3.大魔人、現る?
それは神の声であった。
『ファイヤーウォール』
その声が聞こえると、目の前に横30m×高さ5m×幅5m、総重量5,887.5トンの鋼鉄の塊が現れた。
ズドドドド~ン!
黒い鉄の塊が大きく揺れる。
何が起こったのか、すぐに想像が付いた。
走ってきた走竜が鉄の壁にぶつかった。
それでも鉄の塊はびくともしない。
巨大と言っても4トントラック並の走竜では、総重量5,887.5トンを跳ね飛ばすのは無理であった。
「大丈夫?」
いつの間にか、綺麗なお姉さんが振り返って現れた。
「大丈夫す」(❤)
「そぉ!」
お姉さんが手を振りかざすと鉄の塊が一瞬で消え、向こうで走竜が足をふらつかせているのが見える。
全力疾走でぶつかったのに丈夫な奴だ。
『パイルアンカー』
お姉さんがそう叫ぶと、巨大な鉄の大きな杭が走竜の頭上に現れる。
串焼きの棒のようも長細い。
だが、走竜の大きさと比較すると、それがどんなに大きいのかよく判る。
杭の長さは20mもあった。
『インパクト』
先ほどの巨大な鉄の塊が杭に上に現れて、杭にぶつかると逃げようとする走竜を無視して貫いて串刺しにした。
スゲい!
巨大な鉄の塊はすぐに消えて、地面に串刺しになった走竜が暴れていたが、体の中心に杭が刺さっており、逃げ出すことができない。
そして、しばらくすると動かくなった。
えっ、えっ、えっ、ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!
魔法使いアネストが絶叫する。
「あの走竜を一撃で倒したの?」
「なんという魔法じゃ?」
「助かった」
お姉さんがにっこりと笑う。
惚れたす!
◇◇◇
「大丈夫でした」
「はい、大丈夫ですす」
「そうですか! ちょっと待ってね」
私はそう言うと立ち位置を変えた。
AIちゃん、カウントダウンよろしく。
“了解です。5、4、3、2、1、GO”
AIちゃんの合図で私は振り向き様に手を回す。
出でよ、金棒!
レベルの低いときは持てなかった金棒も今ではレベル補正で楽々持てるようになった。
私の手の平に巨大な金棒が現れ、それをぎゅっと握り絞めるとそのまま振り回す。
グゴ~ン!
ぐぎゃぁああぁぁ、絶叫を上げて何もない場所から魔物が姿を現した。
ワーキャット・ライガーだ。
何故、名前を知っているかと言えば、メニューのサブメニューにログがあり、そこを閲覧すると討伐魔物の名前が閲覧できるからだ。
レベル5になると、踊り子の称号が現れた。
その下に渦巻きマークがあったので押してみると、ガイドが出てきて、ログ欄を見ると討伐記録が乗っていた。
踊っているように戦っていたので“踊り”が出たのかな?
隠れ称号に料理、針子、大工、鍛冶、弓、解体、料理、鑑定、盗み、盗賊、暗殺、虐殺などが上がっているらしい。
料理、針子はモデリングで血抜きと転移で寄生虫とウイルスを排除したのが料理、傷口をモデリングで縫合したのが“針仕事”と認定されたみたいらしい。
あとはそれぞれの理由で隠れ称号として、キープされている。
“条件がクリアーすれば、発現するそうです”
うむ、うむ、何となく納得。
“暗殺、虐殺は…………”
わぁぁぁぁ、聞こえない。聞かなかったことにしよう。
“了解です”
金棒はハンマー扱いみたいで、ハンマーを使う職業にコンバージョン(転換)できる基礎が蓄えられるらしい。
コンバージョンって、何?
“コンバージョンはコンバージョンとして答えてくれません”
AIちゃんの説明によると、そんな感じだ。
極めてゆくとスキルレベルが10段階まで上がってゆく。
ワーキャット・ライガーはカメレオンのように保護色で身を隠し、隠ぺいスキルで気配も消す厄介な魔物であり、レベル15~30程度の高経験値が得られる。
私はAIちゃんの結界が常時発動しているから、ワーキャット・ライガーの不意打ちは意味がなかった。
しかも生態索敵に引っ掛かるので、2度目からワーキャット・ライガーか、その擬きということが推測されるのだ。
「初見殺しを倒したす?」
「全然、気がつかなかったわ」
「あれはワーキャット・ライガーという危ない魔物じゃよ」
「最低でもパーティのメンバーが一人は殺されるという初見殺しの異名を持つ魔物ですね。はじめて見ました」
「おい、大丈夫か!」
「えぇ、大丈夫。この方が」
身長2mくらいありそうな巨体の男が私の前に立った。
「助かりました。さぞ、名のある冒険者様なのでしょう」
「デカぁ…………忍と申します」
「シノブですか」
異世界での第三種接近遭遇は物越しの低い巨漢の男だった。
巨体が頭を下げた瞬間、襲われるのかと思って身を竦めてしまったよ。
ウル〇ラセブンのポーズに相手も固まる私。
「ははは、ウチに地方のあいさつのポーズです」
「そうですか」
「ははは、そうなんです」
こほん、姿勢を正して開き直るしかない。
どうせ、ここは異世界だ。
「私は忍です。冒険者をやっています」
「そうですか。助かりました。ありがとうございます」
「お嬢ちゃん、ありがとよ。命拾いしたよ」
「困った時はお互い様です」
後にいた子が目をキラキラさせている。
「あのぉ、さっきの魔法、何ですか。滅茶苦茶凄いのです」
「いやぁ~~~、タダの収納魔法ですよ」
「えっ、嘘ぉ?」
「出す場所を意識すれば、誰でもできますよ」(できるよね?)
