試験開始
試験日当日、試験会場である学園周辺はお祭り騒ぎである。
実際に出店やら屋台やらが出てるところから実際にお祭りなんだろう。
クリスは、校舎に入り学園長の長苦しくも有難い挨拶を聞き終わるとそそくさと座学の試験をやる教室に入る。
試験内容を見るに八割くらいが魔法理論で残り二割が四神のことである。
ある程度、本を借りて読んだので知ってはいたが、読めば読むほど『智の神』が他の神より最も偉大だということが書いてあるのだ。
確かにそんな偉大な神様の名を勝手に語るのは安易な事だったのかもしれないと思った。
座学の試験はそれほど難しくはなく、十分くらいで終わったので挙手して終わった旨を試験官に伝え教室から退出する。
「へぇ、随分と早いね。まぁ、それほど悩む問題はなかったからね」
目の前にはハーフレンズの眼鏡で紺と白のローブを着た十歳くらいの銀髪のぱっと見十代前半くらいの少年がいた。
青年の一番の特徴は長く尖った耳だった。
「誰?」
「誰とはご挨拶だね。僕はライチェス・フロス『技の神徒様』から代表に選ばれたと言えば分かるかな」
ライチェスはドヤ顔で語る。
態度と表情がウザいとにかくウザいというのがクリスの一番の印象だった。
「特別生は試験を免除されるんじゃなかったの?」
「うん、本来は僕みたいな選ばれた人間は受けなくていいんだけど、今年は『財の神徒』が選抜した代表がいるんだ。そいつはどういう訳か試験を受けて入学するらしい。その堂々たる姿勢に対して『技の神徒様』が感銘を受けたのだ。代表だからというその立場に甘んじることなく自分の力を試したいのだと。その姿勢こそが『智の神徒』に選ばれるのに必要な資質なのかもしれないと『技の神徒様』が仰っていたからだ。だから、僕はこの茶番に付き合ってやってるんだ」
クリスは『最後の台詞で台無しだよ』と思っていた。
「ところで、君の名前は?」
「クリス・スロットよ」
「クリスか、ところで最後の設問をどう答えたか教えてくれないかい?」
最後の設問、それは魔法式の組み立て理論だ。
複合ではなく基礎的な理論である。
複雑な式ほど形が複雑化する。
それを簡略化して同じ意味にする式に組み替える設問だった。
「それで間違いないわ。でも、ここをこうすれば」
クリスは紙に書いて説明する。
「君は・・・天才か!!確かにそれなら更に短くできる」
ライチェスがここまで興奮することにクリスは理解できなかった。
「いや、待て。その理論が当てはまるなら他の式にも・・・」
「ねぇ、それってそこまで驚くようなこと?」
クリスは当たり前のようにやっていたのでそれほど驚くようなことではなかった。
「ああ、すまない。まさか、こんな高レベルな話しができる者が試験を受けてるとは思わなかったよ!!」
クリスはこのライチェスという少年は、とにかくウザい奴だが悪い奴ではないと思った。
そこは試験官の集う会議室、ただ長机が置かれているだけでいるのは、魔法理論シンスと戦闘顧問ガイアス、副校長エリンがいる。
「ねぇ、この答案って・・・」
シンスは目を輝かせていた。
「おいおい、俺はこういうのさっぱりだから理解できないが、鼻息荒くするほどのことか?」
ガイアスはシンスの態度にドン引きしている。
「確かに『財の神徒』のお眼鏡に叶うだけのことはあるわ。非の打ち所がないどころか全く見当たらない程の解答だもの。それどころか、最後の設問は素晴らしいの一言だわ。ここまでの答えを出すのにはかなり長い年月がかかるのにこの答えを導き出すなんて」
シンスは感銘を受けていた。
「やれやれ、俺にはたぶん一生理解できない境地だな」
ガイアスは呆れていた。
しかし、『財の神徒』がとんでもない奴を連れて来たのを理解した。
次の試験は魔法技術の試験だった。
ただ単にどこまで離れた的に魔法を当てられるかというものである。
合格ラインは五十メートルらしいが、クリスは校庭の端から端までの距離を当てたのだ。
その為、測定が困難となったため端から端までの距離である五キロメートルという記録になっていた。
