誰かを守るため
慌ててソラは速度を上げる。
地面を蹴り、ぐんぐん加速する。
角を曲がって、魔物が見えた。
その前に、小学生くらいの男の子がいた。
地面に腰を落とし、ブロック塀に背中を付けている。
もうそれ以上下がれないのに、ボロボロと涙を流しながら後ろに下がろうと足を動かす。
その子ども目がけて、カマキリが鎌を振り上げた。
(間に合えッ!!)
ソラは息を止め、全力で地面を蹴った。
カマキリの頸目がけて、短剣を突き出した。
――ザンッ!!
カマキリが鎌を振るう、その前に、
ソラはカマキリの頸を切り落とした。
しかし、振り下ろされた鎌が止まらない。
振り返り、ソラは少年の無事を確かめる。
カマキリの鎌は、ブロック塀に突き刺さり、少年の頭上で運良く止まっていた。
「……はぁ、よかった」
少年が無事で、ソラはほっと胸をなで下ろした。
もし少年が殺されていたらと思うと、ぞっとする。
ソラは腰を下げて、少年と目線を合わせた。
「きみ、大丈夫?」
「…………う、うん」
目の前の出来事が上手く飲み込めていないのか。少年は呆然としたまま頷いた。
しかしすぐに、その目に生気が戻ってきた。
その生気は、瞬く間に膨れ上がって、キラキラとした眼差しに変化した。
「お兄さん、凄い!」
「えっ?」
「格好いい! 冒険者なの?」
「う、うん」
先ほど死にそうな目にあったとは思えないほど、少年の目には光が灯っていた。
その声も、実に生き生きとしている。
(……とりあえず、トラウマにはならなさそうかな?)
魔物に殺されかけたことで、PTSDになるのを怖れていた。
だが、その気配は感じられない。ほっと胸をなで下ろす。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
「うん。きみが無事でよかった」
「お兄さん、強いんだね!」
「う、うん……」
ソラは少し前までFランクで、現在Dランクの冒険者だ。
以前よりは強いが、まだまだ上がいる。
今の自分を強者だとは思えないが、少年から見たら強い冒険者なのだ。
ここは頷いても、間違いはあるまい。
そう言い訳をして、ぎこちないながらも頷くのだった。
「本当に、ありがとうございました!」
「気をつけて帰るんだよ」
少年を見送りながら、ソラは気がついた。
胸が、とても温かい。
それはどんなボスを倒したときよりも、どんなダンジョンを攻略した時よりも強い温もりだった。
その温もりをくれたのは、あの少年だ。
『助けてくれて、ありがとうございました!』
少年の感謝が、ソラの心を温めたのだ。
それは何故か?
考えると、自ずと答えが見付かった。
「……そうか」
ソラは独りごちる。
これまでのソラは、あのEランク冒険者への反発心から、強くなろうと思っていた。
もう二度と、踏みにじられないように、奪われないようにと。
それが間違いだったとは、いまでも思っていない。
反発心、反骨心は、人間の成長には不可欠だ。
けれど、それだけでは足りなかったのだ。
――なんのために強くなるのか?
もう一つの答えを、あの少年が持っていた。
ソラが強くなるのは、もう二度と踏みにじられないため。
そしてもう一つ。
――誰かを守るためだ。
そのために強くなろう。
そう、ソラは決意した。
あの少年のような、キラキラした笑顔を守るために……。
名前:天水 ソラ
Lv:35 ランク:D
SP:15 職業:中級アサシン
STR:55 VIT:55
AGI:60 MAG:0 SEN:36
アビリティ:【成長加速】【中級二刀流術】【弱点看破】+
スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】
装備(効果):ライフブレイカー、ゴブリンキングの剣、革の胸当て+、亡者のローブ(隠密性+)、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ(隠密性+)、吸血の腕輪(AGI+16)、緩衝のネックレス(VIT+16)
装備詳細
名称:ライフブレイカー ランク:S
攻撃力:60 精錬度:1
装備条件:AGI+60
名称:ゴブリンキングの剣 ランク:R
攻撃力:43 精錬度:6
装備条件:STR+50
名称:ゴブリンキングの小手 ランク:UC
防御力:22 精錬度:6
装備条件:STR30
名称:革の胸当て+ ランク:UC
防御力:22 精錬度:6
装備条件:VIT30
名称:亡者のローブ ランク:R
防御力:41 精錬度:6
装備条件:AGI+60
名称:漆黒のブーツ ランク:UC
防御力:11 精錬度:6
装備条件:AGI+60
名称:吸血の腕輪 ランク:R
AGI:16 精錬度:6
装備条件:なし
名称:緩衝のネックレス ランク:R
VIT:+16 精錬度:6
装備条件:なし
× × × × × × × × × ×
――ッ……ッッ――!!
ダンジョンの中に、肉が膨張する音と共に、魔物の断末魔の咆哮が響き渡った。
叫び声を上げたのは、リカントと呼ばれる狼型の魔物だ。
その魔物は、しかし既に絶命していた。
裏返った白目。口からあふれ出した血色の泡。
リカントの体が、ビクビクと痙攣する。
その動きは次第に大きくなり、やがて、肉が爆ぜた。
「……ふぅ。やっとこっちの世界に転生出来たか」
リカントの中から、一人の獣人が現われた。
見た目はAランクのダンジョンに出てくる、ワーウルフに似ている。
だがワーウルフとは決定的に異なる点がある。
それは、人語を操れることである。
「ったく、めちゃくちゃ時間掛かるんじゃねぇかよ。ほんの少しの辛抱とか言ってた魔皇め、覚えてやがれ!」
ブツブツと呟きながら、男は乱暴にリカントだった肉を脱ぎ捨てていく。
調子を確かめるように、大きく体を動かした。
「最悪だな。力が滅茶苦茶落ちてやがる。これは力を取り戻す時間が欲しいところだが……、他の奴らはいないみたいだし、一人でやるか」
腕を回し、男は前を見据えた。
そこには、大量のリカントの群れがいた。
だが様子がおかしい。
リカントといえば、群れれば群れるほど攻撃的になる魔物だ。
それが今は、完全に怯えていた。
――目の前の男を、怖がっているのだ。
男がにっと残酷な笑みを浮かべた。
「獣よ、俺の血となり肉となれ。そして礎となれ。この世界を掌握するための、な」
以上で1章が終了となります。
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