私がそういうと目をキラキラさせていた少女が少し考えている。
そして、そばにいた男の子に命令した。
「ランツ、そこに立って」
「なんで?」
「いいから立ちなさい」
「アネストは時々、判らんことを言う?」
少年が立つと、少女は叫ぶ。
『出でよ。タライ』
ガツン!
少年の頭の上にタライが出現して、少年を襲った。
(おぉ、この世界には収納魔法があったようだ。よかった!)
「痛ぃ、痛いだろう。何しやがる」
「お師匠様、本当に攻撃に使えます」
「そうみたいじゃのぉ。こういう使い方ははじめてじゃのぉ」
「アネスト、何のつもりだ」
「尊い犠牲よ。少しくらい我慢しなさい」
「しかし、実践では使えんな」
「どうしてですか?」
「おぬしのアイテムBOXは100kg、儂は300kgしか入らん。食糧や水を入れただけで一杯じゃ。1トンクラスのアイテムBOXの魔道書が金貨1000万枚、否、3000万枚はするぞ」
「それは無理です」
「じゃろ」
この異世界にはアイテムBOXというものがあるらしいから、私の転移魔法は“アイテムBOX”ということにして置こう。
「俺達はギルドからこういう依頼を受けてここを探索している」
大男は懐から丸めてあった羊皮紙のようなものを開いて私に見せてきた。
「草原の探索ですか」
「あぁ、最近、魔物が大量に発生し、草原に何か起こっているかを探索に来た訳だ」
「なるほど」
「しかし、草原に近づくまでは魔物に遭遇したが、草原に入るとほとんど出会わなくなった。気がつけば、中央の魔力溜まりがある場所まで来てしまって、危うく死にそうになった訳だ」
「了解です」
「で、改めてきくが、君はここで何をしていた?」
「何を言われても…………狩りとしか言えません」
「すまないが君のステータスを確認させて欲しい」
「ちょっと待って下さい」
AIちゃん、メニューの開示ってどうするの?
“メニュー開示で開きます。非表示は開示したくない項目をタッチすると切り替えができます。全開示と言わない限り、名前、年齢、職業、所属、筋力、敏捷、耐久、知力、魅力、称号の基本ステータスのみ開示されます。開示したくない場合はタッチして非開示に変更すれば、問題ありません”
全開示と言うと?
“非表示以外、今、忍様が見ている画面が表示されます”
なるほど、私は体重とBWHを非表示にした。
『メニュー開示』
「なっ、なんだ?」
えっ、何か驚かれた。
「職業が町娘ってなんすか?」
「町に住んでいる娘のままね」
「レベル50って? はじめて見た」
「町娘でレベル50はおかしいでしょう?」
何がおかしいのか説明して貰った。
町子・町娘は非成人の子供に付く称号らしく、8歳で洗礼の聖霊の儀を終えると、職人見習い、大工見習い、商人見習い、芸見習い、兵見習いなどの職業名に変えることがでいるらしい。
生まれ持って出てくる職業は、王族なら王子・王女、貴族なら公子・公女、あるいは、爵子・爵女、町に住んでいると町子・町娘、村に住んでいると村子・村娘、森に棲んでいると森子・森娘、草原などに棲む遊牧民なら遊牧子・遊牧女、野良なら野良子・野良女になる。
8歳までの仮の職業らしい。
8歳までにレベル5に上げて、踊り子の称号を得た女の子は玉の輿に乗れるという。
「どうして?」
「踊り子の派生に礼儀・作法のスキルがあり、これがないと貴族になれないのよ。貴族の息子にとって、礼儀・作法のない女子なんて価値がないのよ」
8歳で踊り子の称号を手にいれた女子に礼儀・作法を教えると、『踊り子』の称号を持つ子が、次にレベル8になった時点で『礼儀・作法』の称号が発生するらしい。
それで踊り子の称号を持つ女の子は教会の推薦で正式な学校に入学でき、『見習い学生』になることができる。
学生の派生ジョブには、文官や審議官など高級官僚への道が開ける。
そこで貴族様に見初められると、貴族夫人にジョブチェンジだ。
まぁ、無償で上級の学校に通えるので、様々の技能を手にいれるチャンスが恵まれる。
剣技を学んで『女騎士』を目指す子もいるらしい。
とにかく、町子・町娘は非成人の称号らしい。
「洗礼も受けず、レベル50まで上げるなんて変態ですよ」
「変態は言い過ぎですが、レベル10以上はスキルが発生しない屑職業よ」
確かに、レベル10で『万力』というスキルが発生した。
逆にレベル8になった時点で、『礼儀・作法』の称号が発生しないのは、礼儀・作法の教育を受けていないからだ。
作法をマスターすると現れるらしい。
そうそう、万力は力のステータスを倍にしてくれるありがたいスキルだ。
金棒を楽に持てるのも、このスキルのお蔭だ。
この世界のステータス補正はマジ半端ないよ。
「ところで、さっきから気になっているんすが、あちらでキラキラしているのはなんすか?」
「あれはこの地を治める『大魔人様』の像です」
近くに寄ると、ぎゃぼぉ~とか叫んだ。
「これ、金すよ」
(ただの金メッキです)
「魔人の物みたいだから触らない方がいいよ」
「そうすね! 殺されたくないす」
えっ、魔人じゃなくて大魔人様よ。