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騎士候補生

城砦都市帝都ガラーディン、そこは三割が商店で二割が住宅街、残りは城を含む王や騎士達の施設である。


その施設の一つが騎士士官学校が騎士の駐屯所に隣接するようにある。


騎士の訓練所は現役の騎士と共同で使うことが多い。


そこで、剣の素振りをする銀の甲冑と兜に身を包む幹部候補の一人が両腕に重しを付け素振りをしている。


「朝早くから随分と必死に修錬してるみたいだけど、あたい達は隊長のオマケなの分かってるか?」


その女生徒は見物席から甲冑を身にまとう男子に声をかける。


「だからといって、不様な真似はできない。例え油断して負けたとしてもそんなのは言い訳にすらならないんだ。僕は栄えあるガラーディンの騎士だからね」


兜をかぶっているのでその表情は窺い知れないが、この男子はエディノーツ学園との交流戦に心躍らせてるようだった。


「ふーん、私はあまり興味はないけどね。だって、あたいは天才だから、勝とうとしなくても勝っちゃうからな」


その女生徒は退屈そうに甲冑の男子に話す。


「それにあの学園には、僕にとっては因縁の相手がいるんだ」

「そういや、ラコフ兄以外にも兄貴がいるって言ってたな」


その女生徒は甲冑の男子の兄であるラコフと面識があった。


「僕達にとっては悪夢のような出来事だったけどね。死んだと思われていたあいつがラコフ兄を圧倒的な力の差を見せて倒したんだ。僕はそれで思い知ったんだ。本物の天才とはどういうものか。だから、あいつは僕にとっては越えるべき壁なんだ」


