表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思いのままに書き連ねた短編集  作者: けゆの民
3/5

世界一、世界が嫌い

私はこの世界を愛してる。

何もなくて、必要以上に醜くて、下らないことで命が奪われるそんな世界を愛してる。


そのためには私の命なんて惜しくない。

私が死んで世界が助かるなら、私は何も惜しまない。


「──は真面目だよね。どんな人とでも仕事をキチッとするし、仕事でミスもしないし」


…そりゃそうだ。

私がミスしたせいで世界が壊れたらどうするの?

私が乱雑は対応をしたせいでその人が壊れたらどうするの?


私は無価値なんだから。


「えー、そんなことないよ。──は美人じゃん。そんなの勿体ないよ」


見てくれなんてどうでもいい。

私は無価値だ。

私がいたところで世界に悪影響しか出ない。

なら、私が世界に対して出来ることなんてほとんどない。


他の誰の命も奪わせない。全部全部、私が受け持つ。

私が代わって、替わって、換わって、全てを背負う。

そのかわり、私以外は何の損害も負わない。

そして私にとって損害は幸福以外の何物でもない。


「──、これやっといてくれない?

え?責任はどうするんだ、って?

──なら任せても大丈夫だろ?」


私だって人間だ。

過誤を起こさない様に努力はするけど、その内起こす可能性も…

いや、私が引き受けないことでこの人が不幸になるかもしれない。

引き受けなきゃ、世界のために。


「おお、引き受けてくれるか。すまんな、いつも頼んでばかりで」


私の事は気にしないで下さい、その代わり絶対に幸せになって下さい。

そうじゃないと私が受け持てなかったことになる。


世界は私を歯車にして回っている。

されど、部品が一つ欠けても然したる影響はない。

なら、その部品が他の部品を修理した方が世界は長続きする。


私の代わりはいない?

何を馬鹿な。…いや、ある意味では正しいのか。

私の代わりは確かにいない。でも私の上位互換は沢山いる。

私がいなくなれば、私よりも高級で優秀な部品がそこに填まるだけ。



「火事だ!逃げろ!」


「嫌よ、まだあの中に幼い子供がいるのよ!」


ああ、それは大変だ。

私よりも尊い人がこの世から失われるなんてダメ。

私よりも尊い人が不幸になるなんておかしい。

私が助けなくては。



「ありがとうございます!ありがとうございます!娘を助けて下さり…是非とも名前を伺いたいのですが…」


気にすることない。

左腕に出来た火傷跡を隠しつつ、その場から闇に紛れて逃げる。

私よりも大切な人が私に執着しちゃいけない。関わっちゃいけない。



「おはよー、──。昨日の事件聞いた?火事から子供を救った人がいるんだって。もしかして──?」


私はそんなことしないし、その時間になそこに居合わせてない。

だからしたくても出来ない。


「えー、嘘だー!──ならそういうことしそうなのに」


居たらするかも、でも居なかったからしょうがない。

その時間は家で今日の仕事の準備をしてたから。

世界は素晴らしい。世界は明るい。当然のこと。

私は汚い。私は無価値。それも又、当然のこと。


「──、今日はこれ頼むよ。──しか出来る人材がいないんだよ。お願い!この通りだ…」


命の危険がある仕事?

…その代わり成功したら、人類に安泰が?

何でやらないんだろうか。

ああ、そうだ。それ以前に。


「え?『私以外に参加させないでくれ』って?珍しいな。お前が条件を付けるなんて」


当たり前。私以外に危険があるのを許容しない。

私だけが危険に逢い続ければいい。

だから私だけで終わらせる。



だから、私以外は幸福じゃなきゃいけない。

私が全人類の不幸を、不運を、悲運を引き受けるから。



──そのためには、愛しい世界にすら牙を剥こう。






『昨夜未明、自らを『無』と名乗る正体不明の集団が世界各国のサーバーをハイジャックし…』





「聞いた?あの都市伝説」


「え?何のこと?」


「あれだよ、あれ。世界全体を幸せにする!とか公言しながらサイバーテロした人の話」


「ああ、知ってる知ってる。あれが起きてから皆警戒心が強くなったよね。で、それについての都市伝説?」


「そうそう、あの人が居たからこそ平和になった、って主張する人がいるんだって」


「それの何が都市伝説なの?」


「違うよ、都市伝説(フォークロア)じゃなくて、都市の伝説だよ」


「何だぁ、そんなことか。」


「むー、──のことを理解してないなぁ」


「その──って誰のこと?」


「さあね。でも一つだけ言えることは…あの人が一番──」


「一番?」


「ううん、何でもない」






───世界を嫌っている。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