表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなにかわいい女子高生なのに、どうして魔王って呼ばれるの?  作者: 牛一/冬星明
第1章『大魔人、現る』
3/15

2.正義の味方はこうして登場する。

カララン、冒険ギルドのドアを開くとベルの音が冒険パーティを出迎えてくれる。

入ってきたのは冒険パーティ『鮮血の誓い』のメンバーで戦士ランツ、重僧侶ロドリス、僧侶ソフィア、魔法使いアネスト、魔女ニーサの5人であり、ソフィア出身の村の護衛クエストを終えて戻って来た。

受付嬢のジルがランツを見つけて声を掛けた。


「ランツ、やっと戻ってきましたか」

「ジルさん、俺のことを待っていてくれたんすか」

「はい」

「結婚しようす」

「遠慮します」


ランツは16歳の健全な青年であり、ジルも17歳の美人で有名な受付嬢であった。

冒険者に登録時から口説くこと四年半、まったく相手にされていないランツであった。


「俺を待っていたのは嘘なのか?」

「ランツさんを待っていたのは私ではなく、ギルド長です」

「ギルド長!?」


今すぐ、ランツは扉をくぐり直して引き返したい気分になった。

否ぁ、実際に後ずさりして逃げ出そうとした。

しかし、門番がランツの襟を持って引き摺ってゆく。


「嫌だ! 俺はまだ死にたくない。ジルさん、俺と結婚してくれ!」

「がんばって下さい」

「嫌だ、嫌だ、誰が助けてくれ! 殺される!」

「諦めろ」

「気が思いのぉ、じゃが、行くとするか」

「そうね」

「…………」


ちょうど一ヶ月ほど前から魔物の活性化が始まり、南のフェルテ辺境男爵領では、魔物の大暴走が起こり、6つの冒険者の拠点村が壊滅し、男爵領の大耕作地帯も魔物大軍が蹂躙して大壊滅状態と聞いている。


今年の秋は小麦の値段が上がりそうだと教会の経営するソフィアの母が嘆いていた。


この冒険ギルドがあるフギテ辺境子爵領に魔物が増えたのは、それより前になる。フギテ辺境子爵領の東にはいくつも魔力溜まりがある大草原が存在し、定期的に魔物が溢れる大海嘯(だいかいしょう)はここの名物の1つであった。


冒険者にとって騎士団に守られて狩りができる魔物素材を稼ぐ儲け時であった。


フギテ辺境子爵領には、領都クライシムと城塞2つ、漁村4つのみある小さな領地であり、大海嘯(だいかいしょう)がはじまると漁村は護衛の冒険者を依頼する。冒険パーティ『鮮血の誓い』は地元の村護衛のクエストを引き受けて、この一ヶ月を過ごして戻ってきたのだ。


「やっと戻ってきたか?」

「引いてくれたと言った方が正しすよ」


<普通の大海嘯(だいかいしょう)は10日間で終わるが、1ヶ月も続いた>


「魔物の大海嘯(だいかいしょう)は何度が経験したが、これほど大規模な物は始めてだ。話というは大したことではない、その原因を調べて来て貰いたい」

「ケントのおっさん、無茶を言うなよ」

「ギルド長と言え!」

「判ったよ。死神ギルド長のケントのおっさん」

「ふふふ、生きて帰ってきたら、別の指定依頼を用意してやろう」

「馬鹿ぁ!」


イテぇ、こつんと魔法使いアネストがケントを小突いた。

ギルド長室に呼ばれる指定依頼は難度が高く、ギルド長室に呼ばれるのは『死神』に呼ばれるのと同じと冒険者の間でそう言われている。


ギルド長はギルド室以外で会えば、飯を奢ってくれる気前のいい太ったおっさんであった。


「ギルド長、危険地帯への調査ならC級以上の冒険パーティに依頼するべきでは」


ギルド長にそう言ったのはランドの師匠であり、ソフィアの母の母から目付役を頼まれているロドリスであった。


「その通りだ。だが、知っての通り、男爵領の大量の魔物退治にB級・C級・D級の冒険者が出払っている。おまえ達が残っていたのが幸いという所だ」

「無理だ」

「無茶を言わないでよ。はっきり言って死に行けと言っているのと同じよ」

「これは指定依頼だ。断ることはできんぞ」

「貧乏くじだ」


冒険パーティ『鮮血の誓い』はD級のパーティであった。


村の護衛はF級以上のパーティ条件が付く、しかし、教会が依頼者なので村の護衛は報酬が少なく、F級の冒険者パーティしか依頼を受けない。D級のパーティの『鮮血の誓い』が受けたのは地元の漁村だったからであり、その為にまさかこんな依頼が飛び込んでくるとは思わなかった。


