1.魔性の女が現れた。
「ギルド長、呼ばれたから来たけど。また、特別依頼とかじゃないわね」
アネストちゃんがそういいながらギルド長室のドアを開けた。
アネストちゃんはかわいい15歳、妹のような女の子である。
魔法使いを卒業して魔女へランクアップ!
黒い髪にセミロング、二つのツインテールも可愛らしく、黒いフリフリのドレスに黒の長タイツに身を覆う。
ちょっとツンデレの入った妹だ。
残念なのは、それを黒のローブですべて隠してしまうことかな?
「依頼なら受けますが、料金は特別料金を頂きます。最近は普通に稼げているのはご存じですね。ギルド長!」
そうにっこりと微笑んで入っていったのが、見目麗しい私と同い年(18歳)のソフィアさんだ。
初級職業の法官士でレベル30の女性である。
実家が教会を営んでおり、それを継ぐ為に神官職を目指している。
レベル的には30に達したのでジョブチェンジできるのだが、教会に一定の寄付か、貢献を行わないと転職できない。
顔立ちが整っており、青い目に金髪のロングの髪の毛がいつもキラキラと輝いている。
身支度はいつも白の修道服、教会にいるときはベールを被るけど、普段は付けていない。
冒険パーティのお姉さん的なポジションだ。
ただ、これで二児の母というのが納得いかない。
女として負けた気がする。
「最近は呼び出しが多いな!」
言葉少なく入っていったのが、そのソフィアさんの旦那であるロドリスさんだ。
中級職の重法官士であり、重僧侶と呼ばれる教会の護衛役だ。
180cmはある大きな体で大きな大剣を背負い、大きな盾と剣を持って、みんなを守る盾役だ。
余りしゃべらず、ソフィアさんの尻に引かれて喜んでいる。
男性としてどうかな~?
筋肉質の男性は私の趣味じゃないが言い寄られないなら問題ない。
「魔法素材の依頼なら受けさせて貰うぞ」
そう言って入っていったのが、ニーサさんだ。
魔女でレベル35という高レベルの魔法使いだ。
年齢、自称不詳。
(うん、私は鑑定で知っているけど公表しないよ。そんなに高齢じゃなけど、三十路を過ぎると微妙なんだ)
ソフィアが魔女単体のレベル20とは違って、錬金術士、薬師、細工師、付与魔術師の職業を治めている。
町で魔道具屋を商ってお金を貯めて、最高品の魔道具を作ることにがんばっている。
知識と知恵が格段に違う。
ソフィアちゃんのお師匠だ。
私も初級の黒魔法と神聖魔法の魔道書を無料で読ませて頂いた。
この世界では、レベルが上がっても魔道書を理解しないと魔法が発言しないのよ。
初級魔法なら完璧だ。
神聖魔法は法官にならないと取得できないけど、一度取得した魔法は魔女でも使えるらしく、隠れジョブとして法官士も持っている。
そういう裏技もあるのか!
今は中級魔法の魔道書を読ませてくれとお願いしている。
「おっさん、俺達を便利屋と勘違いしてないすか?」
「おっさんと呼ぶな! ギルド長と呼べ!」
ちょっと不良っぽいしゃべり方は冒険パーティ『鮮血の誓い』のリーダーのランツ君だ。
まだ16歳で成人したばかり。
ランツ君は思春期特有の『英雄病』を患っている。
つまり、『ハーレム』願望だ。
美人の受付嬢のジルさんに何度もアプローチしては撃沈している。
アネストちゃんの一人に絞れば、脈があるのに!
私もアプローチされているけどお断りしているよ。
顔とスタイルが嫌いじゃないけど、軽薄過ぎる男の子はお断りだな!
あと10歳若かったら可愛がって上げるのに。
「忍、入ります」
最後に私がギルド長室に入った。
一学期の期末試験も終わって、ただいまテスト休み期間に入っている。
テスト休みが終わると、夏休みに突入する。
三年生は特別授業、二年以下はテスト結果で補修が決まる。
学年の平均点以下が補修って『鬼』だ!
一年、補修で夏休みの半分が消えた。
底を上げて学校のレベルアップが目的だ。
流石、地方の進学校は違う。
因みに、三年生の特別授業は任意だ。
夏は東京の予備校に通う生徒も多いらしい。
親友の『みき』とは絶交中で、私を見捨てて夏休みも東京の予備校に通うとか酷いことを言っている。
私も8月に入ると、『大学検定』の為に東京に向かう。
母がタマに顔を見せろとうるさいのだ。
私が目を覚ましてから『カマイタク病』を発症しているのじゃないか?
部屋に入ると、ソファーに何となく嫌悪感を抱く女が座っている。
鼻の付く香水!
ゆったりとソファーに座る姿もエロティックであり、チャイナドレスのようなスリットの入った服で足を組んで誘っている。
キツい化粧も勘に触る。
お色気満点のギャバクラ嬢のような女であった。
男性陣の目がハートになり、身を乗り出した。
ソフィアは肘鉄、アネストはビンタを食らわして、可愛らしい愛情表現をする。
さりげなく鑑定!
あれ?
「こちらに女性は、とある王国の研究者だ。彼女は迷宮の研究をされている」
「ほぉ、王宮魔導師か!」
「それは違います」
ニーサさんの言葉をギルド長が否定する。
「王宮魔導師が他国に出ると面倒だから偽証しておるのじゃろう。まわり諄いことを言うな」
「お察し下さい。ニーサ殿」
よく判らないけど、大人の世界は色々とあるみたいだ。
「あんたのことだから鑑定しているわよ」
「うん。したけど、普通の数字よ」
「そんな訳ないでしょう」
「王族が外出する際に身分を詐称するのじゃ。体のどこかにステータスを偽るアイテムを持っておるのじゃろう」
「ですから、この方を疑うのを止めてくれませんか?」
とにかく、色気が凄い。
「魅了が200を超えていそうじゃな!」
ニーサさんがそんな風に呟いた。