クラスで浮いてる二宮くんに嘘告したらフラれた( ゜Д゜)ぐぬぬぬ……
「二宮とかありえんくね?」
「ねーわ」
「だよな。でもたまに視線感じるし」
「ヒカリのこと好きなんじゃね?」
「やめろよなー。高嶺さー、はなし聞いてる?」
「え、なに?」
親友のヒカリがブー垂れた顔でこっちを見ていた。私はそれまで見ていたスマホを机に置く。ヒカリは話中にスマホ見られるのが大嫌いだ。彼氏と別れた理由がそれだって言ってた。
私の名前は高慢稚気高嶺。苗字で呼ばれるのは大嫌いな高慢稚気だ。いや別に高慢ちきというわけではないけど、小学校の頃のあだ名は高慢ちきだった。あの頃は学校に行くのが嫌だった。不登校にならなかったのは祖父の厳格な教えによるものだ。学校が嫌だったけど実家はもっと嫌だったのだ。
そんな嫌な小学時代も波乱万丈に過ぎ去って周りも少しは大人になり、高校くらいになるともうすっかり名前いじりはなくなった。と思う。陰ではどーだか知らないけどさ。
不遇で陰キャな時代を乗り越えてようやくできた二人の親友が万華鏡ヒカリと神仙レイナ。はい、変な苗字仲間です。変な苗字の者どうしが不遇な時代の思い出をグチグチ言い合うことでつながったのです。
変な苗字仲間は大切にしたい。私は精一杯の笑顔でなんの話をしてたか尋ねる。
「嘘告だよ嘘告、ほらこれー」
ヒカリのスマホには呆然とする男子とやけにハシャいでる女子五人の動画が再生されている。最近流行りの嘘告だ。
最近嘘の告白が流行ってる。嘘の告白をしたシーンとそれを嘘でしたと告げるシーンを切り貼りした動画がバズってる。中々悪趣味な遊びだと思う。
インスタ映えも下火になってきた最近ではよりインパクトのある映像を求めて、とうとう他人様の不幸を笑うようになったのだ。なむなむ。
「これが何よ」
「これやろってはなしー」
「マジ?」
さっきまでヒカリの失恋記念をどこのファミレスでやるかって話してたのにどーしてこうなった?
首謀者(と思われる)ヒカリがニンマリ笑いながら、教室のはしっこでラノベ読んでる線の細い男子を指差す。流れからいって嘘告ターゲットだ。
「高嶺は二宮な」
「マジ?」
「マジ。あーしの話聞いてなかった罰ゲーム」
せせら笑うヒカリと噂の二宮くんとの間で視線を彷徨わせる。
私は執事のマイケルに打とうとしていた『友達とファミレスに行くから迎えは要りません』ってゆーメッセを送るのも忘れてしまった。
二宮くんのこと本当によく知らないんだけどなー。
――――――
来る時が来てしまった感がある放課後。
手紙で呼び出した二宮くんが屋上でキョロキョロしている。私達ははしごをのぼった貯水タンクの上から二宮くんを見下ろしてる。ダメだ、心臓がバクバク言ってる。
「ほんとにやるの?」
「ここまで来てビビるなし」
「高嶺ファイ!」
なんだこいつら他人事だと思って……
しかし後でこいつらもやる。一番打者が私ってだけだ。
改めて二宮くんをよく見る。座右の銘『平凡』って感じの線の細い子だ。自己主張の強いところは何もないけど、悪いところもない。鞄にアニメキャラの缶バッジ付けてるのはどうかと思うけど。前髪長くて顔見えないけど。
「ほい撮影開始。ほれいけー」
「……あとで覚えてろ」
深呼吸からのなけなしの勇気を使って―――
「二宮くん!」
「―――(バッ!)」
なんでファイティングポーズとるの二宮くん!?
クラスで浮いてるのってこういうところかな!?
「じつは二宮くんのことが好きなの。お試しで一週間だけでいいから付き合ってください!」
「ヘタレが」
「予防線はりやがった」
うるせー。最初に一週間って言っておけば嘘告でもダメージ少ないじゃん。この悪趣味な悪戯で傷つくのは二宮くんだけではない。私も確実に傷つく。ダメージは少ないほうがいい。
しかし告ったはいいが二宮くんが無反応だ。喜んでくれないの?
「二宮くん、返事を聞かせてほしいんだけど……」
「拙者は……」
二宮くん一人称せっしゃなの!? それは浮くよ! 絶対ダメだよ!
武士みたいな二宮くんが辛そうな表情で……
「拙者は三次元に興味ないでござる」
「え……」
「高慢稚気殿の気持ちは嬉しいのでござるが……ごめん!」
二宮くんが走ってった。
あれ、私フラれた……?
