魔力増幅剤
キャラ紹介
ニーナ・アインズ
獣人と魔人とのハーフ、幻獣種の特別生
ミュラー以外からは気配すら認識できないしされない為、特別生の中では本当に存在してるのかさえ分からない者が多い。
幻魔法を極級まで扱え、闇魔法を中級まで扱える。
主に剛糸や鎖鎌を扱う。
ライチェスとアシュナはアシッドスライムを倒していた。
大抵はアシュナが斬り伏せてしまうが、取りこぼしたのをライチェスが片付けるといった感じで悪くない組み合わせである。
スライムは物理、特に斬撃に強い耐性を持つがアシュナの斬撃は超重刀『黒曜』の力により重力場が発生するため、重力場に潰され倒されている。
この刀は打ち合いになると勝負にならなくなるのはもちろん、斬撃に重力場が発生する特徴がある。
つまり、斬撃に引力が発生するのだ。
それがこの刀が反則級の強さを誇るもう一つの理由である。
接近戦においてこれほど厄介な武器はないのである。
そして、魔法で遠距離に転じても魔法を祓う鞘により魔法を無効化されてしまう。
以前の『剣帝』は魔法剣士だった為、魔法も接近も封じられ成す術なく負けた。
ライチェスは『極光』という光の上位魔法を使う。
上空から光の矢を無数に振らせる魔法である。
アシュナは鞘で魔法を防いでしまう為、広範囲の魔法も遠慮なく撃てた。
なんだかんだで息があう二人なのであった。
「ふぅ、やっぱりライちゃんと私は息がぴったりだね」
「き、気のせいじゃないかい?」
ライチェスはアシュナの熱い視線を向けられ視線を逸らし冷や汗を流している。
「サポートする僕の身にもなってくれ。もう少しは周りを見てくれないかい?」
「ライちゃんが何とかしてくれるから大丈夫だよ」
アシュナの上目遣いにライチェスは思わずどきりとしてしまった。
「だとしても、いつでも僕が助けてあげられるとは限らない」
ライチェスはアシュナから目を逸らしそう告げる。
「それでもライちゃんは何とかしてくれる」
「はぁ、どうして君は昔からそういう根拠のないことが言えるかな」
「それは、ライちゃんだからだよ」
理由になってないとライチェスは思ったが、アシュナは考えることが苦手なのは幼馴染のライチェスが一番分かっていた。
ライチェス達が下水道に近付いた時だった。
『アレは?ウチの学生か?』
学生らしき人物がどう見ても怪しげな男から怪しい箱を受け取っていた。
「兄さん、いつもご贔屓にしてくれてありがとよ」
「使えるものは何でも使う、それが例え禁薬だとしてもだ。コイツにはそれだけの価値があり魅力がある」
学生はその怪しげな男に金貨が入った袋を渡す。
「へへ、まいどあり」
怪しげな男はニタリと笑う。
『嫌なところを目撃してしまったな』
「ライちゃん、立ち止まってどう・・・むぐぅ!!」
ライチェスはアシュナの口を塞ぎ抱き抱える。
「誰だ!!」
学生はアシュナの声に気付きライチェスの方向にやって来る。
しかし、そこには誰もいない。
『光学迷彩』光魔法の中では極級の魔法である。
周囲の光を屈折させ、周囲から見えなくする認識阻害結界である。
ライチェスは結界がアシュナの鞘にふれると無効化されるのでその辺も注意しながら結界を発動している。
ライチェスの魔法は攻撃・防御・補助と欲しい時に使える魔法が多い。
攻撃特化のアシュナと相性がいいのは、ライチェスがアシュナと違い万能タイプだからである。
『技の神徒』が選んだだけはあり、技量に特化しているのがライチェスである。
「気のせいだったか?」
学生がその場から離れるまで待ち、魔法を解除する。
「まったく、危ないところだった」
ライチェスがアシュナを解放するとアシュナの顔が赤い。
「ライちゃん・・・意外と強引なんだね。そういうライちゃんも・・・」
アシュナのライチェスに対する好感度が更に上がってしまった。
「馬鹿言ってないで戻ろうか。ノルマは達成したしね」
「うぅ、ライちゃんつれない。だけど好き!!」
アシュナはライチェスに抱きつく。
「うわっ!!こんなところで抱きつくな。折れる、肋骨が折れる!!」
ライチェスはアシュナに抱きつかれ苦しがっていた。
「あら?」