甲冑の男子は常に重たい甲冑と両手両足に重りを付けて訓練を受けている。

両手両足のウェイトは風呂と寝る時以外は外す事はない。

目の前の女生徒や目の前の女生徒の双子の姉に止められたが、隊長であるシモン・ザックスが放っておけと言うため何も言わなくなったのである。


「ところで隊長は、今回の学園交流の事はなんて言ってた?」

「本当、ピノって人の話しよく聞いて無いよね。ただ一言「これも任務の一貫だ。努々、恥ずかしい真似はしないように」と言ってただろ?」

「そういえば、そんなこと言ってたな」


ピノは見物席から跳び降り、剣を構える。

ピノの持つ剣は細身のエストックで、普段は空いた手に銃を持つのが彼女のスタイルである。


「レインズ!!素振りだけではつまらないだろ?あたいが手合わせに付き合ってやろう」


それに対し、レインズは刀身が一メートル以上あるクレイモアと呼ばれる大剣を握っている。


「あなたが暇なんではなくて?」


レインズはピノが暇だからわざわざ降りて来たと考えているが正にその通りであった。


「しかし、相手にとって不足なし!!相手になりましょう!!」


レインズはピノの足下から上へクレイモアを振り上げる。


「まともに受けても前みたいに折られるのはごめんだよ」


ピノはわずかに下がりながら右の軸足を半回転させて避ける。

そして残り半回転の動作でピノは距離を詰め突きを繰り出す。


レインズはそれを上半身を反らして避ける。

レインズは上半身を戻さず避けると同時にクレイモアを振り下ろすとピノは慌てて後ろに跳び避ける。


「まったく無茶苦茶だ!!その体勢で剣を振れるのはお前か、ギドウくらいなもんだよ」


ピノは呆れるしかなかった。


「逆立ちしてでも戦えるギドウさんと一緒にして欲しくないな」

「やはり、間合いという意味ではそちらに部があるか」

「重量という意味ではそっちに部があるけどね」


レインズの鎧と兜はかなり頑丈だが、かなり重い上に両手両足にも重量の負荷をかけているのである。

それで更に、重い剣を振っているのだ。


ーーーーー


「ねぇ、隊長アレ止めなくていいの?」


その様子を遠くから眺めていたピノによく似た少女は、腕を組んでそれを眺めている赤髪の男に相談すると男は不敵に笑う。


「別に止める必要はない。それに奴の成長には目を見張るものがある。最初の頃は、ピノやお前に手も足も出なかったが、今やギドウですら本気を出して互角だ」


隊長と呼ばれる男はレインズとピノの手合わせを楽しそうに見ている。


ーーーーー


時は戻ってエディノーツ学園では、クリスは事務所の椅子に腰掛け、ライチェスがお茶を入れていた。


「レインズに最後に会ったのは、僕が魔法を学ぶ為に賢者の都に留学に行く前でした。それ以来、会ってすらいません。まさか、失踪したなんて知りませんでしたよ」


ライチェスは、レインズの名前が出て来たのでクリスに懐かしむように話す。


「土の魔法が得意だと言うことと、何かある度に僕に突っかかって来たのは憶えていますよ」

「土魔法ね・・・」


クリスにとってはフェラチアのことがあるので土魔法の使い手にいいイメージがない。


「まさか、ここに来て名前を聞くとは思いませんけどね。まあ、今の僕には関係のない話ですが」

「あんたって自分の家族には結構ドライよね。分からなくはないけど」


クリスはライチェスの家族に対する嫌悪感は共感できているため、この反応は何となく予想できたさていた。

それ以前にライチェスはアシュナ以外に対しての愛情が存在しないとすら思っている。


「そうですね。それ以前に僕にとって気がかりなのは『剣帝』の座を狙ってる奴の方なんですけどね」


ライチェスはお茶をクリスと隣に座るアシュナに出す。


「アシュナが負けると思ってるの?」

「まさか、僕は剣に関してアシュナが負けるとは微塵も思ってませんよ。むしろ、よく許可が出たと思いまして」


『剣帝』を賭けた決闘は正に剣士として命を賭けた死闘である。

どちらかが死ぬか、意識を奪うか、降参するまで終わらない。


「そもそもどうしてそんな称号を欲しがるか理解が出来ないわ」


クリスにとっては、どうしてそこまでその称号にこだわるのか、理解できなかった。


「『剣帝』の称号は剣士にとっては剣の頂点に立った事を意味するからです。即ちそれは最強の剣士を意味します。剣士の誰もが目指す頂きと言うことです」


ライチェスはクリスに関係に説明する。


「つまり、アシュナは最強の剣士というわけね」

「だから、以前からそう言ってるじゃありませんか」


クリスは『剣帝』ということにあまり関心がなかったため、ライチェスがただ言ってるだけなのかと思っていた。


「あんた、どうして騎士にならなかったの?」

「だって、ライちゃんに会えないもん」

「そうだった。あんたはライチェスに会うためにここに入学したんだったわね」


アシュナがここに入学した理由はむしろそれしかなかった。

しかし、脳筋の為か特別生の中で一番成績が悪い。

勉強はクリスとライチェスが見ているが、なかなか結果が出ない為苦手なのが見て取れる。


その為、筆記試験で落とされるのが目に見えている為、特別枠でしかの入学しか方法がないのだった。


「ところで騎士士官学校との交流戦、あんたは参加するの?」

「それはレインズがいるからですか?残念ながら、僕にとってはどうでもいい相手です。なので、興味ありません」


ライチェスはレインズに特に関心もなく、相手にするつもりもないようだった。

ラチェットンを倒してからライチェスは吹っ切れてるというか、身内のことなど気にしていなかった。


しかし、レインズにとってライチェスは無視できない存在になっている事はライチェス自身知らないのは当然であった。


ーーーーー


レインズはピノのエストックを弾き飛ばす。


「相変わらず、出鱈目な力技だ」


ピノはレインズの重い一撃を受け手が痺れており、手を抑えている。


「銃ばかりに頼りきりだから剣の腕が落ちたんじゃない?」

「落ちてない!!お前がまた腕を上げただけだ!!」


それは正に図星でピノ自身、思い出してみると剣より銃を使ってた頻度が多かった気がした。

正に図星であるが、レインズが腕を上げているのもまた事実だった。


「いい立会いだった。レインズ、また腕を上げたな。ピノ、お前は交流会まで特別訓練を与える」

「シモン隊長!!それはあんまりじゃないか!!」


ピノは自分達の隊長に必死に抗議する。

ピノは確かに腕の立つ剣士ではあるが訓練を怠る事が多々ある事を隊の全員は知っている。

それでも、エリート組にいられるのは一重に彼女の腕が立つからである。

しかし、最近の彼女は隊の目から見て目に余るものがあったのだ。


「これは学園間交流という名の我々、騎士士官学校の力を見せるための任務だ。例え相手が剣の素人だろうと油断は許さん。敗北は絶対に許されない事だとお前達には言ったはずだ。安心しろ、私が直々に鍛え直してやる!!」


シモンは逃げようとするピノの首根っこを掴み引きずるように連れて行かれる。


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