「ぷくくくく……最高の結果だったね」
腹を押さえて笑いをこらえるヒカリの一言が、私の心を無駄にえぐった。
――――――
人生初告白からフラれた私はその日からやる気になってしまった。
なんとしても二宮くんを振り向かせてやる。
そのためにまず電子書籍で恋愛関係をポチることから始めた。アダム高坂先生の好きなあいつの落とし方というピンポイントな本だ。
『恋愛は第一印象が大事 攻略の第一歩として相手の好きなタイプを調べよう』
私は授業中もやすみ時間も下校中も二宮くんの監視を始めた。目当ては彼の読んでるラノベの表紙だ。三次元に興味がないなら二次元キャラになればいいんだ。
夜中にこっそり教室に侵入して二宮くんの鞄からラノベを取り出して読んでみた。けっこう面白くて全巻ポチってしまった。ルイズ可愛い。
「……高嶺さぁ、急にどしたん? なんで急にピンクに染めたわけ?」
「傾向と対策」
ガチ回答をしたがヒカリとレイナの反応は悪かった。すまん私もよくわからん。たぶんヤケだ。
「ところでさ、魔法使いが着てるようなローブ売ってる店知らない?」
「高嶺はどこにいこうとしてるんだ……」
『恋愛は一人でやるものではない。相手の気持ちを整えるために、あなたに興味がありますとサインを送ろう』
私は自然を装って二宮くんの視界に入るように心がけた。とにかく視界に入ろうとがんばった。電車とか臨海学校とか、時には二宮君がトイレから出てきた瞬間を狙って視界に入るのだ。
あ、トイレから出てきた二宮くんと目が合った。
「……(ビクッ!?)」
「……(ニヤリ)」
目が合ったら笑顔も忘れない。微笑みを浮かべて興味があるってアピールするんだ!
二宮くんが全力で走ってく。小動物みたい。いつもキョドキョドしてて可愛い。
「あー全力で走る二宮くんマジ可愛い」
「高嶺それストーカー」
「こいつダメだ、嘘告だって忘れてやがる。狩人みたいな顔してんもん」
忘れてないよ。一週間付き合ったらフルもん。
時として私は二宮くんの家の下に立ち、彼が換気する瞬間を待った。
「……(ビクゥ!?)」
あー驚く二宮くん可愛い。なんでファイティングポーズ取るんだろ。武士なのかボクサーなのかキャラブレしてるよ?
翌日お手紙でその旨を伝えたけど返事は返ってこなかった。悲しい。
『準備を終えたら親愛度を高めよう 告白の前にスキンシップで仲良くなるべし』
「二宮くんおはよう!」
「うああああああああああああああ!」
登校した二宮くんの背中叩きながら挨拶したら逃げられちゃった。あーかわ。
「ビビられてんじゃん」
「ヒカリ、そろそろ止めたほうが……」
「あれ、言ってとまると思う?」
「思わんけど」
そして待望のプール授業が訪れた。
「……(絶句)」
「ニノー、どうしたよ?」
「拙者のシャツが新品になってるでござる」
「は?」
男子更衣室の天井付近には窓があるので事前に開けておいた。
私はこの日のために用意したシャッター音の鳴らないデジカメで二宮くんの裸体を収めている。毎朝ジョギングしている成果か意外にいい体をしているね。おかげで私も三キロ痩せたよ。
「こいつとうとう盗撮を始めよった……」
「なぜにこいつはブカブカのワイシャツを着てるのか……」
そして私は一学期最終日という運命の日を迎える。アダム高坂先生のメソッドに従った結果嘘告準備はバッチリだ。
屋上にはすでに呼び出した二宮くんがいる。なぜか金属バット持ってるけど野球にいくのかな? わんぱくな二宮くんもいいね!
「決着をつける気満々だな」
「高嶺はやりすぎたんだ……」
そう決着をつける。あの日の屈辱を偽りだったと証明し、この僅かな傷を拭い去って完全な復活を遂げる時がきたんだ。
「二宮くん!」
「高慢稚気殿……」
どうして金属バットを構えるの? ボール投げないよ?
「女の子に向かってバット向けるのはよくないと思うよ」
「すまぬ」
素直だ。二宮くん超素直だ。あーかわ。
やばいドキドキしてきた。
すごいドキドキしてる。あの頃の私とはちがう。確実に成長している。
最初は嘘告を馬鹿にしてた。浅い想いを伝えて失敗した。そして敗北から学んだ。
軽い気持ちで告白しても見破られるに決まってる。やるなら本気だ。本気の想いじゃなきゃ二宮くんに伝わらないんだ!
