少年兵に朝が降る
初投稿です。よろしくお願いします。
世界で最も大きな戦争が始まって、ぼくは戦場に放り出された。十六歳の背中に自動小銃は重くのしかかった。でも、現実はもっと重たかった。数多の少年兵や、がたいの大きい大人の男に交じって、ぼくは銃弾飛び交う最前線を走り回った。
死ぬことは怖くなかった。というよりも実感が湧かなかった。わけわかんなかったけど、先の戦争から帰還した祖父の英雄譚を聞かされて育ったぼくは、漠然と自分だけは大丈夫な気がしていたのだった。ただ、一つだけ心残りというか、たまに理由もないのになんだか悲しくなって涙が零れる夜があった。どうして胸が無性に痛むのだろうか。それだけが少し気になっていた。その感情には名前がなかったけれど、確かにこの胸のどこかに、しっかりと存在しているのだった。
ひゅん、ひゅん、と銃弾が飛び交っている。すぐ近くに爆弾が落ちた。熱風に煽られ、体が地面になぎ倒される。火炎と土煙の中、塹壕に向かって兵士たちが駆けていく。それを蹲りながら見送ったぼくは、その時、死というものを初めて間近に実感した。ふいに、ぼくは、ああ、ここで死ぬのかもしれないなと気づいた。やはり怖くはなかった。気がかりなのは、あの、悲しい夜のことだけだ。その時、左胸に焼けつくような痛みが走って、ぼくはその場に倒れた。景色が急激に色を失っていく。
薄れていく意識の中で、ふいに、涙が頬を伝った。涙の理由は結局分からないままだった。世界では今この瞬間も、ぼくのような少年兵が沢山いて、次から次に命を落としているのだろうか。知らない土地で、知らない誰かが、知らないうちに死んでいく。生き残った子供だけが、大人になって、その意味を知るのだろう。誰の心にもかつてあった、この、若くて寂しい気持ちを。生き残って、大人になったかつての少年兵に、ぼくはこの思いを託したい。少年兵よ、ぼくの代わりに見つけておくれ、あの寂しい夜を暴き出しておくれ。