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ダンジョンの奥へ

「……悲鳴?」


 出入り口の方から悲鳴が聞こえてた気がして、ソラは首を傾げた。


(一般人が間違って入っちゃったのかな?)


 固定ダンジョンの方は常に人がいるため、一般人が誤って入ることはほとんどない。

 だが仮出現ダンジョンの場合、一般人が誤って進入する事故は希だが存在する。


 加藤と安田の可能性も考えたが、どうせ既にダンジョンの外だ。

 ソラは彼らの悲鳴であるとは微塵も考えなかった。


 先ほどの悲鳴が空耳ならば良い。

 だが万が一、一般人だった場合は、冒険者側に救護義務が発生する。


 ソラは小走りで出入り口へと向かった。

 その道中、


「……ん?」


 ソラの鼻が、僅かな鉄の臭いを捕らえた。

 誰かが魔物に襲われて怪我をしたようだ。


 ソラは即座に足に力を込め、全力で出入り口へと走り出した。


「う……」


 出入り口ゲート前に到着したソラは、その場に残った血だまりを見て絶句した。

 流れ出た血の量が尋常ではない。

 まるで、人を挽肉にして血を絞り落としたかのようだった。


 その血だまりの中に、見覚えのある武具を発見した。


「これは……あの二人の?」


 血を踏んでしまうため遠目からしか確認できないが、間違いない。これは加藤と安田の武具だ。


 しかし何故こんなところに?

 ソラは首を傾げる。


「あの二人は逃げ出したんじゃ」


 血を回り込んでゲートへ。

 その時、ソラは初めて気がついた。


「ゲートの色が、変わってる!?」


 先ほど、ダンジョンに侵入するときのゲートは、真っ黒だった。

 だが現在のゲートは、白色に変わっていた。


 試しに、ゲートに手を伸ばす。

 その手はゲートの手前で、壁のような感触に遮られた。


「変異ダンジョンかッ! ……ということは」


 サッと血の気が引いた。

 恐る恐る、ソラは後ろを振り返る。

 そこにある血だまりの持ち主が、否応なくわかってしまった。

 ほぼ間違いない。加藤と安田の血液だ。


「…………」


 ダンジョンは死と隣り合わせ。

 その現実を、容赦なく見せつけられた。

 ソラの胸の中に、複雑な感情が去来する。


 しかしすぐに気持ちを切り替える。

 今はまだ、ダンジョンの中にいる。

 感情に引っ張られて油断したら、ソラも二人と同じように、血溜まりに早変わりだ。


 注意深く辺りを見回した。

 二人を殺しただろう魔物の気配は感じない。

 既に移動してしまったようだ。


「クリアしなきゃ出られない、か……」


 死の痕跡を目にしたばかりだ。

 出来れば、このダンジョンから今すぐ立ち去りたかった。

 だが変異しているため外に出られない。

 生きていたくば、このダンジョンをクリアするしかない。


「相手は、ブラックハウンドだけか?」


 ソラはステータスボードを確認しながら思案する。

 もし二人を殺した魔物がブラックハウンドならば――ソラの方が実力は勝っている。このままステータスを育てても問題ない。


 だが万一、それ以上の相手がいたとしたら?

 足りないステータスを補うことが出来ず、手も足も出ないまま死んでしまう可能性がある。


 現時点で、通常モンスターの討伐は問題なく行える。

 生身の実力は、こちらが上だ。

 おまけに武具も精錬しているので、実力差はかなり開いているはずだ。

 油断さえしなければ、危うくなることはない。


「慌ててSPを振るよりも、相手を確認してからでも遅くない……か」


 ステータスボードの強みは、相手の強みや弱点に合わせて、こちらのステータスを増強出来る対応力にある。


 その強みを活かすためには、対処出来るだけのSPを残しておかなければならない。

 なのでソラは、しばらくこのままで進むことにした。


 ブラックハウンドは黒い。ダンジョンの僅かな闇に紛れ込み、接近する。

 目だけで注意していても、見逃す可能性がある。


 ソラは五感をフルに使って警戒しつつ、ダンジョンの奥へと進んでいく。


 道中、いくつかの部屋があった。

 魔物が待機していそうな部屋だ。

 だがそのいずれにも、魔物の姿はなかった。


「……妙だな」


 一般的に、魔物は小部屋に生息しているか、あるいはダンジョンの通路を徘徊する。

 ブラックハウンドに出会ったのは、一番初めの二体だけ。それ以外、一度も目撃していない。


 だからソラは、徘徊型ではなく待機型だとばかり思っていた。

 しかしどの小部屋にも魔物がいない。


 この場所は、普通のものとはルールが違うのだ。

 故に変異ダンジョン。


 警戒感がよりいっそう高まっていく。

 ダンジョンを隈無く探索してみたが、魔物の姿がなかった。

 あと残るは一部屋だけ。


「ボス部屋……か」


 ここのボス部屋は、固定ダンジョンとは違い扉がない。

 いわゆる開放型だ。


 ここがボス部屋であることは、流れてくる空気に混じる気配から感じられる。

 先ほどから、この奥にいる魔物の強さに、鳥肌が立ちっぱなしだ。


 小手、胸当てチェックを軽く行う。

 いずれも、しっかり装備されている。

 短剣を腰に差し、ソラはパシンと頬を張った。


 ここは現在のソラと同格のダンジョンだ。

 パーティを組めば、適正ランク。しかし仲間は一人もいない。

 ソロでクリアするには、格上である。

 ハッキリいって絶望的だ。


 けれど、戦わなければ、勝たなければ、ダンジョンから生きて出られない。

 だからソラは、前に進んだ。


 通路を抜けると、このダンジョンで一番大きな広間に出た。

 その時、ソラは思わず息を飲んだ。


「――ッ! やっぱりそうか」

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