亡国の騎士
ライチェスとアシュナは夜中に見たこともない騎士が街の外で徘徊しているという噂を確認する為に夜のエディノーツの外を歩いている。
「騎士を見たという人達の話だと、その騎士に呼びかけても返事はおろか反応すらしなかったらしい。近付いた人もいたみたいだけど反撃を受けて痛い目を見てギルドに依頼したというわけさ」
ライチェスはアシュナに分かりやすく説明する。
「とりあえず斬ればいいんだね」
「話し聞いてた!!」
しかし、アシュナはライチェスの説明を理解していなかった。
「でも、騎士を斬ればいいということは分かったよ」
「強ち間違いじゃないんだけどね」
アシュナの答えは当たらずとも遠からずなので、ライチェスもツッコミに困るのである。
「⋯⋯ライちゃん、待って!!」
アシュナの視界に剣と盾を持った騎士が見えていた。
「⋯⋯シュナ、何かおかしい」
ライチェスはその騎士に違和感を感じている。
『断魔の力』に覚醒した事で、左眼は光を失ってはいるが、魔力のみを認識する事が出来る。
「その鎧、中身が⋯⋯空っぽだ」
ライチェスのその眼には騎士の鎧の中身が見えなかった。
正しくいえば鎧の中身の人間が持つ魔力を認識出来なかった。
その代わり、鎧に四肢と関節部員そして頭部に魔力が集中してる箇所を認識する。
「こいつは僕がやる」
ライチェスは『ライネル』と『エデルガ』を取り出すと頭部以外の魔力が集中してる箇所を撃ち抜き魔力を消し飛ばすと空っぽの鎧はその場に崩れ落ちる。
「そういえば、この前の手合わせでは使わなかったけど、それ使ってれば私に勝てたんじゃ」
「君に飛び道具を使って勝てても、僕自身納得できないだろうからね」
ライチェスは崩れた鎧に歩みより魔力が集中してる頭部に使われてる魔法をミュラーから教わった解析魔法で解析している。
解析魔法はその名の通り、使われてる魔法を解析する魔法で魔力を認識できる者しか行えないとされている。
「そういえば、お姉ちゃんが言ってたけど『剣帝』の称号を欲しがってる剣士が来るような事言ってたけど、ライちゃん知ってる?」
ライチェスも一応、騎士士官学校生との交流戦の話しはクリスから耳にしてる。
「先生から話しは聞いてるよ。僕自身はあまり関わりたくはない行事なんだけどね」
ライチェスは弟のレインズには関わりたくはなかった。
「ふーん、お姉ちゃんはどうするって」
「今回はおとなしく役員に回るとは言っていたね。先生にしては珍しいと思ったよ」
ライチェスはクリスの事だから儲ける事を考えると思っていたが、流石のクリスもそこまで見境がないわけではなくある意味安心していた。
「ということは、代表生で出るのは私だけなのかな?」
「もしかするとミュラーも出るかもね」
ライチェスがミュラーの事を言うとアシュナはあからさまに嫌な顔をする。
「ミュラーはどうしていつもでしゃばって来るの?」
「でしゃばってるんじゃなくて、先生に借りがあるから従うしかないから今の状況になっているんだ」
ライチェスはミュラーに同情してしまうが、クリスはなんだかんだ考えがあってミュラーを生徒会に入れた事を理解しているがその目的までは分からなかった。
しばらく会話をしているとライチェスの解析が終了する。
「⋯⋯これはもしかすると結構面倒な案件かもしれないね」
「なんかあったの?」
「この鎧自体に簡易的な遠隔操作の魔法が仕掛けられていたんだ。そして何より、その剣と盾に刻まれた紋章が何処の国のものか分からないんだ」
騎士や衛兵などの国を守る者は、必ずその国の紋章が刻まれた剣もしくは盾を持っており、見ただけで何処の国の者か分かるようになっている。
「それはリーベルンの紋章ですね」
その声はライチェスとアシュナの背後から突然聞こえた。
「うわぁ!!」
「ひゃあ!!」
その突然現れた人影に二人は驚くしかなかった。
それもそのはずで、その者の気配を全く気づかなかったからである。
その姿を見てライチェスはそれが、正体不明の特別生であるニーナ・アインズである事に気付いた。
「⋯⋯その姿はニーナさん!?」
「ライちゃん、この獣人は誰?」
アシュナはニーナの存在を知らないので、当然この反応である。
