表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

廃車両のかくれ鬼

作者: どんC


『もう~いいか~~い』


『もう~いいか~~い』


 何処かでひび割れた様な子供の声がする。


『どこにかくれたのかな~~~30までかぞえたよ~~』


 カンカンカンカン


 鉄道の信号機がけたたましく鳴っている。

 ああ……

 頭が割れそうなぐらい五月蠅い。


 爆音がしてぐしゃりと廃車両が潰れる。

 俺が隠れている三つ前の廃車両だ。


 ひっ‼ 


 俺は口を押さえて悲鳴を飲み込む。


 どうしてこうなった?

 何でこうなった?


 ずるずるとかくれんぼの鬼は鉄道の信号機を引きずる。


 有り得ない。


 有り得ない。


 有り得ない。


 だってあいつは死んだんだから‼


 電車に轢かれて‼


 これは夢だ‼


 これは夢だ‼


 これは夢だ‼


 かくれんぼの鬼に捕まる前に目を覚まさなければ……



 ~~~~~~~~~~~~


 その日はいつもと同じ電車に乗って会社に向かった。

 いつもと同じ電車に乗って、いつもと同じ会社の椅子に座って、いつもと同じ日々が続くはずだった。

 俺は何処にでもいる普通のサラリーマンだったはずだ。


 カンカンカンカンカン


 ああ……五月蠅い。

 刺すような痛みが俺を苛む。

 俺は頭を押さえて蹲る。


 カンカンカンカンカン


 頭が割れるようだ。


 ふと気づくとあの音も電車の振動も消えている。

 静寂が辺りを包む。

 座席から立ち上がり、辺りを見渡す。

 誰もいない。

 俺は気絶していたのか?

 空が赤くなっている。

 夕方か?


 えっ‼


 俺は電車の朽ちた床を見る。

 穴の開いた、床からは雑草が生えていた。

 壁も床も座席もボロボロで。

 電車は廃車両になっている。


 ここは? どこだ?

 何でこんな所にいる?


『ゆうきく~~ん~~かくれんぼしょ~~~う~~~』


 俺は声のする方を見た。

 廃車両のドアの所に一人の少年が佇む。


『こんどは~~~ぼくが~~おにだよ~~~』


 少年が嗤う。

 血まみれで嗤う。


『あはは。ぼく30までかぞえれるようになったんだよ~~~すごいでしょ~~~ほめてくれてもいいんだよ~~~』


「……たつき?」


『うれしいな~~~ぼくのこと~~~おぼえてくれたんだ~~~~』


 何故か樹は鉄道の信号機を片手に持っている。

 重い信号機を少年の華奢な手が軽々と持ち上げる。


『あのときの~~つづきをし~ょ~う~~~~』


 にぃいいいいいいと血だられけの少年が嗤う。


「ま……待て待て待ってくれ‼ お前は死んだはずだ‼」


『そうだよ~~ぼくはしんでおにになったんだよ~~~』


 子供の姿をした鬼が信号機を振り上げ床を叩く。


 ドゴン‼


 金属片が舞い上がり、朽ちた床に大穴が開く。

 あんなものを頭に喰らったら即死だ‼


『だからこんどはぼくがおにだよ~~~30かぞえたらさがしにいくね~~~ひと~~~つ~~~』


 俺は悲鳴を上げながら廃車両から転がり落ちた。


 逃げなければ殺される‼


 殺される‼


 殺される‼


 殺される‼


 夕日が廃車両と雑草を赤く染める。

 辺りは廃車両と雑草しかなく。

 どこか山の中の様で家も道路も無い。


 あの日も血のように赤い夕日が空を染めていた。

 山田樹やまだたつきは近所に住む俺と同じ小学生だった。

 樹の母親は父親が誰だか分からない子供を産むと、両親に樹を預け行方を眩ませた。

 樹の祖父母も知恵遅れの樹を嫌い、虐待していた。

 母親に棄てられ、祖父母には虐待されていた樹は俺達悪ガキには良いサンドバッグだった。

 碌にご飯も貰えない樹は痩せていて標準と比べても随分小さかった。

 俺と青山竜二あおやまりゅうじ神崎隼人かんざきはやとの悪ガキトリオは棒を持って樹を追い回していた。


 ___ ぎゃははは。俺ら鬼ね ___


 ___ 30数えたら追いかけるな ___


 __ おら‼ サッサと隠れろよ ___


 俺は樹に石をぶつける。

