Eランクのダンジョンへ
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ソラは一日でFランクのダンジョンを4つ攻略した。
だが、ブラッディハウンドを倒してからレベルが一つしか上がらなかった。
これはFランクダンジョンが、いまのソラにとって格下となり、レベルアップに必要な経験値が得られないためだ。
Fランクのダンジョンを回ることで、魔石や武具が手に入った。
ランクが低いからか、使えそうな武具はなかった。
(少しずつ売ってお金に換えるかな)
これ以上、攻略を続けてもインベントリに不良在庫を増やすだけだ。
なので、Fランクのダンジョン攻略は見切りを付けた。
翌日、魔石を売却してから向かったのは、Eランクの固定ダンジョンだ。
Eランクダンジョンの外では、他と同じように辻ヒーラーや辻バッファーが存在する。
それと、時々スカウターも見回りにきている。
彼らは将来有望な冒険者を見つけて、自分のクランに引き入れるのだ。
クランからのスカウトは魅力だ。
スカウトされるということは、自分の将来を買ってくれたということだからだ。
いずれは大手クランから声をかけられる存在になりたいと、ソラは思う。
だが、今ではない。
現時点のソラはEランクだ。
もしスカウトを受けたとして、それをやっかむ人が見ていたら?
あるいはスカウターのクランが、無法者の集まりだったら?
いずれにせよ、明るい未来がまったく見えない。
しばらくの間は、目立たないように行動したい。
ソラはEランクダンジョンへと、気配を殺しながら移動する。
漆黒のブーツの効果もあってか、ダンジョン入り口に向かっても、他の冒険者の視線を感じなかった。
事実、本来ダンジョンに向かう人を見れば喜んで魔法を放つバッファーから、支援魔法が一つも飛んでこなかった。
「しまった、バフがない……!」
バフがかかると一時間から四時間ほどは、通常以上の動きが可能だ。
強化幅は人によりけりだが、大抵は一割ほど身体能力が向上する。
先日一日で4つのFランクダンジョンを攻略出来たのは、バフがあったおかげである。
それがないとなると(おまけに今日はEランクダンジョンだ)ハイスピード攻略は不可能だ。
問題はバフだけではない。
同じように気配を殺してしまうと、ダンジョンを出る際の辻ヒールも貰えないはずだ。
怪我をしても治癒してもらえない。
このデメリットは想像していなかった。
ソラは僅かに肩を落とす。
「まあ、仕方ないか」
ソラは弱い。
だから今は、バフやヒールを貰うことよりも、下手に目を付けられない方が大切だ。
堂々とダンジョンをクリアするのは、悪意をはね除けられるようになってからでも遅くはない。
「バフなしでも、変異ダンジョンを攻略した実績があるし、大丈夫大丈夫……」
ソラは気を取り直して、ダンジョンの奥へと向かった。
先日攻略したテンポラリーダンジョンで、ソラは自分の攻撃で反発ダメージを受けた。
そのため、現在は大幅にVITを底上げした。
だが、若干の不安が残る。
「大丈夫、かな?」
Fランクのダンジョンでは、全力攻撃が出来なかった。
力を込めるまでもなく、ボスを倒せたからだ。
現在SPは5つ残っている。
もしこれで攻撃して、体が痛むようなら5つともVITに振る予定だ。
しばらく進むと、徘徊型の魔物が現われた。
透明な体に中心核を持つ、無生物系モンスター――スライムだ。
それを見て、ソラは即座に接近。
中心核目がけて全力で剣を振るった。
スライムは比較的動きが鈍い。
ソラは反応さえ許さぬ速度で、スライムを一刀両断した。
残心を解き、攻撃した右手を確かめる。
「……うん、大丈夫だ」
全力で攻撃したが、いまのところ痛みはない。
VITを上げたおかげだ。
この調子なら、自分の攻撃でダメージを負うこともないだろう。
ただし、相手が異常に硬い場合は別だ。
そのような相手が現われたら、その時は残ったSPを分配すれば良い。
ソラはサクサクと、スライムを倒しながら進んでいく。
Eランクで手に入る魔石は、Fランクまでのものと違い、まともなサイズだ。
これ一つで数百円は下らない。
生活を安定させるにはまだ少し足りないが、クズ魔石と比べれば段違いである。
さらに上――Dランクになれば、魔石の値段が一気に跳ね上がる。
そのためEランクとDランクの間には、生活が成り立つ冒険者の壁があると言われている。
Eランク冒険者と、Dランク冒険者とでは、稼ぎに大きな差が生まれるのだ。
さておき、ソラは無生物系ダンジョンを攻略し、気配を殺して外に出る。
ダンジョンから出ても、ソラ目がけて辻ヒールは飛んでこなかった。
ボス攻略の途中で一度反撃を食らったが、軽い打撲だけで済んだ。
もしSPを振らずに攻略を目指していれば、大怪我していたはずだ。
やはり、VITを上げておいて正解だった。
息を潜めながら、ソラはダンジョンから離れていく。
途中、露天でホットドッグとコーヒーを購入し、公園のベンチに腰を下ろす。
ホットドッグを食べながら、ソラはステータスボードを出現させた。