「糞ぉ、ギルドに寄らずにしばらくゆっくりしておけばよかった」

「あんたがギルドに寄りたいって言ったのでしょう」

「ジルさんに会いたかったんだよ」

「巻き込まれた私の方が迷惑よ」


要するに、男爵領に起こった魔物の大暴走にB級・C級・D級の冒険者に領主から指定依頼が掛かり、この領都クライシムにはE級以下の冒険者しかいない状態になっていた。


この大海嘯(だいかいしょう)も沈静化したが、安全宣言を出すにも調査後でなければ、出せない。


で、この領都クライシムに戻ってきた唯一残っていたD級冒険パーティに依頼が回った訳だ。


「男爵領の魔物討伐は終わらないのか?」

「あの広大な耕作地を逃げまわっている。あと1ヶ月くらいは終わらないんじゃないか?」

「みんなが帰ってからって訳にいかないすか?」

「無理だ。G級以下の冒険者を干上がらせる気か?」

「一ヶ月と言えば、そろそろ薬草の在庫とかも底を尽く頃か」

「商業ギルドの事は知らんが、そうかもしれんな」

「とにかく、沈静化しているが確認できんことにはクエストの再開を許可できん。という訳で、おまえ達に調査に行って貰いたい」

「という訳じゃないすよ」

「すまんと思うが、お願いする。拒否権はないぞ」

「腕のいいE級の冒険者をサポートに付けたい」

「無理だ。腕のいい奴は領軍の荷物運びに使われている。足手まといになる奴しか残っていない」

「終わった。C級の魔物群れに出会ったら終わりす」

「ランツ、諦めろ」

「アネスト、もうおまえでもいい。俺と結婚してくれす!」

「ちょ、ちょっと、私でもいいって、何よ! 私だって選ぶ権利くらいあるのよ」

「このまま、童貞で死ぬのは嫌す!」

「安心しろ、ヤバそうな奴を見つけたら中止して戻ってくる。それでいいな!」

「構わん。それはそれで情報になる」


かなり緩い条件を付けて、魔力溜まりが密集する危険地帯の草原の調査を引き受けた。


 ◇◇◇


『デビル・カッター』


説明しよう。


デビル・カッターとは、超巨大ギロチンを天空に出現させ、自然加速で落下させて最高速に到達した超巨大ギロチンを転移で水平方向に移動し、魔物首をちょきんと斬る必殺技である。


“忍様、誰に説明しておられるのですか”


いいの!


こういうのは気分の問題なのよ。


次は『デビル・ビーム』よ。


“了解です。ダングステン合金の巨大針50本を上空5,000mに出現させます”


次の狙いは首長の飛翔竜よ。


“了解です”


最高速度に達した所では私は叫ぶ!


『八方陣、デビル・ビーム』


首長の飛翔竜の周辺の上下左右360度の全方位から巨大な串針が出現して串刺しした。


よっしゃ~!


経験値532GETだぜ。


意外とおいしい。


残りの首長の飛翔竜を全部追撃するわよ。

巨大針5,000本を天空に放出して!


“了解です”


私は転移で首長の飛翔竜の側に転移で移動すると、全方位攻撃なんてお遊びをせずに巨大針を脳天に打ち込んでゆく。


『デビル・ビーム』


もし避けられたら、第2撃、第3撃と放って撃退する。


仲間を見捨てて逃げる首長の飛翔竜も逃がしはしない。


ターゲットロックオン!


『ファイエル』


逃げる首長の飛翔竜10匹に照準を合し、一瞬で瞬殺する。


気持ちいい、ストレス発散にはこれが一番だわ。


こうして、天空に飛んでいた21匹を討ち取って全滅させた。


ははは、私は空を飛べる訳じゃないけど、転移で天空を移動できる。


空飛ぶトカゲなんて目じゃないわ!