ちなみにライチェスは、一キロメートルが限界だった。
「実際に目の当たりにしたが、アレはまだ離しても当てられるという感じだったぞ。『財の神徒』はどこであんなの見つけたんだ!!」
「うむ、確かに『技の神徒』が選んだ者と比べても規格外だというのは分かった」
ガイアスとグラゾは比較の対象として無茶を言い『技の神徒』に協力を仰いだのだ。
しかし二人は、その結果を見て『技の神徒』に申し訳ない気持ちになっていた。
クリスは二人が想像していた以上の規格外だったからだ。
しかし、二人が想像した以上に『技の神徒』が選抜した特別生はクリスに感銘を受け手本にするほどのメンタルの強さを持っていた。
「流石、師匠です。
あんな的如きで師匠の力を推しはかろうとは浅はかの極み!!」
ライチェスはいつのまにかクリスを師匠と呼んでいる。
「・・・さっきから気になったんだけど師匠って私のこと?」
「他に誰がいるんです?」
ライチェスは当たり前のように答える。
「流石に恥ずかしいからやめて欲しいんだけど」
「僕は決めたのです。あなたのような方が僕の師匠に相応しい方なのだと、先程の無礼な態度を許していただきたい」
クリスはかなり困った表情でいう。
「はぁ」
クリスはこういう時にどういう対応をすれば分からなかった。
今まで人に関わらなかったツケが回って来たんだと諦めることにした。
次は戦闘技術試験だったが、三十分の休憩が入る。
「なぁ、本当にいいのか?ソウルナイトは準接触禁忌種に分類されてる魔物なのは知ってんだよな!!」
準接触禁忌種とは接触禁忌種の次に危険な魔物である。
準接触禁忌種、接触禁忌種、禁忌種の順で危険なのだ。
そのソウルナイトという魔物は誰一人として倒せた者はいないのである。
ソウルナイトの特徴は物理攻撃や魔法が効かないのだ。
結界で動きを封じるしか手がないといわれており、準接触禁忌種や接触禁忌種はとある場所でしか出ないと言われている。
確かに資料として、ソウルナイトを厳重に保管はしているがここにあるとは学園長以外は知らないことなのだ。
「おそらく、『財の神徒』もそれを知っての上で言ったのだ。会場の結界を厳重にした上で行う」
試験官達は会場の結界設置に追われていた。
準備が終わると試験は開始された。
今回はクリスの順番は最後だった。
試験官の顔は真剣で危険なら逃げろと言われた。
どうしてそこまで怯えているのか分からなかったが、その相手と戦い彼女は理解するのだった。
目の前に現れたのは、赤褐色の剣を持った鎧だった。
大きさは三メートル近くあるだろうが、谷で見た鎧熊も似た大きさがあった。
鎧の隙間から黒い霧状なものが漏れ出ている。
開始の合図と同時にクリスは槍を投げると槍はソウルナイトをすり抜ける。
「!!」
手元に戻ると同時にソウルナイトは剣を振り下ろす。
クリスは手をかざし消滅させようとする。
目には見えないが、クリスの目の前には透明な六角形の壁が展開されている。
剣がその壁に触れると触れた箇所が消滅した。
ソウルナイトは剣が半分消滅したところで剣を引いた。
クリスが槍を薙ぐと視認できない鎌がソウルナイトの胴体を切り裂く。
ソウルナイトの胴体が離れると同時にソウルナイトに消滅の力が降り注ぐ。
「あそこにいた奴らよりは持ち堪えるわね。これでようやく理解できたわ。どうやらこれが私の適正という奴なんでしょうね」
クリスは更に消滅の力を増幅させると数秒でソウルナイトは消し飛んだ。
クリスがソウルナイトを圧倒したという報告は、試験官を通じて学園に広がった。
「ソウルナイトって結界で封じ込めるのがやっとなんだろ。そんなのを倒すって、どんな魔法だよ」
ガイアスは既に理解が出来ていなかった。
こんなことは前代未聞なのだから仕方ないことだった。
「準接触禁忌種を圧倒する奴をどこ探せば出会えるんだよ」
ガイアスは最早、どこでクリスを見つけたかの方が気になっていた。
「神が見放した地なら、或いは・・・」