 田舎の田んぼ道。この時間は誰も通らない。

 隠れる場所など無い。

 それが分かっていて、俺達は樹を追う。


 ___ いたいよ~~~いたいよ~~~ゆうきくん~~~やめてよ~~~ ____


 石は樹の頭に当たりどくどくと血が滴り落ちる。


 カンカンカンカン


 遮断機が下りるが俺達に追われた樹は遮断機をくぐって逃げる。

 何時もの遊び。でもその日石が頭に当たったせいか。

 それとも血が目に入ったせいか。

 樹は線路で転び。

 電車に撥ねられた。

 辺りは血の海で、怖くなった俺達は逃げ出した。

 それからの事はよく覚えていない。

 何と無く察した両親は俺を連れて、町の方に引っ越し。

 竜二と隼人とは音信不通になった。


 それからの俺は普通の中学生になり、普通の高校生になり、何処にでもいる大学生になって。

 今ではくたびれたサラリーマンになっていた。

 あの田舎に全ての罪を置き去りにして。


『ゆうきくん~~どこかな~~』


 樹は信号機を振り上げ廃車両を叩き壊す。

 三十ほどあった廃車両は樹に破壊される。

 次第に俺は追い詰められた。

 雑草は膝までで隠れる事が出来ない。


『み~~~つけた~~~』


 樹は嗤う。


 カンカンカンカン


 信号機は五月蠅くなっている。


 樹は嬉しそうに、スキップしながらやって来る。


『たのしいね~~~たのしいね~~~みんなとあそぶのは~~~たのしいよ~~~』


 最後の廃車両が壊された時俺は崖に追い詰められた。


「みんな?」


 じりじりと後ずさりするが、文字通り跡が無い。

 崖の下は滝になっていて落ちたら助からないだろう。


『そうみんなだよ~~~おかあさんに~~~おじいちゃんに~~~おばあちゃんに~~りゅじくんに~~はやとくんに~~~』


 クスクスと樹は嗤う。


『みんな~~~ゆるして~~て~~なくの~~~おかしいね~~~ただ~~あそんでいるだけなのに~~みんなをぼくとおなじ~~みんちにしただけなのに~~』


「殺したのか? 母親や祖父母を竜二や隼人を?」


 俺は己が何をしたのか思い知る。


『うん~~~おいしかったよ~~~あんなにおいしいなんてしらなかった~~~』


 ああ……

 俺達は鬼を作り出してしまった。

 まるで蟲毒のように食らい合わせて……


 だめだ‼


 このままこいつを野放しにしたら。

 樹は俺を喰らったら本当の鬼になる。

 何故だかそう確信する。

 樹を本当の鬼にしてはいけない。


「ごめんな……お前をそんな化け物にして……」


『ゆうきくんも~~ぼくが~~おいしく~~たべて~~あげる~~~』


 樹は嗤い信号機を振り上げた。

 俺は樹に飛び掛かり樹を抱きしめる。

 誰にも抱きしめられたことが無いんだろう。

 一瞬、樹の動きが止まる。

 がしゃんと樹は信号機を落とした。

 俺は樹を抱きしめたまま崖からジャンプする。

 俺達は滝つぼに落ちた。


 そして……


 全ては終わるはずだった。



 ~~~~~~~~~~






 ___ ねぇねぇ知ってる? ____


 ____ うん。聞いた。聞いた ____


 ___ 隠れ鬼でしょう ___


 ___ そうそう。血のように赤い夕方に ____


 ____ 何処からか鉄道の信号機のカンカンカンって音が聞こえて ____


 ___ 僕と遊ぼう~~って子供の声がして ___


 ___ 振り返るとくたびれた格好のサラリーマンが佇んでいるんだって ___




               



                   ~ 完 ~






 ***************************

   2020/8/2 『小説家になろう』 どんC

 ***************************

最後までお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読了後にほんのり残る後味の悪さがあり、前作「首括り電車」より此方のほうが私好みです。 こういうホラーが好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