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燃ゆる炎に夢見てますか?④

 文化祭が始まってから暫く経ったためか体育館前は賑わっている。

 と言っても学生と言うよりはどうやら町の子供達が集まっているようで、無邪気な笑顔を見せながらはしゃいでいた。

 その様子を見守るように店の前で順番を待つ。


 他の高校がどうかは知らないが、自分達の通う花宮高校は文化祭の時の出入りは割と自由だ。だからこそこのように子供達が遊びに来ることはしばしばある。

 現に自分もオープンキャンパス代わりにここに来たし、確か海老根もそうだったはずだ。


「なんか懐かしいね」

「何が?」


 少し鎌を掛ける。


「えっ? 去年来たでしょ? 一緒に」

「一緒には来ていないな。偶々会いはしたが」

「やっぱり覚えてるじゃない」

「別に覚えてないなんて言ってないからな?」

「覚えてるならそれでいいけど」

「でも実際海老根がここに来るとは思ってなかったけど」

「それってどういう意味?」


 少し不服そうな表情を見せる。それを見て慌てて言葉の不足分を補う。


「成績が足りないって意味じゃなくて、もっと都会の楽しそうな高校に行くと思っていたって事」

「あー、確かに。……少し考えはしたんだけどね。やっぱり止めたの」

「……なんで?」


 そこまで言ったところで店番をしていた学生に声を掛けられる。


「二人?」


 海老根は話をそこで止めて、「そうです」と店番の彼へと返事をする。


 理由は聞き損ねたが、大方大学進学率が良いとかそう言った類だろう。そう自分の中でそう結論付けて、店番の所へ向かった。


「じゃあ一人二百円ね」


 そう言いながら店番は二つのポイを手渡す。それを受け取りつつ、海老根の分を含めた四百円を手渡す。


 店番はきっちりと受け取ったのを確認してから、

「オッケー。場所はどこでもいいよ。ボールの持って帰れる量は決まってるからここの表を参考にしてね」

 とだけ言い、別の人の所へ向かう。


 彼方此方で接客する姿を見て忙しそうだなと思いつつ、受け取ったポイの一つを海老根に手渡す。


「ありがと。でもスーパーボール掬いは久々だな」

「自分もだよ。偶に祭りに行ったらやる程度だし」

「でも、これを選んだって事は得意なんでしょ?」

「得意と言うか何故か出来るというか」

「それを得意っていうんでしょ。また混んじゃうし早くあっちで始めよう」

「そうだな」


 そう言って屋台の端側に寄る。

 あくまで個人の感想だが、真ん中は人が多いうえに色々な水流が出来て狙い通りボールを掬いにくい。

 その点、端ならば誰かに邪魔される訳でもないし流れも穏やかだ。


 目の前に積まれたボウルを二つ取り、一つを海老根に渡す。


「じゃあスタートね。よーい、ドンッ」


 そう音頭を取って開始する。

 自分もそれに合わせてから目の前のスーパーボールに狙いを定めた。


 スーパーボール掬いは深さ十センチ程度の水槽に沢山のスーパーボールが浮かんでいる。そのサイズは様々で大きなものから小さいもの、丸いものや四角形、歪な形のものなど様々ある。