グラゾはそんなことを口走るがあまりに現実離れしていた。
神が見放した地もしくは禁足地と呼ばれる場所には、準接触禁忌種や接触禁忌種もしくはそれに準じる力を持つ魔物や魔獣が存在する。
しかし、その地は人が生きるにはあまりに過酷な環境なのだ。
この近くにある禁足地は、『冥府の谷』と呼ばれる場所である。
ちなみにクリスが戦った鎧熊と呼ばれる魔獣はスケイルグリズリーと呼ばれる準接触禁忌種だったのである。
「いや、これは現実的ではない。そもそも、彼女は一体どのようにしてあの魔法を身に付けたのじゃ」
グラゾはそれが一番の疑問だった。
彼女の扱う魔法は六元素に当てはめてもどれにも該当しないのだ。
「なるほど、『財の神徒』が気にかけるのも納得じゃ!!確かにあれほどの使い手を泳がせておくのはもったいない。やはり、歴代の『財の神徒』の中で一番の神眼の使い手であるのは間違いないようじゃ」
グラゾは『財の神徒』の力は疑ってはいなかったが、改めてその凄さを再認識させられた。
その後は後日発表されるだけだった。
ソウルナイトを倒したという話を聞きライチェスは興奮していた。
「流石、師匠です。準接触禁忌種を倒してしまうとは、最早師匠を止められる者はこの学園にはいないのかもしれません!!」
「今一パッとしないけど、準接触禁忌種ってそんなにヤバイの?」
クリスはそれがどれくらいヤバイ相手なのか知らなかった。
「なんと!!あの程度では師匠の相手にはならないと、接触禁忌種とは本来人が相手はしてはいけない相手の事を指します。準接触禁忌種は完全な準備をして挑んでやっと退ける魔物や魔獣のことです」
接触禁忌種というのは出会ってしまったら最期、逃げる事すらかなわないらしい。
しかし、生き残った者がいたらしいがその者は、腐肉と化して言葉を発せなかったらしい。
所謂ゾンビである。
「ちなみにライチェスはどんな相手だったの?」
「ディノラットっていう大きい鼠です」
大きい鼠ならクリスも見たことがあった。
あの谷底で腐肉を貪っていた奴である。
氷で貫いた程度では死なず、徐々に肉体を再生させる。
肉体を消滅させるか灰にしないと倒せない奴だった。
クリスの中ではそれほど弱い部類ではなかった。
「それは結構大変だったじゃない」
「恐縮です」
もちろんクリスの勘違いである。
クリスの戦った鼠はドールズラットと呼ばれる魔物で、本体は内側にいる小さい鼠で外殻はただの土人形なのである。
一応、複数の場合に限り準接触禁忌種に該当する。
「おい、アレが噂の・・・」
「なんだ、特別生と一緒なんてもう受かってる気なのか?」
「準接触禁忌種を倒したってきっと何かの間違いよ」
そんな声が聞こえる。
クリスは別に相手にする必要はないと思ったが、ライチェスはくってかかる。
この辺はまだ子供だと思うと微笑ましくなってくるが、クリスは別にショタコンではなかった。
個人的にはガレスのような大人な男性がタイプだった。
「なんだと!!」
「ライチェス!!いいから!!」
「しかし、師匠!!」
クリスは別にこういうのには慣れていた。
だからこそ、ライチェスが怒ってくれたのは嬉しかった。
あっちの世界ではこんな存在はいなかった。
「私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、私には私の力を認めてくれる人がいればそれで充分よ」
「!!」
ライチェスはクリスの言葉になんて器の広い人なんだと益々ライチェスの好感度を上げていく。
「ところで師匠はどうして女言葉なんですか?」
「それは私は女だからよ」
その返答にライチェスは不思議そうな顔をする。
「そ、そんな、どこからどう見ても・・・!?」
「これでどうかしら」
クリスは器用にも白衣の内側の服を脱いだのだ。
「グハァッ!!」
ライチェスはクリスの裸体を見て鼻血を吹き上げ倒れた。
クリスはなぜ、ライチェスが鼻血を吹き上げ倒れたのを理解出来なかったが、流石にそのままにしておかなかったので医務室まで運んだ。




