燃ゆる炎に夢染めますか?④
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高校へ来たのはいつぶりだろうか?
そんな事を考えながら本来歩き慣れてきたはずの廊下を歩く。歩き慣れてきたはずと懐疑的な表現する理由として最も大きな要因を占めるのがこの文化祭という行事だ。
文化祭と言うものに参加した事は過去にもあるが、この高校での文化祭は初めてだ。増して準備の時にはいなかったのだから感慨もひとしおだ。
しかし、一方で準備を含めて殆ど参加していなかった身としては不安な事も沢山ある。その不安な事が今目の前に迫っていた。
目的の場所を少し遠めから観察しながらゆっくりと近づく。昼前という事で行列が出来る程ではないが、外から店内を見る限り席は粗方埋まっているようだった。
教室の入り口まで残り数メートルと言った所で受付をしていたクラスメイトがこちらの存在に気付く。
「あ、花山くん!」
クラスの女子の中で一番のモデル体型と言われる笹木未来が小さく手を振っていた。それに手を振り返しながら教室へ入る。
「久しぶりだね、笹木さん」
「ほんとにそうよね。いつ以来かしら」
そう言いながら笹木は顎に手を添えて考える様子を見せる。
「もう一週間くらいだね。ごめんね。文化祭の準備とかも殆ど手伝えていなくて」
「いいよいいよ。気にしなくて。家の用事だったんでしょ? 先生が言っていたよ」
家の用事……。そんな便利な言葉に少しだけ苦笑いを浮かべる。
「そうなんだよね。とりあえず、残り少しだけだけど一緒に頑張ろうね」
「うん、よろしくね」
そう言いながら教室内へ入る。教室内に入れば嫌でも自分の存在に注目が集まる。。
それを示すように仕事中にも関わらずクラスの人達が周りに集まってきていた。その事が心に残る罪悪感を少し和らぐ。
結果的に仕事をサボったにも関わらず迎え入れてくれた事に感謝しながら、挨拶もそこそこに教室の奥の控室へと入る。
教室内の変化は控室にも伝わっていたようで、休憩中もしくはこれからシフトが始まろうとしていた数人が駆け寄ってきていた。
そんな彼らに返事をしながら目的の人物に声を掛ける。
「青木さん。今日はありがとう」
「別にいいのよ。これも文化祭委員の仕事だし」
そう言って青木は視線を下に逸らす。その手元にはいくつかの書類があり、それに目を通している様子だった。
「でも、本当に大丈夫だった? 僕のシフトって皆に比べてかなり少ないよね?」
「大丈夫よ。家の用事で休んでいるのに皆と同じ時間働くのって無理があるもの」
「別にそれでもやれと言われればやっていたけどね。でも、写真部の方もあるし凄く助かったよ」
「それならよかった」
青木はそう言って笑顔を見せながら顔を上げる。少し疲れがみえるものの楽しそうなその表情に少し安心しながら鞄を下ろす。
「それはそうと青木さんも元気そうで良かった」
「どうして?」
青木は顔を上げて小さく首を傾げる。
「だって文化祭委員とかこのクラスの実行委員とかで大変でしょ? だからもしかすると少し疲れているかもって思っていたんだけど」
「そんな事ないよ! みんなが手伝ってくれてるから凄く助かってるし」
青木は照れくさそうにしながら目を伏せる。
「そうなんだ。それなら時枝も?」
最後は冗談のつもりで付け足す。
「そうそう。彼も結構手伝ってくれたのよ。クラスのメインをお茶にしようって言ってくれたのも彼だし」
「へぇ!」
時枝の意外な行動には驚きだ。
「それは意外だね。時枝はあんまり文化祭には関わらないと思っていたんだけど……。話せば意外と良い奴でしょ」
そうと言いかけると少しだけ青木は悩む様子を見せる。
「多分……そうだと思うんだけど、もう少し愛想良くしてくれたらいいんだけどね。それこそ花山くんみたいに」
ははは。そう小さく笑い返して、「それをしたら時枝の良さが消えちゃうけどね」と青木に聞こえない程度の声で呟いた。
「それじゃあそろそろシフトの時間だし行くね。えっとこれを着ればいいのかな?」
そう言って控室の一角に積まれたエプロンを一つ取り上げる。
「そうそう。花山くんは接客に回ってもらおうかな。今接客してくれている子がそろそろシフト終了の時間だから」
「オッケー。じゃあ引継ぎは適当に済ませておくよ」
そう言いながら着替えを済ませる。そのタイミングで丁度十一時になったのか何人かが店内から控室へ帰ってくる。
その人達の労うように控室で待機していた数名が彼らにお疲れと声掛けしていた。花山もその中の一人として混じり、慣れている者には労わるように肩を軽く叩いたりもした。
「じゃあ、引継ぎな」
帰って来たうちの一人が疲れているだろうにも関わらず、間髪入れずに店内の見取り図を取り出し引継ぎを開始する。
見取り図と言ってもコピー用紙にいくつかの四角形が掛かれている簡素なものだ。それでもその四角形がテーブルを示しているのは何も言わなくてもわかる。
「こことここは注文と配膳まで済んでいる。ここは現在ジンジャエール待ち。クーラーボックスの飲み物が切れたから東雲に取ってきて貰っている。……最後のここは丁度注文を取っている所だな」
仕切りのカーテンを少し開けて店内を見ながら最後の一文を付け足した。
「引継ぎは以上だ。特に大きな問題は起こっていないから後はみんな頼む」
そう言いながら引継ぎをしていた男子生徒は乱雑にエプロンを脱ぎ始める。その様子からしてこれで文化祭の全てのシフトが終わったのだろうと考えられた。
そしてそわそわした様子から早く文化祭へ参加したいと言う意思も伝わってきた。
「質問ある奴はいるか?」
着替えをしながらそう言う彼に申し訳なさを感じながら小さく手を挙げてから質問する。
「少しいいかな? 東雲さんは一人で飲み物を取りに行っているのかい?」
「そうだが?」
引継ぎした彼は不思議そうに首を傾げながらそう返す。
「いや、流石に女の子一人で行くには重すぎないかなって」
ああ、そんな事かという風に頷きながらその男子生徒は言葉を返す。
「大丈夫だ。ペットボトルをニ、三個持ってくるようお願いしてるだけだから」
確かにそれなら問題ないか。そう思い口には出さない。
「他に質問のある奴はいるか?」
花山の質問に答え終わるとそう言って改めて周囲に呼びかける。しかし、それに反応する者はいない。
数秒間その様子を観察した後に、「じゃあ、引継ぎ終わり。後は頼むな」と言って僕達を送り出した。
その激励を受けて数人が教室内へと足を進める。その流れに乗って控室を後にしようとすると、丁度入れ替わるように入ってきた女子生徒達の会話が微かに聞こえてきた。
「そう言えばここに置いていた台車ってどこ行ったんだろう?」
「あれ、本当だ。誰かが使ってるのかなぁ」
「流石に台車を無くすなんて事はないだろしそうじゃない?」
「それも……よね。それよりもさ……行きたい所が…………けど、いい?」
「…………」
すれ違いざまだったため最後の方は殆ど聞き取れなかったが、今の会話に妙な胸騒ぎを覚えた。




