新生生徒会役員
ライチェスは自分より大きな鬼人に囲まれ、戸惑いを隠せなかった。
どう見ても自分よりも強そうな者ばかりだったからである。
そういう鬼人がライチェスの憧れだったりするが、囲まれると流石に怖いものがある。
しかし、鬼人の傭兵達が取った行動はライチェスの予想外のものだった。
「おぬしを歴戦の強者として拙者達の弟子入りを所望する」
その鬼人達はライチェスに頭を下げ、ライチェスに弟子入りを懇願して来たのだ。
「えっ!?」
ライチェスの思考回路はフリーズした。
ーーーーー
それは以前、職員の会議室だった場所であるが、今は新生生徒会の面々が揃っている。
会長のエリックと副会長のジェニス、書記のリカルド、監査役のゲイズ、その他役員であるジンク、ギィナそして、ミュラーだった。
「さて、今回の議題ですが・・・」
「ちょっと待て」
エリックが会議を始めようとするとジンクが割って入る。
「なんで龍人のお前がここにいる!!」
ジンクは立ち上がりミュラーに指をさす。
「それはあの女にでも聞くんだな。俺は特に意見する気はない。あの女への借りを返す為にあいつの代わりに役員になっただけだ。勘違いするな」
ミュラーにはクリスに校舎の窓ガラスを全部弁償してもらった借りがある。
その話を蒸し返されそうになった為、仕方なく引き受けたのだ。
「これは俺からの警告だ!!龍人が鬼人には絶対にすることのない最初で最後の警告だ!!あの女には絶対に借りは作るな。後悔することになる。それが、この状況だ。普段なら相容れない俺達だが、この場においては仲良くするように言われている。だが、俺にも我慢の限界というものがある。ついやってしまったで納得するような奴じゃない。奴は更にきつい罰則を用意してるのは目に見えて分かった。俺はこれ以上俺自身の立場を悪化させる訳にはいかないんだ!!」
「お、おう、なんか知らんがお前が苦労してることは分かった」
普段は相容れない鬼人のジンクだが、ミュラーの苦労が見て取れたのでとりあえずこの場においては我慢しようと思った。
それ以前に、ミュラーの警告が自身にとばっちりが来る可能性を示唆した警告だった為、従うことにした。
「あの女は敵だろうが、味方だろうが容赦ないんだな。おっかねぇこった」
それに反応したのは学園内抗争の主犯の一人、ゲイズである。
彼を監査役に任命したのはエリックとクリスである。
一般生徒達の納得のいく議題となっているか、一般生徒がないがしろにされてないか、監査する為の役職である。
直接対峙した彼はクリスの恐ろしさを肌で理解していた。
「まるで、被害者の会みたいになってません?」
ギィナが男達がクリスのことに対し愚痴ってるようにしか見えなかった。
「仕方ないわ。会長もあの子には頭が上がらないのだからね」
鳥人のオカマであるリカルドは、会長のエリックに話を振る。
「ああ見えて仕事はしっかりやってくれる人ですからね。それに祖父を助けられた借りが彼女にはあるので」
「それは報酬でチャラになったのではなかったのではないか?」
ミュラーの意見には普段は相容れないはずの鬼人であるジンクも同意見だった。
「そもそもあの報酬は副校長が捕縛された時の報酬ですし、祖父は副校長の悪事を公言したに過ぎません。あの譲った部屋だって祖父を助けていただいた報酬です。僕自身助けていただいた借りがまだ残っているんです」
「それなら気を付けた方がいいな。いつそれをネタにして無理難題を吹っかけられるか分かったもんじゃないぞ」
「あの女、悪魔以上に質が悪いな」
「悪魔すら逃げ出すレベルだ」
「ハハッ、ちげぇねえ」
ミュラー、ジンク、ゲイズはクリスの恐ろしさを共通の認識にしていた。
『まさか、ジンクが龍人の彼と一度は敵対した獣人の彼と意気投合するとは思わなかったです。でも、全てあの人の掌の上で仕組まれた感じがするのは気のせいでしょうか?』
エリックはこの三人に共通認識を与えることで意気投合させようとしているのではないかと考えた。
もちろんクリスにそんな高尚な考えはない。
面倒だから押し付けたただそれだけである。
「さて、今回の議題ですが、帝都ガラーディンの騎士士官学校から学園間交流をしたいとの申し出がありました。その前に皆さんの意見を聞きたいのです」
「だから、私が呼ばれたのですか」
ギィナは元々、帝都ガラーディンの出身である。