この日のために二宮くんの良いところを探してきた。本気で好きになるために彼の良いところをメモし続けてきた! 一学期ずっとだ!
意外に運動好きだったり筋肉質な体つきしてたり剣道部でもないのに毎朝素振りしてる努力をずっと観察してきた!
今なら自信をもって言える! 二宮くんを世界で1番好きなのは私だ!
「私二宮くんが好き、付き合ってください!」
「本気?」
なぜ怯えながら。
「本気です!」
「……ええ~~~と、じゃあ、そのぅ、付き合うのはね、いいよ」
「いいの!? やったー!」
勝利!
「でもね、夜中に家の前に立つのはやめてね。あれ本当に怖いから」
え、怖かったの? なんで?
みんな何で揃って頷いてるの?
でも何はともあれ私は二宮くんと交際することになった。熱い夏が始まろうとしている!
――――――
あーしの名前は万華鏡ヒカリ。インスタでバズりたいという軽い気持ちで始めた嘘告遊びがえらいことになっててどん引きしている高二だ。
えらいことになってるのはあーしじゃない。親友の高嶺だ。思えばあれは高嶺が嘘告に失敗してからだった……
あの日から高嶺は獣のようなギラギラした眼光になった。たぶん目標とか目的ができたせいだと思う。毎日楽しそうに生きてる。それはいい。それはいい事だ。でも他はよくない。
ある日高嶺の髪色がピンクになってた。変な黒いコートを着始めた。ついでに嘘告ターゲットの二宮のストーキングを始めた。さらになぜかラノベにハマり始めた。
最初は面白かったから放置してたけど盗撮を始めたのはさすがにまずいと思った。変な方向に暴走している。レイナと一緒に止めたけど……
「高嶺、嘘告なんだよ、それは忘れてないよね!?」
「忘れてないない。付き合ったら一週間でフルよ、そりゃもう華麗にフってやりますとも! ツーベースよ!」
二宮の彼シャツ着ながらだらしない顔をする高嶺が架空の金属バット振りながら言った。この時は忘れてないならいっかって話に落ち着いた。
そして一学期最終日に嘘告大成功。心底嬉しそうに喜ぶ高嶺を放置してあーしは一ヵ月のハワイ旅行に飛んだ。正直高嶺が心配だったけどハワイには勝てなかった。
それでも高嶺とはメッセアプリで連絡を取り続けた。
7/28
高嶺「花火大会面白かったー」
「うおー、あーしを置いてレイナとそんな楽しそうな事を!」ヒカリ
高嶺「一緒に行ったのは二宮くんだよ?」
「なんで二宮と?」ヒカリ
高嶺「だって付き合ってるし」
「一応もっかい聞いとくけど嘘なんだよね?」ヒカリ
高嶺「嘘だよ、嘘交際だよ」
8/1
高嶺「デズニーいってきた! パレード最高!」
「まさか二宮と?」ヒカリ
高嶺「うん!!!」
「一週間でフルって言ってなかったっけ?」ヒカリ
高嶺「なんの話?」
「え?」ヒカリ
高嶺「え?」
「え?」ヒカリ
高嶺「ところでキラウェア火山どうだった?」
「火山の話はどうでもいいんだよ」ヒカリ
高嶺「ごめん今アニメがいいところだから」
「アニメの話もどうでもいいんだよ」ヒカリ
高嶺「面白いのに」
「てゆーか高嶺アニメ見る子だっけ?」ヒカリ
高嶺「見なかったけどニノ君のおすすめだから」
「デズニー行ってアニメ見てると。どこで?」ヒカリ
高嶺「ないしょ」
8/1
ヒカリ「高嶺をとめてくれ」
「手遅れ」レイナ
ヒカリ「そう言わずに」
「あたしも旅行中だし」レイナ
ヒカリ「マジか。どこ行ってるん?」
「中松君の田舎。蛍とかいてすげーよ」レイナ
ヒカリ「そいつ嘘告相手じゃ……。まだつながってたの、なんで?」
「だって紳士だし。付き合ってみて惚れた」レイナ
ヒカリ「マジか」
「両親も超いい人」レイナ
あーしはスマホを置き、ハワイの綺麗な夜の海を見つめながら、この海の向こうで親友が大人の階段のぼっていく姿を想像しながら、なんとなく思った。
「彼氏探そう」
嘘告遊びを始めた結果、なぜかあーしだけおひとりさまになった。
日本に帰りたくない。
悲報 レイナだけみんなに黙ってこっそり交際してた