「師匠!!」「お姉ちゃん!!」
クリスはライチェスに抱きついたアシュナを見ていた。
「お邪魔だったかしら?」
「そんなことありません。助けて下さい」
ライチェスは情けなくクリスに助けを求める。
「その様子だと上手くやったみたいね。後で話聞かせてね」
そう言いながら、クリスはアシュナの頭を撫でる。
「うん、後で聞かせてあげるね」
「そ、それよりも助けて下さい」
「あんたも歳下の彼女をよく守ったじゃない。それとも歳下の彼女に守られてばかりだったのかしら?」
クリスはライチェスを助ける気は無いようだった。
「ライちゃんは私を助けてくれたよ」
アシュナは嬉しそうに話す。
「そうそれは良かったわ。それはそうとそろそろ離してあげなさい」
「えー」
アシュナは嫌そうな顔をする。
「可愛いので許す!!」
「やったー」
ライチェスは救われることはなかった。
なんだかんだで妹分には甘いクリスなのであった。
「ハァハァ、君は加減というものを知らないね」
ライチェスは何とかアシュナを引き剥がし、自身に治癒魔法を使う。
治癒魔法は驚くべきのことに高位の魔法の上に水と光、もしくは風と光の複合魔法だとライチェスは話す。
光と水は即効性に優れ、光と風は持続回復に優れてるという。
なので、治癒を使える魔法使いは貴重なのだと言う。
クリスは治癒魔法の存在は認識程度には知っていたが、そこまで高位な術だとは思っていなかった。
「昔はよく稽古で怪我をした私にしてくれたよね」
「そんなこともあったね。あの時から君は無茶ばかりして・・・」
クリスは惚気かと思って聞いていた。
アシュナの話しでは、ライチェスは一緒に戦って一番安心出来ると言っていた。
クリスの中でライチェスの評価が上がるに従って、あの龍人の評価が下がっているのであった。
クリスにとっては災害級の嵐を呼ぶだけしか出来ない龍人の実力には疑問しかなかった。
「そうだ。臨時収入が入ったから良かったら何か食べない?」
クリスにはゴロツキを引き渡して得た賞金があった。
「臨時収入!?一体何をしたんですか?」
「街のゴミ掃除をしていただけよ」
クリスにとっては街に害をもたらすゴロツキもゴミと大差なかった。
「いいなぁ、私もそれくらい出来るように頑張る」
ライチェスとアシュナはまさか、クリスが街のゴロツキを片付けたとは思ってすらいなかった。
『なんというか、どっちが男か分からないわね』
アシュナの食べるものが大盛りに対して、ライチェスは少なめである。
そしてアシュナは肉が多めだ。
米と肉がアシュナの好物らしく、前の世界でいう牛丼みたいな料理が大好きだ。
それに対してライチェスは、ハニートーストとコーヒーだとクリスに話す。
ちなみにクリスはジャンクフードが大好きである。
「・・・それ、本当にウチの学生だったの?」
ライチェスはクリスに下水道近くであったことを話した。
「あの校章のエンブレムは間違いないです」
エディノーツ学園は重要なイベント以外では私服でも大丈夫だが、エンブレムの装着を義務付けている。
「なんか凄くキナ臭いわね。ミュラー聞いてた?」
クリスは付箋サイズの紙に話しかける。
別れる前に一応渡しておいた通信術式だ。
試作品だがなかなか悪くない出来である。
「分かった調べてみよう。ちなみにその箱の中身について何か言ってなかったか?」
「そういえば、禁薬がどうこうって言っていましたね」
ライチェスはミュラーに聞いていたことを話す。
「成る程、だいたい絞れた。禁薬というのは全部で三つある。不死薬、洗脳薬・・・そして、魔力増幅剤だ」
不死薬は不死になる代わりに自我を失うという薬で、洗脳薬というのは洗脳したい相手に投与して洗脳する薬のことである。
「そういえば最近、魔力増幅剤が横流しされてるって聞いたような」
クリスはゴロツキを引き渡した時にそんな話しを聞いていた。
「それだろうな。よりにもよって、魔力増幅剤か」
「何か問題でもあるの?」
ミュラーの様子からクリスは面倒な気配を察した。
「アレはだいぶ昔に当時の『財の神徒』と龍人が協力して製造法を知る者全て抹殺したから、製造法を知る者は今やいないはずなんだが・・・」
