体、どういうゲームになっているんだ?
頭が切り替わらないうちにクジを引かされた。番号は4番。
「王様だーれだ!」
王様と指名されたのは、一番左端に座っていたバイトの同輩だった。
「じゃあ、1番のハンニバル・バルカさんは、カンナエで7番のルキウス・アエミリウス・パウルスを攻めちゃって!」
いや、お前何言ってるんだ?!まず誰だよそれ。攻めるって何?カンナエってどこ?お前の口からそんな言葉聞いたことないぞ?!
「えー、俺、虐殺されるの?」7番が嘆いた。
「いいじゃーん、そのあと1番はやられるんだから」王様の同輩が笑う。
「お前も道連れだよ!」1番が叫んだ。
とても飲み会の席とは思えない言葉が飛び交っている。一瞬、大勢の敵に囲まれた兵士たちが見えた気がした。これは地獄というのだろうか。そんなことを考えているうちに、1番も7番も王様の同輩も消えていった。
段々と人数が減っていく。次のクジは6番。
「王様だーれだ!」
『はーい!おれでーす!』と言ったのは先輩だった。
「2番の楊国忠と3番の安禄山で上手いこと運営しといて?おれは5番の楊貴妃と良い感じにやっとくから」
先輩はそういうと隣に座っていた女性の肩を抱いた。バイトで知り合って、先輩がデレデレに惚れまくっていると噂の彼女だ。
「先輩いい加減にしてくださいよ、バイト中もイチャイチャするのは!」3番が叫ぶ。
「俺の従妹を悪く言わないでくださいよぉ」2番が弱弱しく語った。
「えっ?お前、俺に逆らうわけ?」先輩は彼女の肩をさすりながら、3番を煽った。
3番は歯をギリギリと鳴らしながら、今にも飛びかからんばかりだ。確か、3番の人も先輩の彼女を狙っていたんだったかな?まぁ人の恋路はどうでもいい。
ちょっとトイレ、と先輩は席を立った。その間に、3番が2番に襲い掛かっていた。よく分からない展開だ。そのうち、先輩を追って彼女も消えていった。
「王様だーれだ!」
俺の番号は1番。例の彼女はまだ残っていた。
王様に指定されたのは、バイト仲間の中でも少し変わった髪型をしたやつ。無口であまり友達もいなさそうだが、どうやら格闘技をやっているらしい。喧嘩をしてはいけないタイプだ。
「・・・6番の高麗さん、5番の南宋さん連れて・・・2番の日本攻めてください・・・」
王様は小さくぼそっと語った。呼ばれた2番は何を言われたのか聞き取れずに、3回ぐらい聞きなおしていた。
「いやですよー、あいつら糞投げてくんだもん」
5番と6番が揃って答えた。一応食事の席なんだがなぁ。5番と6番は渋々従っていたが、そのうち「もう帰る!」と怒って帰ってしまった。2番は少し弱ったように見えた。
「王様だーれだ!」
俺は自分のクジを見た。『王様』と書かれてある。えっと俺が王様か・・・何を言おうかな。そうだ、例の彼女が当たるといいなぁ。
そんなことを考えていると、隣に例の彼女が移動してきた。酔っているのか、顔が赤らんで目も少し潤んでいる。いい感じだ。
「はい、2番の彼女は王妃『マリー・アントワネット』さんで~す!」
えっ?
突然誰かが彼女を指名した。それって王様がやるんじゃないの?しかし、戸惑う俺を無視して周りが段々と盛り上がってきた。
「さぁ王様!どうしますか?今日は8月10日ですよ?早く命令しないと捕まっちゃいますよ?」
どういうこと?俺はフランス人じゃないぞ?隣にいる彼女も震えだした。
「さぁさぁどうします?王様!早くしてください!」
まるで裁判のように周りに囲まれ、俺は更に戸惑った。誰か、誰か助けてくれ・・・
「王様だーれだ!」