 大きなものを取ったり変な形のものを取る楽しみ方もあるが、今回はあくまで個数の勝負となる。

 となると狙いはおのずと決まってくる。


 まずは目の前で漂うラメが散りばめられた小さなものを狙って掬う。そしてその隣にあったくすんだ青色をしたものも続けて取る。


 スーパーボール掬いは金魚掬いと異なり掬ったものが暴れる心配がない。だからこそ自分のペースで進められる。

 金魚に破られるかしれないというスリルを楽しみたいという人もいるかもしれないが、自分としてはマイペースで進められるスーパーボール掬いの方が得意だし好きだ。


 そんなちょっと昔の感覚を取り戻しながらサクサクと獲物を回収していく。


その時隣で、

「あっ!」

 と一つの声が聞こえる。


 そちらの方を向くとどうやら海老根のポイが少し裂けたようだった。その事に内心少し喜びながらも違和感を気付く。


「なあ。凛はポイのどっちで掬っているんだ?」


 その問いにハテナを思い浮かべながら、

「こっち」

 と掬っている側の面を見せた。


 ……なるほど。


「それ、裏表逆」

「えっ、それって関係あるの?」

「あるよ、そりゃ。プラスチックの柄に紙が貼っている方が表で、柄がむき出しになっている方が裏だよ」

「じゃあ表の方が破けにくいんだ?」

「うーん……。糊付け次第っていうのもあるから一概には言えないけどな。でも今回のポイは糊付けが甘いし表の方が掬いやすいな」

「翔がそんな事を知っているなんて意外ね」

「別にいいだろ。地味な豆知識で悪かったな」

「一応褒めてるつもりだったんだけど。それよりも良かったの? 相手にアドバイスしちゃって」

「別に。そこも含めて勝たないと納得しないだろうし」

「その辺の知識も含めて勝負だと思うんだけどね。

 ま、いいや! 折角教えてもらったしこっから挽回しないと」


 そう言って海老根は再度自身に喝を入れて再度水面に意識を向ける。

 その様子を少し観察した後、自分も水面へと集中した。


「あー、破けちゃった」


 ポイの裏表について話してから暫く経って、そんな声が隣で聞こえた。


 ちらりと隣を見るとどうやら海老根のポイはもう完全に使い物にならなくなっているみたいだった。

 とはいっても、掬っている数は尋常じゃなく、ボウル一つは完全に埋まっており、ボウルの二個目も半分近く埋まっているようだった。


「翔はどんな調子?」


 ポイの柄を店番に返し、暇になった海老根が声を掛けてくる。


「……あとちょっとだな」


 自分のポイの様子を確認してそう答える。


「その状態でよく続けられるなぁ」


 海老根がそう感心する自分のポイの様子だが、紙の部分は殆ど破けてしまっており柄に一部残っている程度だった。

 その為、本来の取っ手の部分は使わず、柄の部分を持ってボールを掬っていた。


「むしろここからが本番なんだよ」


 そう言い返し、目の前に流れてきた黄色のボールを掬入れようとした時に、チャポンッという音を立てて黄色のボールは水槽の中へ逃げて行った。


「ここで終わりか。まあ上出来だろ」


 そう言いながら戦果を確認する。こっちはボウルが二つ埋まっており、三つ目のボウルを使い始めた段階だ。


「結構掬ってるね。流石に三つ目まで使われているとなると数える必要もないね」


 そう言って悔しそうに海老根はボウルの中に入ったスーパーボールを水槽の中に戻す。

 なんとか勝てたという安堵を感じながら自分もボウルに入ったスーパーボールを水槽に戻す。


「じゃあ。先にあっちに行ってるね。混んできちゃったし」


 そう言って海老根は人混みの中に消えていく。それに追い付こうとさっさと中身を返却し立ち上がると、

「あの、景品はいいんですか?」

 と声を掛けられた。


「あー、別にいいです」


 そう言い残して立ち去ろうとすると、

「まあまあ一応持って帰ってください。お相手さんにも渡してあげてくださいね」

 と言いながら二つ大きなスーパーボールを押し付けられる。


 それはそれぞれ赤色と青色の透明なボールで微かにラメが入っているのか中がキラキラしている。


 正直貰っても仕方ないのだが返すのにも疲れそうだ。そう判断し、ボールを片手に出店を後にした。


「あ、翔。やっと出てきた」

「ああ」


 そう返事しながら手に持ったスーパーボールを見せる。


「何それ?」

「なんか貰った。お相手さんにもって言われたけど、凛はいるか? これ」

「へえー、いいじゃない。折角の記念だし。じゃあ私はこっちを貰うね」


 そう言って自分の手の中にあった赤色のボールを持っていく。

 海老根がいるというのならまあいいかと思いながら手に残った青いボールをポケットに仕舞った。


「じゃあ、次にどこ行く?」


 機嫌が良いような悪いようなよくわからない表情のまま海老根はそう問いかける。


「あー、ちょっと待って」


 一度海老根の誘いを遮ってから、携帯電話で時間を確認する。


 そこには九時四十八分と表示されていた。


 この時間だともう一つ遊ぶのは少し厳しいだろうか。それに定員の着替えもする必要がある事を考えると余裕は持っていたい。


「凛、悪い。時間だ」

「えっ? あ、もう時間? 流石に早すぎない? 仕事なら仕方ないけど……」

「そう言われてもな。自分としてもないならそれに越したことはないんだが」

「あ、それならさ。カメラか何か持ってない?」

「持っているけど」


 そう言って背負っていた小さめの鞄に触れる。


「じゃあさ、そのカメラで写真撮ってよ」

「いや別に今は写真部の仕事の時間って訳じゃ……」

「そんなの別にいいじゃない! 別に時間外に写真撮っててもさ。それに私が被写体になってあげるから」


 そう言って海老根は周囲を見渡す。

 いつの間にか中庭近くまで歩いてきていたようで、視界に入ったベンチまで駆けてそこに腰を下ろす。


 海老根がこう言ったからには意思を変える事はないだろう。ならばこちらが折れるしかない。

 小さくため息を付きつつも鞄からカメラを取り出して準備を整える。


「凛。もう少し顎を引いて」


 そう指示をすると海老根は驚いたような表情を見せながらその指示に従う。


「翔がそんな指示を出せるようになってるなんてびっくりね」

「別に……。花山とか先輩に色々と教わっているからな。真似事くらいは出来る」


 そう言いながら自分なりにベストな構図を模索する。


 写る人物は申し分ない。場所もいい。となれば後は自分の腕だけだ。


 呼吸を整えて海老根に声を掛ける。


「よし。じゃあ撮るな」

「うん」


 その返事を聞いてから一つの作られた時間と空間を切り取った。

 


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