受けた恩は倍返し
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ソラの警戒度がぐんと上がる。
だが、よくよく確認すると、冒険者たちは特段殺気立ってはいなかった。
「スタンピードの線はないか」
そのまま家に帰ろうとするも、何故冒険者が集まっているのかが、ほんの少し気になった。
ソラはその地点へと、【隠密】を使用しながら近づいていく。
向かったのは、どこにでもありそうな小さな公園だった。
そこに、複数の冒険者が佇んでいた。
公園の中には、大きめのテンポラリーダンジョンのゲートが存在した。
「……今からダンジョンを攻略するのか?」
時刻は夕方を回っている。
いまからテンポラリーダンジョンを攻略するには、少しばかり遅い。
通常の冒険者ならば、朝から昼にかけて攻略をスタートするものだ。
ソラはさらに冒険者たちに近づいていく。
「……だってよ」
「マジか。どうすんだ?」
「どうするっていっても、どうにも出来ねぇべ」
「まあ、そらそうか。ゲートが閉ざされてるもんな」
(ゲートが? 変異ダンジョンか)
冒険者たちの話し声から、そのダンジョンが変異を起こしたことがわかった。
どうやらこの中に、攻略に向かった冒険者が閉じ込められた様子だ。
とはいえ、中に入れなかった者には手出しが出来ない。
ゲートが閉ざされているからだ。
「狩りを始めて、もう5時間か?」
「そろそろヤバい時間になってきたな」
テンポラリーダンジョンは、パーティメンバーが適正ランクならば、おおよそ2時間で攻略が終了する。
上位ランクになるとかなり時間がかかるようだが、このダンジョンはEランク上位からDランク中位といったところだ。
その攻略が、5時間経っても終わらないのは、確かに心配である。
変異ダンジョンはゲートが閉ざされるが、侵入者が全滅したところで、再びゲートが開かれる。
現在、目の前にあるゲートはまだ白く、閉ざされたままだ。
つまり、中に侵入した冒険者は生きている、ということになる。
(……まあ、僕が出来ることはないし、帰るか)
ソラが踵を返した、その時だった。
「中に入ったのって、あの有名な美人さんだろ?」
「ああ。……あれ、なんて名前だっけ」
「有名なんだから、名前くらい覚えとけよ。あれは、Cランクの春日な」
「――――ッ!!」
その名を聞いたとき、ソラは思わず悲鳴を上げそうになった。
それをぐっと堪え、再びゲートを確認する。
(春日さんが、この中に……)
心臓が、ドクンドクンと胸を叩く。
もし、ピンチに陥っていたら。
もし、二度と帰ってこなかったら。
そう思うと、ソラは自然と動いていた。
インベントリからアイテムを取り出し、握りしめる。
近づくと、冒険者たちの視線が一斉にソラを向いた。
どうやら無我夢中すぎて、【隠密】が解けてしまったようだ。
その視線を無視して、ソラはゲートに近づいた。
「お、おい兄ちゃん。そのゲートは攻略中だぜ」
「まあ、入ろうったって、変異してるから入れねぇんだけどな……」
冒険者の声は、ソラの耳にまるで入らない。
それよりも今は、春日だ。
(なんとしてでも、春日さんを助けないと……)
これまでソラは、春日のヒールに何度も助けられた。
おまけに今日は、彼女のおかげで冤罪も防がれた。
もし彼女がいなくなったら、恩返しが出来なくなる。
それはとても、収まりが悪い。
恩を受けたら倍返し。
それがソラの信条だ。
だからソラは、ゲートに触れた。
「お、おい、いまゲートは閉ざされて――えっ?」
「はっ?」
ソラの手が、するりとゲートを抜けたのを見て、回りの冒険者達が目を丸くした。
(よし、問題ないな)
閉ざされているはずのゲートを通過出来た。
これは、以前ドロップした『突破石』のおかげである。
これはゲートが閉ざされた時に、ゲートを抜けるためのアイテムだ。
使用するのは初めてだったため不安だったが、手が向こう側に抜けたことで安心した。
(春日さん、どうか、生きててください……!)
ソラは勢いよく地面を蹴り、ダンジョンの中へと足を踏み入れたのだった。




