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姉貴分と妹分&兄貴分と弟分

翌日の放課後、クリスは事務所にアシュナを呼ぶ。


「お姉ちゃん、来たよー」

「・・・時間通りね。最近は自分で学校の用意も出来るようになってきたし、遅刻もしなくなったし、いい感じだからこれからも精進してちょうだいね」


クリスはアシュナを褒める。


「でも、授業中の居眠りと早弁は関心しないわね」

「だって、分からなくて退屈だし、お腹空いてるんだもん」

「そんな言い訳ばかりしてるとミュラーみたいになるわよ」

「そんなの嫌!!分かった。頑張って我慢する!!」


アシュナは最初ミュラーが誰か知らないようだったので説明したら一瞬で憶えた。

それ以降、言い訳ばかりしてるとミュラーみたいになると言うと大抵の事はするようになった。

実際、あの男は反面教師にするのにはちょうどいいとクリスは最近思ってしまった。


「いい心がけね。一気に直すのが難しいなら一つずつ直していきなさい。それと、目指すならライチェスにしなさい。アイツは調子に乗る時があるけど、アイツの場合、結果を残してくれるから許されるのよ。アイツは言ったことは必ず守ってくれたでしょ」

「うん!!」


それに関してはアシュナの方が分かっていたのでアシュナは自信満々に答える。


「まぁ、座りなさい。お茶くらいしかないけど、何か飲みたいものある?」

「うーん、深緑茶があれば飲みたいかな」


深緑茶とは元の世界でいう抹茶や玉露の事を指す。

この世界において世界三大茶葉と呼ばれる高級茶葉の一つである。


「流石は鬼人のお嬢様だけの事はあるわね。問題ないわ。この事務所には客のニーズに合わせた茶葉を揃えているから」


クリスは昨日の鬼人達の会話でアシュナが鬼人の都のお嬢様だという事を確信した。

ライチェスは当然のように知っていたようだが、本人曰く聞かれなかったから答えなかったと答えたので、それに関してはその通りなので追及していない。

クリスは茶碗に深緑茶を注ぎ、お茶受けを出す。


「・・・」


アシュナはゆっくりと深緑茶に口を付ける。


「・・・ライちゃんが淹れてくれるお茶の方が美味しい」


アシュナは少しがっかりしたように言う。


「悪かったわね。私はアイツみたいに器用になんでも出来るわけじゃないのよ!!」

「お姉ちゃんはもっとお茶を上手く淹れられるようになろうね」

「うぐぅっ」


自分の妹分に言われる事ほどショックな事はなく、アシュナに言い訳せずに努力しろと言ってることもあり、何も言えない状況だった。

そもそも、ニーナに代わり、ライチェスがお茶を淹れるようになってから同じ茶葉を使ってもここに来る客に「茶葉変えた?」と聞かれる始末である。


「いつか、アイツより美味いと言わせてやるわ!!」

「頑張って!!」


元々一人で育って来たクリスだったが、妹というのも案外悪くないなと考える。


『それにしても緑茶といい、この羊羹みたいなお菓子といい、アシュナの着てる着物といい、鬼人の文化って随分と和風なのね。そういえば、ライチェスが木造家屋が多く、見たことのない白壁や砂に波の様な模様が入った庭があると言っていたわね。おそらく、漆喰と枯山水のことなんだろうけど、そういえば鬼人は独自の文化を持っているって聞いてたけど、独自の文化って和風文化のことなんじゃ』


そう考えると、急にアシュナに親近感が湧いてくる。


「ライチェスの話しがなかったら、鬼人の都って鋼鉄で出来た家屋ばかりだと思っていたわ」

「それはそれで失礼だけど、それはどちらかというと人間じゃない?」

「どういうこと?」


クリス自身、人間という種族に最も興味がなかった為、ここの人間についてあまりよく知らなかった。

ライチェスの説明で『付与魔法』を生み出したということしか知らないのだ。


「私も一度しか近くで見たことないけど、帝都ガラーディンの『金剛城』と呼ばれるお城が正にそれだよ。お爺ちゃんやライちゃんはあの城自体が巨大な『付与魔法』だって言ってた。人間以外には到底真似出来ない『付与魔法』の完成形だとも言ってたよ。私はどこが凄いかよく分からないけどね」


アシュナは『神通力』と『剣術』以外はあまり詳しくないのはクリスは知っているので無理に聞かない。

こういうのは、アシュナの彼氏の方が詳しいのでそちらに聞いた方が確実である。


「でも、この世界の人間って話を聞く限りあまり大したことなさそうなんだけどね」

「お爺ちゃんが、ある意味龍人以上に一番油断してはいけないのが人間だって言ってたよ。あの種族は敵が強大であればあるほど、智慧を絞り更に強くなって挑んで来る種族だって、だから鬼人としては敵に回すより友好的に切磋琢磨していく関係の方がお互いに良いって言ってた。獣人はどちらとも友好的だったから、というよりも獣人は主君に付いて名をあげるのが一番の喜びらしいよ。昔から主君の影や右腕として働くことが多かったみたい。この三種族は力の民と呼ばれて、龍人、鳥人、魔人が魔法で調子に乗っていた時代に終止符を打ったんだよ」

「ミュラーからはあんたらが龍人をとっちめて終わらせたと聞いてるけど?」

「その龍人についたのが鳥人と魔人だったんだよ。そこから、この三種族は魔の民とも呼ばれてるよ。でも、結束力が力の民ほどなかったから、龍人さえ倒せば勝手に瓦解するだろうというのが当時の力の民の考えだったみたいで、実際にはその通りになったよ。確か、覇龍種の一体を倒したんだっけ?」