「そんなヤバイ代物なの?」
「それが原因で争いが生まれたくらいだからな。それほどまでにあの禁薬は危険なんだ」
魔力増幅剤は投与した者の魔力を大幅に上げる力を秘めている。
その代わりに、何度も投与すると精神に異常をきたし廃人になってしまうということだ。
増幅するのは投与した時だけで、それがない状態だと投与する前以下の魔力になっている。
その為、何度も投与した結果廃人になる者が続出したのだった。
「まぁ、それだけが魔力増幅剤を禁薬にした理由ではないんだがな」
ミュラーはそこまで話しそれ以降は話してくれなかった。
「そんなものを使って何するつもりなんです?」
「決まってるわ!!金儲けしかないじゃない!!」
「本当!!」
アシュナは信じ込んでいる。
「そんな訳ないじゃない。そもそも、学生が手を出せる金額なの?」
「当時は、五十ゴルドくらいが相場だったらしい」
とてもじゃないが学生が手を出せる金額ではないとクリスは思った。
「おそらく、関わってるのは学生だけではないかもしれないわね」
「ほう?」
ミュラーは興味ありげな反応だった。
「この学園は他の国の貴族達からの援助を受けてるんだったわよね。例えば貴族の中にこの学園に怨恨があって、学園側に復讐をしたい奴がいるかもしれないし、もしかすると卒業した貴族の仕業かもしれない。考え出したらキリがないけど、これだけは言える。
裏で学生を手引きしてる支援者がいるってことがね」
「それは分かったが魔力増幅剤をどう使うかが問題なんだがな」
「残念ながらそれは分からないから自分で調べるわ。あんたはその学生を援助してる奴を調べてくれないかしら」
「分かった。やってやろう」
ミュラーは妙に張り切ってるようだった。
同時刻、学園生徒会室に一人の生徒が生徒会長と面会をしていた。
「言いたいことは分かりました。案外貴方もしつこいですね。それは以前から何度も断っている事じゃないですか」
「それだ。お前ら特別生は俺たち一般生徒の意見なんか聞こうとしない。それが気に入らねえ!!だがな、生徒会長さんよ。俺は最初から断られる事を分かってここに来てんだ。お前らの鼻っ柱をへし折る為にな」
その狼のような獣人の青年は注射器を首に当て投与する。
これが魔力増幅剤だとは生徒会長であるエリックは知らなかった。
「後悔させてやる。『影縫人形』」
影で相手を拘束する闇魔法で掴まれたら逃げることは愚か魔法すら封じられる。
この魔法は魔力に応じて拘束力を増す。
『何ですか!!この強い魔力の魔法は!!』
「お前にはそこで見ていてもらうぜ、お前がどれだけ軽率な行動をしたか学園が壊されるのを指を咥えてその目に焼き付けな」
エリックは違和感を感じていた。
隣の部屋にはジンクとジェニスが控えていたはずである。
「残念ながら助けは来ねえぜ。お前達は完全に俺達の罠にはまったのさ。『迷宮結界』によって空間を歪め、この学園は一つの迷宮と化したのさ、隣の部屋は別の部屋に繋がっている。ハハッ、お前は指を咥えて見てな」
獣人の青年が指を鳴らすとエリックの周囲に各部屋の映像が映し出され、中央に迷宮と化した学園のマップがある。
「賭けをしようか、ここにお前を誰かが助けに来たらお前の勝ち、お前の仲間が全滅したら俺の勝ちだ」
「誰が!!うぐぅ!!」
エリックを縛る力が強くなる。
本来は相手を握り潰せるほど強い魔法ではないのだ。
「命令出来る立場がどっちか分かってる?」
『一体どうなって』
エリックはこの男がこれだけの魔力を扱えるとは思ってはいなかった。
「紹介しよう、こいつらが俺の精鋭だ」
男が声を発すると同時に三人の映像が映し出される。
一人は人間の女性、一人は鳥人の女性、一人は鬼人の男性だった。
「この時の為に我々は準備して来た。お前達、特別生の廃止と同時にお前達が持つ権限も全ていただく!!」
エリックは考えていた。
『迷宮結界』という大掛かりな魔法を一般生徒が行えるはずがないこと、そして今ここに至る準備をしていた事を、その準備を一体いつから行っていたのか、その準備に加担した者は何者か、考え出したらきりがなかった。