謎のアビリティ
【纏雷】【対雷耐性】
「……もしかして、MAGが上がったから出たのか?」
魔法の出現か、とソラはにわかに興奮する。
早速アビリティを変更。【纏雷】【対雷耐性】の二つをセットする。
二つセットしたのは、ただの直感だ。
纏雷という名前は、雷をその身に纏うアビリティだと推測出来る。
だからもしかしたら、ただ纏うだけでは反発ダメージがあるのでは? と考えたのだ。
立ち上がり、ソラは意識を体に向けて集中する。
アビリティの使い方は、セットした瞬間に理解する。
まるで呼吸のように、はじめからあった感覚として、突如認識に浮かび上がるのだ。
記憶にはないのに、何故か出来るという確信がある。
不思議な感覚だった。
ソラはさらに集中力を高め、【纏雷】を発動した。
次の瞬間だった。
――パチン!
耳元で、静電気が起こった音が聞こえた。
(電気だ! 電気が出た!)
魔法っぽい現象に、ソラは歓喜する。
しかしその歓喜は、時間とともに萎んでいった。
「……えっ、なに、これだけ?」
しばらく待っても、何も起こらない。
手から雷が出るわけではないし、家電製品がパルス波で壊れるわけでもない。
パチンと耳元で静電気の音が聞こえた。
【纏雷】がもたらした変化は、ただそれだけだった。
ソラはがくっと肩を落とす。
「攻撃魔法、じゃないのか……はあ。いや、まあ、何もなくて良かったか」
幸い、部屋に異常は見当たらない。
もしこれが攻撃魔法であれば、ソラの部屋は今頃大惨事だった可能性が高い。
そもそも、攻撃魔法を自分の部屋で使用するなど危険極まりない。
冷静になってからやっと、ソラはその事実に気がついた。
それくらい、魔法らしきアビリティの出現を喜んでいたのだ。
「纏雷……一応は、雷を纏った、のか。勘だったけど、対雷耐性も一緒に装着しておいてよかった」
もし耐性を付けていなかったら、今頃ソラは雷を纏って痺れていたかもしれない。
今後纏雷を利用する場合は、耐性も必ずセットにするべきだろう。
「といっても、今後使用するかは微妙なんだよな。雷を纏って抱きつく? もしくは攻撃? 静電気レベルの雷で、ダメージが増えるかな……」
今のところ、戦闘に使えるイメージがまるで湧かない。
どう使えば良いのかさっぱりである。
纏雷は発動させられた。
使い方については、後日実戦で試していけば良い。
「丁度、試すのにもってこいの場所に行けるようになったしな」
そう呟いて、ソラはインベントリに入れておいた、冒険者協会理事から貰った特殊なカードを眺めるのだった。
○
冒険者協会を襲ったスタンピードが終了した後。理事である春日渉は、職員たちに後処理を指示しながら、ずっとある人物について考えていた。
その人物とは、娘のさくらを救ってくれた、天水ソラである。
彼は、テンポラリーダンジョンBランクのボスを、たった一人で打ち倒した。
ダンジョンボスを倒すなら、ランクが同格の冒険者ならば5人必要と言われている。
ワンランク下のボスならば、理論上はソロでも討伐が可能だ。(決して容易な戦いではないため、ソロでボス討伐にチャレンジする者はほとんどいない)
結果だけを見れば、天水はAランク以上の冒険者だ。
間違いなく、日本屈指の冒険者に名を連ねる実力がある。
にも拘わらず、現在彼の認定ランクはDだった。
認定ランクと実力の齟齬があまりに。
一瞬、しばらくランク測定をしていないのかとも思ったが、渉はすぐに否定した。
彼は既に、1ヶ月以内に一度、自身のランクを更新していた。
「たった1ヶ月で、DランクがAランクになるものだろうか?」
渉の経験では、DランクからAランクに至るまで3年はかかった。
それと比べると、天水の成長速度はあまりに速すぎる。
冒険者は、ダンジョンで魔物を倒して、死んだ魔物のマナをその体に吸収する。
その力を蓄えていくことで、強くなっていく。
器が小さいものは、蓄えられる力の量が少なく、低いランクで頭打ちになる。
器が大きければ大きいほど、より高いランクへと成長していける。
その器の大小によって、冒険者の実力の限界が決まるのだ。
しかし、成長速度は器の大小に比例しない。
ならば、何故彼はそこまで素早くランクを上げられたのか?
「まさか、自分よりも強い魔物と戦い続けたのか?」
それならば、天水の成長速度に一定の説明が付く。
倒した魔物によって、器を満たすマナの量が違う。
Eランクの魔物と、Aランクの魔物では、後者の方が圧倒的に放出されるマナが多い。
なので常時、自分よりも強い魔物を倒し続ければ、他の冒険者に比べてより早く成長することが可能である。
しかし、現実問題として、自分よりも格上の相手と戦い続けるのは不可能だ。
同格の相手であっても、僅かなミスが命取りになる。
格上に挑もうものなら、指一本触れられずに殺されたとしても、なんの不思議もない。
ランクの差は、それほどまでに大きいのだ。
「いったいどういう戦いをしてるのか、すごく興味があったんだけどねぇ」
渉がため息を漏らした。
本当ならば、渉は自分の目で天水の戦いを観察するつもりだった。
天水をボスと戦わせたのは、それが狙いだった。
もちろん、天水を危険にさらすつもりは一切なかった。
万が一があれば、渉はすかさずシールドで天水への攻撃を防いでいた。
そのために、万全の態勢を整えていた。
ボスが建物の外に逃げないよう、シールドで逃げ道も塞いでいた。
だが、そこで予想外の事態が発生した。
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