最初はホーンラビットとか小者を狙っていたけど、レベル50もなると必要経験値が半端じゃない。


レベル50だと、次のレベルアップに必要な経験値25,000になるのよ。

ホーンラビットだと12,500匹も討伐しないと、レベルアップできない訳だ。


そんなにいないよ。


魔物を倒すと経験値が入り、経験値が達するとレベルがあがる。


お約束だ!


自分より1つ上のレベルの魔物なら1発でレベルアップできる。

ホントに厄介なのはレベルが上がると、必要経験値が増えてゆく。

しかもレベルが上がると同時に経験値が最初(0)からカウントされる。


つまり、

レベル1 10(10)

レベル2 40(50)

レベル3 90(140)

レベル4 160(300)

レベル5 250(550)

レベル6 360(910)

レベル50 25,000(???)

と、レベルが上がるほどトータルの経験値がトンでもなく、たくさん必要になってくる。


割りと大変なので考えない。


とにかく、レベル51になるには経験値25,000が必要。


今はそれだけを考える。


首長の飛翔竜21匹で10,731ポイントだ。


ティラノサウルスのような恐竜型の魔物はおいしかった。


レベル40超えで、大量撃滅で一気に20代のレベルが40代まで跳ね上がった。


人工精霊の索敵は存在と敵味方判別しかできないから、高レベルの敵のみ選ぶことができない。


鉱物なら識別できるのに、どういうシステムだ?


“生物には生体バリアが存在し、視認できる範囲にならないと解析できません”


非生物は距離が関わらず解析できる訳か。


“そうなります。ですが、生体バリアは生態の存在をこちらに知らせてくれます”


そうでした。


最初は山ほどいた魔物の群れも、最近は1時間も狩りをするといなくなってしまう。


大地は広いし、狩り尽くせたとは思えないんだけどね?


“西4.8km先に7つの生態反応あり”


AIちゃんの索敵範囲は半径5kmしかない。


これからはもう少し、広範囲に移動するか!


転移


 ◇◇◇


ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!


5人の冒険者が走っていた。

鼻水を垂らしながら必死な形相で走っていた。

追い駆けているのは体長4メートルほどの大柄の走竜であった。


「デカすぎるす」

「ランツ、リーダーでしょう。尊い犠牲になりなさい」

「馬鹿野郎、俺なんかじゃ、一蹴されて時間稼ぎにもならんす」

「自慢にならないわよ」

「ほほほ、ランツ! 命掛けの割に余裕があるのぉ」

「ニーサ、くだらんことを言ってないで自分の足で走りやがれ!」

「お師匠様に失礼でしょう」

「ほほほ、儂の足の遅さは肝入りじゃからな。じゃが、こうして男の太腕の中で往ってしまえるというのは女冥利に尽きるのぉ」

「へぇ~、妻の目の前でそういうことを言わないで下さる。ここで放り出すように命令しますよ」

「かかか、冗談じゃ。ほれぇ、ファイヤー」


魔法詠唱を終えて、ニーサが走竜に目掛けて炎の魔法は放った。

巨大な火の弾が走竜を包み込む。


「やったか?」

「駄目じゃのぉ」


その炎を物ともせずに走竜は炎を突き抜けてきた。

走竜の分厚い鱗の前に炎の弾では威力がなさ過ぎた。


「魔女の癖にもっとマシな魔法はないのか?」

「移動しながらの魔法には限界があるのじゃ。お主らが1()(60秒)ほど持たしてくれるなら、インフェルノをあやつにおみまいしてくれるわ」

「1()(60秒)とか無茶言うな!」

「10刻(10秒)くらいなら何とかなると思うが、それでどうだ。2・3撃も受ければ、盾が潰れる。それ以上は無理だな!」

「10刻(10秒)ではファイヤーボールが精々じゃ」

「倒せるか?」

「怯ませる程度じゃな」

「糞ぉ、逃げるしかないす」

「追い付かれるのはもうすぐね」


走竜と呼ばれているが、快速馬ほど早くない。

図体がデカい分、重馬程度(人は走る速度)しか出てくれない。

但し、その体力は無尽蔵にあり、一晩中走らせても壊れない。

(馬なら一晩中走らせると壊れてしまいます)


