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相手の実力を観察する

 人狼の声と共に、炎が何の前触れもなくかき消えた。

 人狼は、生きていた。

 所々体毛が焦げてはいるが、ダメージが通じた様子は見られない。


「う、嘘でしょ……ファイアボールが完全に決まったのに!」

「これで確定だな。この星のニンゲンは弱い。ラッキーだ」

「な、なにを言ってるのよ」

「んじゃまあ、魔法を見せてくれたお礼にこれを――」


 人狼が前屈みになり、地面に転がっていた小石を拾い上げた。

 それを握りしめ、


「くれてやるよっ!」

「えっ……?」


 目にも留まらぬ速度で投げつけた。

 魔法使いは、投擲攻撃に意識が追いついていない。

 回避は不能。

 他のメンバーも、身動きすら出来ずにいる。


 あとコンマ一秒で接触する、その瞬間。


 ――ィィィイイイン!!


 ソラは小石を剣で払いのけた。


「…………」

「……ほぅ?」


 攻撃を防いだことが意外だったのか、人狼が目を丸くした。


(冗談じゃない)


 ソラは唾棄したい気分だった。

 先ほどの小石の衝撃が、まだ右手に残っている。


(いったいどれだけ馬鹿力なんだ!)


 恐るべきは、殺気がなかったことだ。

 人狼は人殺しをなんとも思っていない。


 おかげで防御が遅れるところだった。

 もしソラが遅れていれば、今頃魔法使いは頭を失っていただろう。


 その威力を肌で感じたか、魔法使いがぺたんと腰を落とした。

 他のメンバーも、顔が真っ青だ。

 自分たちの力が一切及ばない相手だと、やっと気付いたのだ。


 震える碓氷に、ソラは尋ねる。


「碓氷さん、約束、必ず守ってくださいね」

「……はっ? 約束、ですか?」

「僕がこれからすることは、他言無用です」

「わ……わかりました」


 ガクガクと震えながら、碓氷が何度も頷いた。

 それを受けて、ソラは覚悟を決める。


 一人、前へ歩み出てインベントリを操作した。


「おっ、なんだ、テメェが一番に死にてぇのか」

「……」


 相手の挑発に乗らず、ソラは怨嗟の炎剣を取り出して、即座に発動。

 ――ゴゥ!!


 赤いオーラを纏った炎剣の先端から、巨大な炎が噴出した。


(すごい)


 それを見て、ソラは目を丸くした。

 +10まで上げたおかげか。以前に使った時よりも、威力と範囲が格段に上昇している。


 その炎が、リカオンの群れを包み込んだ。


 人狼を狙ったとて、致命的なダメージを与えられる保証がない。

 そのためソラは、ダメージを与えられるであろうリカオンをまず先に倒すことにしたのだ。


 魔法の焦熱に焼かれ苦しむリカオンから悲鳴が上がる。

 バタバタと、リカオンが次々と倒れていく。


〉〉レベルアップしました


「……誰が先に死にたいって?」

「舐めんなよ、ニンゲン」


 人狼が怒りの表情を浮かべた。

 ぐっと腰を下ろし、下肢に力を蓄えた。


 来るか?

 ソラは身構えた。

 しかし人狼は、なにかに気付いたように目を見開いた。


「なんだテメェ、どっか嗅いだ臭いだと思ったら、もしかしてシコウか? てかなんだよその姿。転生失敗か?」


 ケタケタと人狼が笑う。

 その笑い声が、ソラの心を激しく逆撫でた。


 とはいえ、人狼の笑い方は普通と大きく変わらない。

 おそらく彼の言葉が、ソラの深い所にある何かを刺激したのだ。


 シコウ。転生失敗。


(まさか、あの黒い玉のことか?)


 剣を奪われた日、ソラは黒い玉を拾った。

 その煙を吸収した直後から、ソラはランク制限が突破出来るようになり、またステータスボードも使えるようになった。


 この力が、人狼の言う『転生に失敗したシコウ』なのだとしたら、


(けど、転生ってどこから……?)


 考えるけれど、わからない。

 人狼がいったいどのような情報を持っているのかが、ソラは気になった。


 だがそれよりも、先ほどからソラの胸の中にある憎悪が膨れ上がり続けている。

 得体の知れない感情が、抑えられない。


 ソラの意識が、強制的に沈み込んでいく。

 集中力が上がり、不要な情報がそぎ落とされていく。


「しっかし、ニンゲンなんかに乗っ取られてやがって、ダッセェ奴だな!」

「……最期の言葉は、それでいいのか?」

「…………ふざけろ!」


 次の瞬間。

 憤怒の形相を浮かべた人狼が、猛烈な速度で接近。

 ソラは半身になり、切っ先を持ち上げる。

 それを人狼の爪に当て、受け流す。


 ――ギィィ!!


 耳障りな金属音。

 人狼の爪が、鎬を滑り抜ける。


 その勢いを利用して、回転。

 短剣で相手の脇を狙う。

 しかし、人狼は素早くバックステップ。

 ソラの攻撃が空を切った。


(速いな)


 敏捷性には自信があった。

 特にいまのカウンターは、間違いなく決まると確信していた。

 だが、あっさり躱されてしまった。

 人狼の敏捷性は、ソラと同等かそれ以上なのだ。


「おっと危ねぇ危ねぇ。もう少しで当たるところだったぜ」


 人狼がおちゃらけるように肩を竦めた。

 ちっとも危ないと思っていない様子だ。


 その時、ピシッと生木が割れるような音が響き渡った。


「おっ、そろそろゲートが開くみてぇだな。ってことで、遊びはこれまでにしようか」


 そう言うと、人狼がなにもない空間から一本の小剣を取り出した。

 刃渡り四十センチほどの小剣からは、ただならぬ気配を感じる。


(これじゃあ、無理か)

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