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沈黙の殺し屋

ライチェスはアシュナの刀を預かっている。


『見た目に反して重い』


アシュナの使ってる刀は超重鉄で作られている為とにかく重い。


ライチェスが『神通力』で強化してやっと持ち上げられる重さであった。


ライチェスが刀を預かってる理由はアシュナがニーナと手合わせをしたいと言ったからである。


アシュナとニーナは互いに向き合って互いの出方を伺っているようで、先に動いたのは痺れを切らしたアシュナだった。


アシュナはニーナに掴みかかるがアシュナが掴んだ瞬間、ニーナの姿が消えた。


「残像!!」


「その見え見えの殺気で避けられないと思ったんですか?」


ニーナはアシュナの放つ殺気と視線の動きのみで攻撃を予測し避けて見せた。


次に動いたのはニーナだったがアシュナはニーナの動きに反応できなかった。


「⋯⋯くっ!!」


ギリギリでアシュナはニーナの蹴りを腕で防いだ。


「もし、今ので私が足に暗器を仕込んでいたら死んでましたよ」


ニーナはアシュナに優しくアドバイスをするが、アシュナ自身、ニーナの攻撃に反応出来なかった事に疑問を感じていた。


それはライチェスも同じで、ニーナの攻撃する瞬間が分からなかったのである。


しかし、分からないものは分からないのでアシュナは、そこから更に追撃するが全てことごとく避けられ

、ニーナの拳がアシュナの背後に迫る。


「⋯⋯きゃん!!」


その一撃は確実にアシュナを捉えた。


「今ので二回死にましたね。まだ、やりますか?」


ニーナは倒れたアシュナに手を差し伸べる。


アシュナ自身、ニーナの攻撃に反応出来ない事が不可解でしかなかった。


そこでアシュナは祖父の言った事を思い出す。


獣人の『幻獣種』は絶対に敵に回してはいけない。

アレを敵に回したら何者であろうと逃れることが困難で腕が立つ鬼人ですら一瞬で殺されると言っていた。


今まで、腕っ節の喧嘩では祖父以外に負けた事はなかったが目の前の獣人には一切歯が立たない。


そして、ニーナが素手のみの手合わせを了承したのか理解した。


これはアシュナの剣術を警戒したのではなく、ニーナが手心を加えたからである。


現にニーナの攻撃に二回当たっており、これがニーナの言う通り暗器なら確実な致命傷になっている。


『神通力』で肉体を硬化出来ても、毒を使われてしまったら例え『神通力』でもどうしようもないのだ。


毒の中には受けただけで致命傷になるものも存在し、それを使われたらただではすまない事をアシュナは理解している。


アシュナの知ってる戦いとはまるで違う、相手を確実に殺す為だけの技術がニーナの戦い方だと知った。


ニーナの攻撃に入る瞬間が読めないのもニーナの持つ技術だとアシュナは気付いた。


しかし、それでもアシュナは負けず嫌いだった。


「まだ、続けるよ!!」


「さて、次はどう来ますか?」


アシュナは起き上がるとニーナに攻撃を仕掛けるがやはりニーナには攻撃が当たらない。


まるで、アシュナがどのような攻撃を仕掛けてくるか分かってるかのように避けるからだ。


フェイントを織り交ぜて仕掛けてはいるが、全て読まれてしまっているようだった。


「そんな分かりやすいフェイントはフェイントとは言いませんよ。フェイントとはこういうものです」


その瞬間、アシュナはニーナの攻撃に入る瞬間が見えた。


右脇を狙う蹴りだとアシュナは見た。


「きゃん!?」


しかし、ニーナの攻撃はアシュナの予測と違うものだった。


ニーナが繰り出したのは、足払いだったからである。


「はい、これで三回目です」


アシュナは更に混乱したニーナの攻撃は攻撃の出る瞬間が分からないのと分かったら分かったで別の攻撃が来るという事である。


「一つ進言するなら、私はアシュナさんがどう動くか手に取るように分かります。確かに剣の腕では『剣帝』に相応しい実力を兼ね備えてはいるんでしょうけど、この程度ならまだまだ未熟ですね」


「⋯⋯っ!!」


アシュナ自身、何も否定出来なかった。


剣術ではないにしろ、アシュナは確かにニーナに手も足も出なかったのである。


アシュナ自身、剣術ではないからノーカンという言い訳もしない。


祖父と立会い負けた時も悔しい思いをしたが、それ以上に悔しい思いをしたのはこれが初めてだった。


上には上がいるそれを再度思い知ったのとニーナという『幻獣』が武器を持ち出したら、確実に負けるのは自分だろうと理解した。


ニーナは物心つく頃には数え切れない程の者を暗殺したり密偵をしたりと命のやり取りをしていたその道のプロである。


相手を殺す事は何度も経験してると言っていい。


そこにはもちろん、何度も死にかける場面も遭遇した。


そして、そんな仕事をこなしていくうちに『幻獣種』として覚醒したのだ。


それにより仕事は以前よりしやすくはなったが、ニーナは油断や慢心などしていなかった。


それどころか更に牙を磨いていたのだった。


気付いた頃には『沈黙の殺し屋』とも呼ばれ、彼女に殺されたら殺された事にすら気付かないとも言われている。


しかし、彼女には仕える主人がいなかった。


というよりも仕えたいと思うほど面白い人物がいなかった事が大きい。


その為、クリスとの出会いは衝撃的だったのだ。


所謂、運命を感じたという奴である。


「そんな、落ち込まなくてもいいですよ。未熟という事はまだまだ成長できるという事ですから⋯⋯」


ニーナはアシュナを励ましている。


「うぅ、でもライちゃんに情け無い所を見られちゃった」


「フフ、それなら交流戦で勝っていい所を見せればいいんですよ。私も今回は混ぜてもらうつもりですから⋯⋯」


ニーナはいつも蚊帳の外なので今回ばかりは混ざりたかったのであった。


「それはいいんですが、先生の許可は得たんですか?曲がりなりにもあなたの主人ですよね」


「ご主人には好きにしなさいと言われました。だから、好きにする事にしました。気のせいだとは思いますが私ご主人に避けられてる気がするんです。だからこそここで私のいい所を見せるチャンスなんです!!」


