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2章プロローグ

本日より2章スタートです!

 とあるDランク固定ダンジョンの横穴の中で、三人の冒険者が肩を震わせていた。


 この場に来てから、もう二時間が経過しようとしている。

 彼らはここで休息を取っているのではない。

 動けなくなってしまったのだ。


「おい、なんでアイツずっとここから動かないんだ」

「俺らを狙ってんだろ!?」

「クソッ、なんでこうなったんだよ!」


 彼らの視線の先には、目が八つある巨大な蜘蛛がいた。

 このダンジョン――の中ボスだ。


 冒険者は三人ともDランクだ。

 このダンジョンで、通常モンスターを相手にするなら、安全マージンを確保出来るレベルである。


 だが、ボス級が相手だとそうはいかない。

 特に目の前にいる巨大蜘蛛は、まるで歯が立たなかった。


「もっと人数がいれば……いや、さすがに沢山いてもあれは無理だよなあ」

「遠距離アタッカーがいれば行けるか?」

「さすがに、少しいたからって倒せる相手じゃなさそうだぞ?」


 蜘蛛は八本足で、かつ八つの目を持っている。

 たとえパーティメンバーが八名いたとしても、相当呼吸を合わせなければ、蜘蛛の足のガードを超えられない。


 遠距離アタッカーがいれば、多少はダメージを与えられるだろう。

 しかし、一撃で倒せなければ相手を怒らせるだけだ。

 相手が巨体なので、突進されるだけでも厄介だ。


 怒らせて突進攻撃を連発された日には、パーティの陣形がぐちゃぐちゃになって敗北必至だ。


「逃げてる間に、少し攻撃してみたけど、全く通じなかったしな」

「あれ、どうやって倒すんだよ」

「俺たち、帰れんのかな……」


 Dランクの冒険者では、何人いようと太刀打ち出来るビジョンが浮かばない。

 Cランクの冒険者パーティでなければ討伐が不可能だ、というのが三人の共通した意見である。


 現在三人は、ダンジョンの壁にある隙間に身を潜めている。

 ダンジョンから出るには、この隙間から出なければならないが、外には蜘蛛がいる。

 手持ちの食糧は、高カロリーバーが三本と、水のみ。


 状況は絶望的だ。

 これが尽きるまでに、救援が来るかどうか……。


「「「はあ……」」」


 考えると、ため息が漏れた。

 その時だった。


「一つ、尋ねていいですか」

「――ッ!?」


 突如、隣から知らない男の声が聞こえ、三人が一斉に肩を震わせた。

 いまは、近くに中ボスの蜘蛛がいる状況だ。常に緊張状態にある。にもかかわらず、男が声をかけてくるまで、三人の誰もが男の接近に気づけなかった。


「誰だ!?」

「驚かせて申し訳ありません。攻略に来た冒険者です」


 黒い外套を身に纏った男が、軽く頭を下げた。

 このダンジョンにいるということは、Dランク以上ではあるのだろう。

 しかし、顔に見覚えがない。


(Dランクであればある程度顔を知っていると思っていたんだが……)


 もしかしたら、Dランクではないのかもしれない。

 その顔立ちだけを見れば、決して屈強な冒険者とは思えない。

 だが男には、Dランクの冒険者の自分ですら、そう簡単には手が出せないと思わせるだけの威圧感があった。


「それで質問なんですけど、アレは攻略中ですか?」

「……アレ?」

「はい。あの大蜘蛛です」

「とと、とんでもない! 身を隠してるだけですよ」


 恥を忍んで、事実を打ち明ける。

 なるべくなら弱みを見せたくはなかったが、自分の命がかかった緊急時だ。なりふり構ってはいられなかった。


「そうですか。では、アレを狩ってもいいですか?」

「へ? え、ええ、狩れるなら是非。アレがいるせいで、こっちも身動きが取れなかったので」

「それはよかった。じゃあ、倒しますね」


 男がほっとしたような笑みを浮かべた。

 彼が確認したのは、討伐権だ。


 討伐権は最初に接触、または攻撃した冒険者パーティが持っている。

 討伐権はあくまで暗黙の了解、冒険者同士のマナーでしかないが、守っている冒険者は多い。


 というのも、守らなければ最悪互いが互いを潰し合って、結局誰も得をしないからだ。


(中ボスを狩りに来てる、ってことは、助かるのか!)


 冒険者三人は、無事帰還出来そうな気配を感じて歓喜する。

 しかし、すぐに気付く。

 現われた男以外に、冒険者の気配を感じない。


(パーティで倒すんじゃないのか?)


 疑問に思った、その時だった。


「エッ――!?」


 男の姿が、一瞬でかき消えた。

 まさかと思った。だが何度瞬きをしても同じ。男がいない。


 いったいどうなっているんだ?

 そう思い、辺りを見回した時だった。


 ――ズゥゥン!!


 巨大な蜘蛛が、突如力を失い地に落ちた。

 その頭上に、件の男の姿があった。


「「「はいぃっ!?」」」


 それを見て、冒険者三人が目を剥いた。

 なんと男は蜘蛛の頭に、剣を突き刺しているではないか!


「いったいいつの間に!?」


 自分の目では、彼の動きをまるで捉えられなかった。

 とてつもない早業だ。


 ダンジョンが、地面に斃れた蜘蛛の回収を始めた。

 ずぶずぶと、その巨体が地面に埋もれていく。


「うそ……だろ……」


 いま目の前で起こった光景を、三人は受け入れられずにいた。

 こちらも一度は攻撃を試みた。

 だが蜘蛛には一切ダメージを与えられなかった。

 だから、きっとDランクの冒険者では太刀打ち出来ないんだろうと思っていた。


 その相手を、たった一撃で倒してしまうだなんて、いったい誰が予想出来ただろう?


「すげぇ……」

「と、とんでもねぇ」

「……強すぎる」


 三人の口から、そんな言葉が自然と漏れた。

 蜘蛛の血に濡れた剣を血振るいして、鞘に収めた。その男が空中を見て、微笑んだ。


(いったいなにを見てんだ?)


 男の視線の先を見るが、何もなかった。


「中ボス、ありがとうございました。それじゃあ」


 男は感謝の言葉を口にしてから、再び目の前から姿を消した。

 まさに早業。

 一瞬の出来事だった。


「いったい、なんだったんだあれは……」

「「…………さあ?」」


 男も蜘蛛も居なくなったダンジョンの中で、三人の冒険者はしばし呆然と立ち尽くしていたのだった。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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