フギテ辺境子爵が持つ竜騎士団は、その重量と行動範囲の広さから恐れられていた。


だが、野生の走竜を手懐けた者は一人もいない。


走竜は草食であり、非常に憶病で縄張りに入ってきた敵を抹殺しないと安心して暮らせないという性格を持っていた。


冒険者達は走竜の縄張りに入ってきた敵と認識されていたのだ。


さて、人は全力疾走をどれくらいの時間維持できるのか?


人間必死になれば、400mくらいなら割と平気で走れるものだ。


レベル補正もあり、その20倍くらいは持ちそうだが、最初にバテたのはレベル11のアネストであった。


魔法使いという職業柄から体力の補正が少なかった。


「がんばれす!」

「ありがとう」


アネストは頬をちょっと赤めた。


吊り橋効果だ。


巨漢のロドリスのように抱き抱えるのは無理だが、ランツはアネストの手を取って走ったので、わずかに速度が落ちた。


走竜が一気に距離を詰める。


どうやら覚悟を決める時が迫ってきた。


「ニーサ、精神集中をはじめてくれ」

「そうだね、そろそろか」

「俺の盾とソフィアのシールド魔法で時間を稼ぐ。ランツとアネストは攻撃を掛けろ。当てる必要はない。注意を逸らすだけでいい。ニーサのインフェルノに賭けるぞ」

「「「「おぉ!」」」」


ロドリスはニーサをその場において、反転して走竜に駆け出していった。


『バーニッシュ』


ズゴゴゴ~~ン!

大盾に保護の魔法が掛かり、盾の強度が数十倍に跳ね上がる魔法で相手にぶつけて跳ね返す技であるが、相手が巨漢過ぎるので斜めにぶつけて強制的に方向を変えさせた。


「ぐごぉ、いやぁ、なに糞ぉ」


走竜が斜めに軌道を変えて跳ね飛ばされたが、ロドリスも盛大に10mくらい飛ばされた。

すぐに立ち上ったが、通り過ぎた走竜が反転して第2撃には間に合いそうもなかった。


『シールド』


ガシャン!


再突入する走竜の前に魔法の壁が現れたが、一瞬で破られる。


一刻(1秒)すら稼げなかった。


ニーサの足元には魔法陣が浮かび、魔法が発動するまで動けない。


ランツ、ソフィア、アネストが一塊になって、ニーサに注意が向かないようにするしかない。


アネストがファイヤーの魔法で威嚇する。


「今よ」


ソフィアの合図で左右に飛んで走竜を避ける。


間一髪、後、何回繰り返せば、一分(60秒)が稼げるのだろうか?


ヤバい、ヤバい、ヤバいす!


走り過ぎた走竜が反転して、今度はニーサに狙いをつけた。


動かない標的が危険ということを知っているようであった。


頭のいい竜め!


ランツ、ソフィア、アネストがニーサの前に立ち塞がる。


「無駄なことを止せ!」

「ニーサは詠唱を続けす! ニーサが死んだら、どうせ助かる見込みはないす。一連托生すよ!」

「ランツ、見直したわ。今度、ちゃんとプロポーズできたら結婚してあげる」

「ホントすか!」

「生き残りましょう」


そうは言ったモノの、生き残れる可能性は少なかった。


走って戻ってくるロドリスは間に合いそうもない。


ソフィアの『シールド』がアテにならないのは証明済みだ。


一か八か、走竜の頭をくぐり、逆転の喉元を剣で突き刺す。


成功すれば、ランツ一人が4トンはある走竜の下敷きでミンチになるだけである。


息があれば、ソフィアの回復魔法で蘇生できるかもしれない。


死んでなければ…………足が震え、手も震える。


迫りくる恐怖に身が竦んだ。


飛び込め!


身が竦んで動けない。


ヤバぃ!

『ファイヤーウォール』


天空から声が届くと、横30m×高さ5m×幅5m、総重量5,887.5トンの鋼鉄の塊が目の前を覆った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