ニーナは必死に主人であるクリスの為に色々とサポートしているつもりだが、クリスは大抵の事を自分でやってしまう上、ライチェスがサポートに付いてから更にニーナの居場所がなくなってしまったのである。


「ライチェス君はズルいです!!どうやってご主人に取り入ったんですか!!私の唯一のご主人との時間を奪って、これじゃ完全に放置プレイじゃないですか!!この責任をどう取ってくれるんですか!!私の醜い〇〇にライチェス君の〇〇をぶち込んでくれるんですか?ありがとうございます!!」


そのニーナの爆弾発言に対してライチェスは急いでアシュナの耳を塞いだ。


「⋯⋯何となく先生があなたとは関わるなと言った理由が分かった気がします」


ライチェスは冷ややかな視線をニーナに向けるとニーナは息を荒くして興奮している。


さっきの爆弾発言とこの現状を見てライチェスはクリスがニーナをライチェス達に関わらせたくなかった理由が分かった。


ライチェスが見た所ではあるがこのニーナという特別生は確かに他の特別生と劣らず強い事は分かったが、性格に一番の問題があるのだとライチェスは理解する。


ミュラーはクリスからの評価は最悪だが、ライチェスからしたら気のいい友人であり、クリスに関しては何を考えてるか分からない程のいい加減ぶりだが仕事はきっちりこなす上にアシュナの面倒を見たりとなんだかんだで面倒見のいい性格である。


アシュナに関しては、付き合いが長いからいい所も悪い所も全部理解しているし、ライチェスにとってはその全てが愛おしいのである。


しかし、目の前のニーナという少女はどう見ても変態の害悪そのものであり、クリスですらお手上げ状態で、クリスでお手上げ状態の相手をライチェスが何とか出来る訳などないのだ。


「ご主人が何を言ったのかは知りませんが、きっとそれは大きな誤解なんです。私は至って普通なご主人様に忠実な僕⋯⋯いや、下僕⋯⋯もとい、奴隷なんです!!だからこそ、ライチェス君が物凄く妬ましいです!!ご主人の右腕と呼ばれて調子に乗っていられるのも今のうちです!!ご主人の右腕に相応しいのは私しかいない事をご主人に知らしめてあげるんです!!」


ライチェスは知っている。


獣人が持つ主人への忠誠は絶対的なものであると言われており、有名な話では主人の城を守るため主人が亡くなっても主人との約束を守るただそれだけの為に戦い続けた獣人の戦士がいるくらいなのだ。


だからこそ、ニーナは自分の主人であるクリスの右腕がライチェスなのが我慢出来ないのである。


クリスの助手でしかないライチェスにとってはいい迷惑であり、自分ではクリスの従者だとも思ってなければ右腕だとも思っていない。


それは周りが言ってるだけなので、ライチェスにとってはいい迷惑であった。


「先生に気に入られる方法を教えてあげますか?」


ライチェスは親切心ではなくあまりにも面倒なので教える事にした。


「敵に塩を送るとは随分と余裕ですね。しかし、私は知ってるんですよ。貴方の弱みを!!」


「!!」


ライチェスの弱みとは、自分が『愛の神徒』であることであり、それを知ってるのはミュラーだけである。


ライチェスはあの男が約束を反故にするとは思っていないので、その時に聞かれていた事を理解した。


しかし、その時は確かにニーナの魔力には警戒して何度も確認したはずだったのだ。


「フフ、何故知ってるというからにはネタバラししますが、私をあまり甘く見ないで下さい。魔力の反応を消す事なんて朝飯前なんですよ。普段から消してないのは相手を油断させるためです。要するにあの時貴方達二人が私のターゲットだったら確実に死んでましたよ」


ライチェスは別に油断したつもりはなかったが、確かにニーナの言う通りではあった。


「まぁ、隠し事は誰でもある事ですのでそれに関しては口外しない事を約束します」


「ミュラーなら兎も角、それを信用しろと言うのかい?」


ニーナにしてもライチェスに嫌われる事は本意ではなかった。


「ご主人に誓って、口外しない事を約束します」


この約束は獣人にとって最も重い約束とされており、破れば主人が酷い目に会うのだ。


獣人にとって約束を破ることは主人に対する裏切りも同然なので誇り高い獣人は、その約束をしてしまったら必ず守るのである。


その約束の重さを当然ライチェスも理解している。


「それならいいんだけどね」


「それでは教えていただきますよ。ご主人に気に入られる方法を!!」


ニーナは耳をぴょこぴょこ動かし尻尾を振っている様子から見てニーナはクリスの事が相当好きだと言う事を理解した。


「はぁ、まずはさっきみたいな変態的な発言や行動をやめてみてはどうかな?」


このライチェスの的確なアドバイスにニーナは固まるしかなかった。

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