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空舞う花に想いを込めて③

##########


 飛行場から出発してからどのくらい時間が経っているのでしょうか。


 そう思い、窓の外をちらりと見る。

 どうやら高速道路を走っているようで具体的な場所は分からないが、辛うじてマンションや大手スーパーマーケットが見える。


 まだ、枝下町には遠いだろう。


 すると私が目を覚ましたのに気付いたのか車を運転しているマネージャー――淡雪(あわゆき)えりかは優しく声を掛ける。


「まだ寝ていても大丈夫よ。まだまだ先だから」

「あ、いえ。申し訳ありません。車に乗るなり寝てしまって」


 そう言って身体を起こす。


「いえいえ。そんなことは気にしないで。最近忙しかったものね」


 確かにえりかさんの言うように最近は撮影などで全国に飛び回っている。

 いや、飛び回っているというと言いすぎな気もするが、実際にそれくらい忙しい。


 約一週間前に友達と遊びに行けたのは本当に運が良かったのだと改めて感じる。


「えりかさんは体調大丈夫ですか?」

「あら、私を気遣ってくれるの? 面白い子ね」

「え、私何か変な事を言いましたか?」


 少し困惑する。


「いえいえ。優しいねと思っただけよ」

「それなら良かったです」


 何かおかしな事をした訳でないと判明して胸を撫で下ろす。


「それと、私の体調は気にしなくても大丈夫よ。これでもかなり体力はある方だし、美咲ちゃんが撮影している時は休憩しているからね」


 えりかさんはそう言うが、実際は撮影の合間にも様々な準備をしたり、挨拶回りをしたりと忙しい事は知っている。それでも隠すのならば私も知らないふりをして、その力を仕事に生かせればいいな、と考えている。


 昨晩はあまり眠れていなかったせいで、まだ眠気を感じる。

 えりかさんには申し訳ないと思いつつも再度眠りについた。




 あれから約一時間。

 合計約二時間のドライブを経てようやく枝垂町に着く。


「相変わらずここは自然が多いわね」


 車を自宅の前に止めて伸びをしながら言う。


「ええ、凄く良い所ですよ」


 車から自身の荷物を取り出した後、そう言う。しかし、えりかさんは渋い顔をする。


「うーん。私はもうちょい都会に住みたいかな。だって、ここコンビニも何もないじゃない」

「でも、商店はありますよ」

「あー、あのお店ね。見た目が暗くて少し入りにくいのよね」

「確かにそこは否定できませんが」


 苦笑いする。


「まあ、いいです。では、私は仕事に戻るね」


 そう言って車に乗り込もうとする。


「あ、待ってください」


 そう制止し、

「少し家で休憩しませんか?」

 と提案する。


 しかし、すぐに首を横に振る。


「本当はそうしたい所だけど、今は仕事が少し立て込んでいるからまた次に来た時にお願いしようかしら」

「分かりました。では、準備しておきますね」

「ええ、楽しみにしているわ」


 そう言ってえりかさんは笑った後、車に乗り込んだ。

 そして運転席から手を振った後、そのまま発進し山を降りていく。その姿が見えなくなるまで見送り、そして自宅に帰った。


 外はまだ少し太陽の光が残っており昼の名残を感じさせたが、家の中に入ると玄関や廊下がかなり暗い。そのことがもう夜と言われる時間になっていることを感じさせる。


 手洗いを済ませ、居間に入る。

 そこの壁に掛けられた時計を見ると七という数字を指していた。


 この時間だとやはりみんなの集合時間には間に合わなかったでしょう。断っておいて正解だったみたいです。


 その言葉を頭の中で復唱し自身を納得させる。


 何か飲み物を飲もうと台所に向かうと、そこでおばあちゃんは夕食の準備をしていた。


「おばあちゃん、ただいま帰りました」

「美咲お帰り。今日の撮影どうだった?」

「はい。問題なく終了しました」


 そうしてピースサインをする。

 おばあちゃんはそれを見て、「そうかい。それは良かったよ」と言った後、嬉しそうな表情を浮かべて料理を再開する。


 そのおばあちゃんの後ろを通って冷蔵庫の方へと向かう。


「そう言えばおじいちゃんはどこですか?」

「ああ、今お使いを頼んでいるよ」

「そうなんですね」


 冷蔵庫を開けると、冷やされていた麦茶が見つかる。食器棚からグラスを取り出して、麦茶を注ぐ。


「美咲は花火を見に行かなくてもいいのかい?」

「ええ。もう時間ですし。間に合いません」


 おばあちゃんから目線を逸らし、麦茶を飲んだ。


「確かに隣町まで行くと間に合わないが、別に電車に乗って行かなくてもよく見える場所があるよ」

「本当ですか!?」


 おばあちゃんの方を見る。


「勿論。一度友達に声をかけたらどうだい? もしかすると、まだこの町に残っているかもよ」

「そうでしょうか?」


 少し集中して考える。花火に誘えるくらいの間柄で、かつ今も花火に見に行ってなさそうな人……。


「あ!」


 無意識のうちにその言葉がこぼれた。


「心当たりあるみたいだね」

「はい! ダメもとで連絡を取ってみますね」


 そう言って携帯の連絡用のアプリを立ち上げる。

 そしてタ行の欄に並ぶ連絡先の一つを選択した。

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