「ニーナ・アインズさん、僕達と同じ特別生の一人さ。僕も前までは知らなかったけどね。そもそも存在するか怪しい存在だったから⋯⋯」
ライチェスも『断魔の力』に覚醒した事でニーナの魔力を感じ取る事で認識出来るようにはなっていたが、それ以上にニーナの気配を断つ技量の方が上手だったのである。
「私は『幻獣種』のニーナ・アインズ、ラセツ様はおかわりないようですか?」
「お爺ちゃんを知ってるの?」
アシュナは目の前の獣人が自分の祖父を知り合いだとは思っていなかった。
「何回か暗殺と密偵の仕事を請け合った事があります。仕事の内容は守秘義務なので教えられませんが⋯⋯」
ニーナはアシュナの祖父であるラセツはお得意様の一人なので知っているのである。
「ところでリーベルンってまさか、かなり昔に滅んだとされる公国ですか?」
ライチェスはその国については勉強していたので知っていた。
種族同士の戦乱が絶えなかった時代が終わった頃に生まれた国で、邪神王と呼ばれる存在が独裁者となっていた国である。
その邪神王と呼ばれる者は戦乱を終わらせるのをよしとはしなかった。
そして、その王はあらゆる生物を堕落させ悪魔に変える力を有していた。
その力を用いて戦争を仕掛けるが、当時の勇者により倒されるが、その力は三代目の邪神王に継がれる事になるが、その三代目も勇者の力を継いだ者に倒される。
この戦いは、『勇者の書』と呼ばれる本に載っており、それをアレンジした絵本も存在しているくらいである。
ライチェスの知る限り、邪神王は七代目で完全に滅びたとされており、邪神王が滅びたと同時にその国は滅亡したのである。
「流石はご主人様の右腕だけはあって頭がキレますね。確かにリーベルンという国は確かに滅んだ国ではあるんですが、僅かながら残党が残っていたんです。私の知る限り全て狩り尽くしたと言われていたんですけどね」
「まさか、この鎧を操ってる奴が⋯⋯」
ライチェスはニーナの言いたいことを察する。
「ライチェス君達はこれ以上この件には関わらないで下さい。この件は私が後始末をやっておきます」
ニーナにしては珍しく真剣な表情をしている。
「それはそれで助かるけど、本当にいいのかい?」
「フフ、たまにはいい所を見せないと本当にただの変態というレッテルを張られてしまいますからね」
ライチェスは既に手遅れなんじゃと思いはしたが口には出さなかった。
それ以上にニーナの脱いだ姿が目に焼き付いており、思い出してしまい何も言えなくなってしまったのだ。
「ねえねえところで、ご主人様って誰の事?」
アシュナはニーナが言ったご主人様というのを知りたかった。
獣人は主人に仕えて一人前と認められる為、これほどの力を有する獣人の主人なら相当の実力者であるとアシュナは思っていた。
「私のご主人は、アシュナちゃんがよく知るクリス様ですよ」
ニーナは胸を張って答えるとアシュナは刀を構える。
「私には分かるよ。お爺ちゃんの仕事を請け負うくらいだもの、あなた相当強いでしょ」
「鬼人と違い腕っ節には自信はないんですけどね。どちらかというと私は戦いの専門じゃなくて殺す専門ですので⋯⋯あなた達の嫌う卑怯な手を平気で使いますよ」
獣人は人間や鬼人とは違い、まともな戦いはしないとされている。
奇襲や騙し討ちは当たり前で、必要とあらば敵地に潜り混んでスパイ行為を行ったりと基本的に仕事の為なら手段を選ばないのが獣人であるが、それは主人への忠誠心があるからこそできる事だとも言われている。
その為、獣人は汚れ仕事を請け負う者が多いのである。
「うん、それは知ってるよ。あなた達にとって主人に仕える事が何よりの誇りで、主人の為ならどんな手段だろうと使うし、どんな汚名だろうと被る。お爺ちゃんは、その覚悟は人間同様に侮ってはいけないって」
「⋯⋯仕方ないですね。素手のみでしたら手合わせしても構いませんよ」
アシュナは獣人についてよく理解した上で手合わせを頼んだ事をニーナは理解し、了承するが本心では鬼人の姫の力を知りたかったという興味もあった。
「うーん、徒手はあまり得意じゃないんだけどなぁ。でも、いいよ」
アシュナは剣術を極めてはいるが、徒手が出来ない訳ではない。
ただ、剣術に比べれば得意じゃないという話しであった。




