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春日さくら

月間ローファン1位になりました!

これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!

 ソラと別れた春日は、馴染みのパーティと合流した。

 今日は七人でDランクのテンポラリーダンジョンを攻略する。


 パーティの内訳は、Cランクが3人、Dランクが4人だ。

 ダンジョンのランクを優に上回っているため、攻略は簡単だ。


 簡単だった、はずだった。


「いったい、どうなってるの……」


 それを見た時、春日は全身の血が引ける音を聞いた。


 ボス部屋の中心部。

 そこには、闇があった。

 闇から這い出たような生き物がいた。


 黒いローブを身に纏った、骸骨の魔物だ。


「リッチー」


 誰かがぽつりと呟いた。


 強い死の気配を感じる。

 背筋がゾクッと粟立った。


「うそ……」

「なんで」

「そんな馬鹿な」


 春日は自分の目を疑った。

 何故ならリッチーは、Dランクのダンジョンには居るはずのない、Cランクのボスだからだ。


 それも、Cランクで最も凶悪と言われる手合いである。


 事実、部屋に踏み込んだ瞬間に、メンバー全員がリッチーの気配に吞まれていた。


「変異、ダンジョン……」


 誰かの呟きに、春日は内心相づちを打った。


 ここまで、ダンジョンにはなんの異変もなかった。

 通常モンスターはDランクのスケルトンだったし、数が特別多いということもなかった。

 すべて上手く行くと思っていた。


 ガタガタと体が震える。

 頭は真っ白で、なにも考えられない。


「足を止めるな! 動け!」

「――ッ」


 パーティのリーダーである稔田の怒声で、春日は我を取り戻した。

 途端に恐怖で塗り尽くされた景色が、ぱっと開けていく。


「……フィアー」


 それはリッチーが常時発動している精神魔法だ。

 恐怖を植え付け、相手の動きを止める。


 今回は稔田のおかげで立ち直れたから良いが、もしそのまま恐怖に吞まれていたらと思うとぞっとする。


 春日が杖を構えた時、既に稔田が動いていた。

 盾を巧みに使いながら、剣でリッチーを攻撃する。


 稔田はCランクのアタッカーだ。

 その攻撃に、さしものリッチーもノーガードではいられない。

 剣を躱し、あるいは両手で受けながら、ギリギリで凌いでいく。


 ヒールをいつでも発動出来るよう、魔力を高めながら、春日は思った。


(これならいける!)


 他のアタッカーも、フィアーから立ち直り攻撃を行なっている。

 バッファーも、相手の動きを阻害する魔法を放っている。


 勝利のパターンに入った。

 これで、勝てる。


 そう確信した、次の瞬間だった。


 ――ドッ!!


 肉が打たれ、鉄がひしゃげる音が部屋の中に響き渡った。


「――えっ?」


 いま目の前で起こった現象を、春日はすぐに理解出来なかった。


 稔田を中心にして、メンバー全員がリッチーを攻撃していた。

 こちらのメンバーは、完全にリッチーを押していた。

 だが、リッチーが手をかざしたと思った次の瞬間に、前で戦っていたメンバーが全員、真横に吹き飛んだ。


 これが、Cランク最凶のボス。

 これが、リッチーの攻撃魔法か。


 はっ、として春日はすぐにヒールを送る。

 まずは攻撃の要の稔田からだ。

 彼さえいれば、立て直せる。


 辻ヒールで鍛えたおかげで、春日のヒールがみるみる傷を癒やしていく。


 万全の状態になる前に、稔田が立ち上がった。

 これ以上自由にさせると、今度は後衛が危険だからだ。


 無理をおして、稔田がスキル【タウント】を発動。

 リッチーの憎悪を、一身に引き受ける。


 そこから春日は仲間たちを回復させていく。

 態勢を立て直し、リッチーに攻めかかる。

 だがやはり、ある程度まで抑え込んだところで攻撃魔法が来る。


 陣形を崩されて、回復して立て直してを繰返す。


(いったい……戦い始めてからどれくらい経ったの……?)


 一時間、二時間……。

 戦えど戦えど、終わりが見えない。


 もう幾度もヒールを使った春日の体は、小刻みに震えていた。

 魔力欠乏だ。

 過酷なトレーニング直後のように、体が重い。


 気を抜けば崩れ落ちそうだ。


(でも、ここで私が音を上げたら、みんな死んじゃう!)


 持久戦で回復役のダウンは致命的だ。

 だから春日は必死になって、ヒールを行なった。


 だがそれも、ただ無駄に戦闘を長引かせる結果にしかならなかった。


 リッチーにはほとんどダメージが入っていない。

 対してこちらのメンバーはガタガタだ。いつ崩れてもおかしくない。


 リッチーが魔法を行使。

 これでもう何十度目になることか。

 不可視の魔法が稔田の体を吹き飛ばした。


 即座に春日がヒール。

 その間に、


 ――バッ!!


 前衛二人の頭部がはじけ飛んだ。


「――ッ!!」


 春日の頭を絶望が埋め尽くした。


 前衛二人は、これまでリッチーに攻撃を加えてきたアタッカーだ。

 現状でもダメージを与えられないのに、アタッカーが減らされた今、リッチーを倒すのは不可能だ。


「……もう……駄目、なの……」

「――か、春日!!」

「――ッ!」


 稔田の大声で、春日が我を取り戻した。

 前衛二人の死は、とても哀しい。けれど、それで動きを止めてはいけない。

 ヒーラーは、パーティメンバー全員の命に責任を持つ立場だ。

 そしてまだ、残る5人のメンバーは生きている。


(絶対に、死なせないっ!)


 春日は気力を振り絞り、全員にヒールを行なった。

 だが、すぐに限界が訪れた。


 稔田へのヒールを行なった直後、春日は膝から崩れ落ちた。


「えっ、嘘……」

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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