アシュナもその辺は詳しくは知らないらしいが、クリスが知る限り覇龍種がそこまで大した奴だとは思えないのは間違いなくミュラーの所為だと思っていた。


「『力の民』強過ぎじゃない」

「強いというより、魔封祓神力樹を使えば魔法に頼りきりの相手を完全に無力化出来たから楽だったんだよ。でも、龍人はそれなりに力はあるから、楽ではなかったらしいけど、それは『付与魔法』を使った武器で対処したみたい。呪傷と腐蝕の付与を使った武器を使ってね」


呪傷の効果は動く度に傷口を広げ、超級の治癒魔法じゃなければ回復しない厄介な傷で、腐蝕は治癒魔法の効果を弱め傷ついた部分が腐蝕していく傷である。

ちなみに、この武器は現在再現することは困難とされている。


「鬼人もとんでもないけど、そんな武器を作っちゃう人間もやばいわね。でも、その武器って何処に行ったの?」

「覇龍種を倒した時に壊れてしまって、その後その武器がどうなったかは誰も知らないよ」

「でも、確かにそんな武器を作ってしまう人間は鬼人とは違う意味で驚異ね」


クリスはここの人間がどういうものかライチェスやアシュナの意見だけではなく、ミュラーの見解も気になった。

だが、なんとなくどういう答えが返って来るか予想出来る。

そもそも、あの樹がなければ、そんな武器すら通らなかった。

アレは武器じゃなくあの樹を使って魔法を無効化する戦い方が出来る鬼人だから出来た事だ。

と答えるのが目に見えていて、後日質問したら正にその通りだった。


「人間といえば、来月の上旬くらいに帝都ガラーディンの騎士士官学校との交流会が一週間に渡って行われるらしいじゃない」

「交流会で行う交流戦の選抜メンバーを募集してたね。お姉ちゃんどうするの?」

「うーん、今回は役員に回るわ。昨日のあんた達の手合わせを見て観る側も案外面白いものだと思ったからね」


ライチェスは最終的に折れてアシュナと手合わせした。

ライチェスの事だから、アシュナ相手に本気でやらないだろうと思いきやライチェスの最大奥義とも言える難攻不落な防御結界『完全の愛(パルフェタムール)』を使ったのだ。

それに対しアシュナは、ミュラーに放った奥義『壊那』を放とうと抜刀術の構えをする。

手合わせの後からライチェスに聞いた事だが、アシュナの『壊那』は使う度に鞘を摩耗すると言っており、刀の刀身に魔封祓神力樹の粉を付着させ、干渉力を無効化する斬撃を放つので避けるしか選択肢がないのだと話していた。

ライチェスの『神通力』を持ってしてもアシュナの斬撃は受けられなかった。

実際、クリスにはアシュナが刀を抜いた瞬間が見えなかった。

ライチェスが動いた瞬間には抜き放っていたからだ。

そこからのアシュナの動きは凄まじく、刀を振る音が遅れて聞こえてくるのだ。

動きが速くて、分からなかった。

それをギリギリで避けてるライチェスは結構凄いのではと思ってしまった。


「あんたが恋人相手でも容赦ないのは予想外だったわ」

「ライちゃんは最初から本気だったからね。アレを破る為には、私も相応の力で迎え撃たないといけなかったよ」

「あそこまで強くなったライチェスを圧倒するなんて本当出鱈目だわ。ライチェス落ち込んでたじゃない」

「うーん、ライちゃんはあの程度で落ち込まないと思うよ。むしろ、更に強くなってくれるからね」


アシュナはあの程度でライチェスが落ち込む程、弱い精神の持ち主だとは思ってない。




学園の屋上ではミュラーとライチェスが、談笑していた。


「それは災難だったな」

「僕としては不本意でしかなかったけどね」


ライチェス自身かなり不本意な手合わせだったのだ。


「だが、あの娘を相手にお前が本気を出すとは思わなかったがな」

「そこまでやらないとシュナの相手なんか出来ないよ。僕の全力でやっと遊びじゃないシュナの相手になれる感じだからね。それでも、まだ手は抜いてくれてたみたいだけど」


ライチェスはアレがアシュナの全力だとは思ってなかった。


「僕ももっと強くならないといけないな」


ライチェスは更に強くならないと決意する。


「そういえば、ミュラーはシュナの父親と会ったことがあるらしいけどどういう人だったんだい?」

「・・・俺が奴に会ったのは、あの娘が産まれる前だから何の参考にもならんが、一度一緒に飲んだ仲だ。あの男はあの娘の父とは思えないほど聡明で穏やかな剣士だ。その時は修行の旅の道中だと話していたな。奴は龍人相手でも友好的に話す変わった男だった。だが、その力はおそらく、鬼人の中でもトップクラスかつ、俺が会った中で最強の鬼人は間違いなくあの男だろう。確かシュウガ・テイゼンと名乗っていたし、あの娘にはどことなく剣を振る姿があの男の面影がある。まさか、あの一ヶ所に留まる事が嫌いな男に子供を作るとは考えていなかった。それ以上に俺にとってみればあの男が自分の親を斬り、自分の娘を捨てるなど考えられないがな」

「何か理由があると思ってるのかい?」

「じゃなければ、その乱心したと思える行動が説明出来ない」

「そもそも、どうしてシュナの父親と戦う事になったんだい?」

「俺が襲いかかったからだ」

「・・・先生がミュラーに対する評価が低い理由が分かった気がしたよ」

「ちょっと待て!!お前はとても失礼な事を考えてないか?誤解だ!!それには深ーい事情がだな」

「鬼人だから見境なく襲ったとか下らない事は言わないでね」

「・・・は、話は変わるが、あの男は酒も強くてだな」

『図星だったんだ・・・』


ライチェスのミュラーに対する評価が下がったが、ミュラーは懐かしそうに話し、ライチェスはその思い出話しを黙って聞いていた。

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