表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/75

奥の手

「剣が!」


 ベガルタが振るった剣が、天水の右手の剣を根元から断ち切った。

 緊迫感から、一瞬が永遠に引き延ばされる。


 剣を斬ったベガルタが、にやっと歪な笑みを浮かべた。

 勝利を確信した笑みだ。


 対して天水の顔は見えない。

 彼は若干、バランスを崩していた。

 攻撃を受けそこなったからだ。


 すかさずベガルタが斬り返す。

 まるで地面から跳ね返ったかのように、小剣が天水の喉元に迫る。


 もし天水が死ねば、次は自分たちだ。

 碓氷たちでは、あのベガルタの攻撃に対応出来ない。


(死にたくない。まだ、死にたくない!!)


 コマ送りの世界の中で、碓氷は思わず叫んでいた。


「天水さんっ!!」


 次の瞬間だった。

 天水が腰から何かを引き抜いた。


 ――タタタタタンッ!!


 鼓膜を劈く破裂音と共に、ベガルタが後ろに吹き飛んだのだった。




          ○



 Dランクの武器が、あっさり切断された。

 落ちる剣身を眺めながら、ソラは落胆する。


(折角手に入れたメイン武器だったのに……)


 精錬も一回しかしていない。

 まだ将来性のある武器だった。


 それが破壊されて、ソラは落胆する。

 しかしそれもコンマ一秒に満たない間だけ。

 すぐに気持ちを切り替える。


 武器の切断は想定内だ。

 ソラは折れた剣を即座に手放し、腰に手を伸ばした。

 ベルトに差した武器を引き抜き、ベガルタ目がけて一気に引金を引いた。


 それを見て、ベガルタが目を見開いた。だがもう遅い。


 ――タタタタタンッ!!


「――ッ!?」


 射出された魔法が、彼の体を吹き飛ばした。


 ソラが使ったのは、Dランクのダンジョンで手に入れた『完璧な水鉄砲』だ。

 水鉄砲は一日に10回、水魔法が使用出来る武器だ。


 魔法だけでなくサブ武器としても利用したいので、+10にした炎剣とは違い、精錬は控えめの+2だ。

 それでも、驚く程の攻撃力だった。


 ファイアボールをまともに食らっても平然としていたベガルタに、手傷を負わせた。


 傷は、貫通しているものが一つと、表面で止まったものが四つだった。

 どうやら初撃にのみ、【一撃必殺】の効果が乗ったようだ。


(本当なら【弱点看破】の線を撃ち抜きたかったんだけどな)


 ほんの僅かな間隙で、ソラは【弱点看破】の線を狙った。

 だがベガルタもさるもの。刹那の間に、首や心臓など急所をガードしてみせた。


 恐ろしく場慣れしている。

 戦闘の経験が段違いだ。

 だが、その経験をソラの機転が上回った。


「く、そっ。まさか、水魔法を撃てる武器を持ってやがるとは……」


 ベガルタがぼやきながら立ち上がる。

 腹部からはいまも血液が溢れ出ている。

 かなりの大けがだ。これまでのように戦えはしないはずだ。


 それでもソラは、慎重に間合いを詰めていく。

 自分と同じように、相手に秘策があるかもしれないからだ。


 力が拮抗した相手との戦闘は、たった一手で生死が分れるものだ。

 だから、最後まで気を抜かない。


 意識の底へ、深く、深く、潜っていく。

 集中力が限界に到達。

 回りから、不要な情報がそぎ落とされる。


 ベガルタと自分だけがいる世界。

 相手の一挙手一投足を注視する。

 反撃の予兆を、決して見逃さない。


「ふぅ……」


 息を吸って、停止。

 一気に距離を詰めた。


 ベガルタが剣を構えた。

 剣に短剣が触れる。

 その前に、急停止。


 水鉄砲を持ち上げる。

 即座にベガルタが射線から逃れた。

 逃げた先を、短剣で斬りつける。


「――クッ!」


 ベガルタの肩を深々と切り裂いた。

 攻撃力は、問題ない。

 当たれば確実にベガルタを落とせる。


 ソラは、回転数を上げた。

 それにベガルタが食らいつく。


 再び、一進一退の攻防に入るかに思われた。

 だが戦況は拮抗せず、ソラに傾いたまま。


 斬って、突いて、構えて、フェイント。

 攻撃誘導、カウンター。


 ベガルタの体に、次々と赤い線が刻まれていく。


「ふざけんじゃねぇぇぇえ!!」


 ベガルタが、雄叫びを上げた。

 ――奥の手か?

 ソラは注意深く、相手の出方を窺う。


「巫山戯んじゃねぇぞ! クソッ、何が転生だ! こんなに力が落ちるなんて聞いてねぇぞ、騙しやがったな糞マコウ!!」


 地団駄を踏み、牙を剥く。


「俺は獣皇だ。最強の獣人だぞッ!! アインツヴァルドなら、こんな雑魚野郎なんて一撃だ! 一撃でぶっ殺せるのに! クソッ! クソッ! クソッ!!」


 怒りを露わにするが、ベガルタから切り札が出てくる気配がない。


 相手が僅かに、ソラから視線を外した。

 それに気付いた瞬間、【隠密】を発動。

 ソラはゆっくりと、相手に近づいていく。


 ベガルタは獣人だ。

 リカオンと同様に、鼻が利く。

【隠密】を使っても、無効化される。

 ただし、相手が冷静であれば、だ。


「こんなところで、死んでたまるか!」


 憤激したベガルタがギロリ、碓氷たちへと充血した目を向けた。

 その口から、血が混じった唾液がしたたり落ちる。


「俺の、糧にしてやる。テメェらを食って、力を取り戻す!!」


 ベガルタが、一歩前に足を踏み出した。

 次の瞬間。


「お前の相手は、僕だろ」

「あ――」


 背後に回ったソラが、ベガルタの首へと短剣を突き刺した。

【弱点看破】の光が灯るそこは、人体の急所――延髄だ。


 延髄は、なんの抵抗もなく短剣を受け入れた。

 一度体が大きく痙攣し、ベガルタはそのまま地面に倒れ込んだ。


〉〉レベルアップしました

〉〉レベルアップしました

〉〉レベルアップしました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