元々は騎士士官学校に通うつもりだったが友人であるゲイズ、リュン、クジャについて来た感じである。
「その前にその経緯を聞きたいところなんだがな」
最初から難色を示したのはミュラーだった。
「お前、意見する気はないんじゃなかったのか?」
ミュラーの発言にジンクが突っ込む。
「俺としては気が進まない議題だ。それにこの件は聞いておかないとあの女はいい金づるが来るとしか考えかねん。せっかくの交流会で俺達まであんな守銭奴と一緒にされてはかなわんだろ。奴がギルドでどういう扱いか知らぬ訳はあるまい?」
「ギルドでは守銭奴とか銭ゲバだとか言われていたな。奴は金のためなら自分の魂すら売るんじゃないかとも言われていた。確かにあれは学園全体のイメージを落としかねねぇな」
ミュラーの意見にゲイズは同意すると全員がその意見には納得する。
「でも、悪い噂だけではないんですよね。クレイガルドの件では学園に親御さん達から御礼状が届きましたから。少なくとも彼女に救われた方もいる事は事実です」
エリックはクリスには悪い噂だけがあるわけではないと話す。
「あの女の場合、結果的にそうなった可能性の方が大きいと思うがな」
「そうだ、それだって金の為に動いたに違いねえ!!」
ミュラーとゲイズは同意見であった。
「まぁ、あの人のことは一先ず置いといて、今回の交流会ですが、騎士士官学校の校長であるセルゲイ団長が、騎士士官学校の幹部候補生に剣術以外のことを学ばせてやりたいとの申し出の文が学園長の元に届きました。学園長自身も私達にはいい経験になるので悪くない申し出だと仰っていました。しかし、これをどうするかは生徒会に一任するとも仰いました。それがこの会議をしてる経緯です」
エリックはミュラーの質問に答える。
「分かった。それなら俺はあの女が勝手なことをしないよう目を光らせておこう」
「本当にできるのか?」
ジンクには不安しかなかった。
「いざとなったら実力行使に・・・」
「やめろ!!お前らが暴れたら学園は跡形も残らなくなる。分かった、その時は俺っちも手を貸す。絶対にお前だけで片付けようとするな!!」
ジンクは学園が焦土と化すのは勘弁して欲しかったので仕方なくミュラーに手を貸すことにした。
この時この二人以外は、お前ら本当は仲良いだろと思っていた。
「さて、本題ですが交流会に参加するのは騎士士官学校の幹部候補生の中でも選りすぐりの精鋭がやって来るそうよ。期待のホープであるレインズ・フロス、騎士の名家であるブラン姉妹、風切りのギドウ・イナナギ、そして聖闇剣のシモン・ザックスね」
ジェニスは資料を読み上げている。
「そして、そのシモンがアシュナさんとの『剣帝』の座をかけた決闘を所望しているわ」
「ハハッ、またそいつは面白えことになってるな。奴らの戦い方はいつも俺達を楽しませてくれる。どこかの魔法に頼り切る奴らと違ってな」
ジンクはあえて何がとは言わないが、ミュラーは分かっていた。
「シモンとギドウか、その二人はよく知ってるぜ。シモンは鬼人の剣術の一つ『舞剣』を扱う人間の剣士だ。確か免許皆伝だったはずだな。そして、ギドウは『遊剣』の使い手で俺っちの兄弟子だ。昔はよく稽古してもらったが勝ったことはなかった」
「お前が弱いだけじゃないのか?」
仕返しとばかりにミュラーが話す。
「それは一応気にしてんだぜ。お前に『遊剣』は向いてないと言われたからな」
ジンクとしても向いてないことは分かってるらしい。
「でも、俺っちはこの剣術が好きだから使う。誰がなんと言おうがな」
ジンクはあえてそれを分かって使っているのだった。
「それと、俺はよく分からんのだが免許皆伝とは凄いのか?」
「龍人のお前と同じ感覚で言わせてもらうなら、極級を超えた者、神域クラスに達した者みたいなもんだ。その剣術バージョンだと思えばいい」
それを話すとミュラーは驚いた様子だった。
神域と呼ばれる魔法は極級をさらに極めた一部の者しか扱うことの出来ない最上級の魔法である。
「成る程、よく分かる例えだ」
ミュラーはそれがどれほど大変か理解してる為、ジンクの説明が一番分かりやすかった。
「ブラン姉妹は騎士の英才教育を受けた獣人の姉妹だ。姉より妹の方が厄介だと聞いたことがある」
「ちなみにガラーディンにいた頃、告白して撃沈した相手がその姉でしたね。それからでしょうかゲイズが荒れ始めたのは・・・」
「ギィナ、昔の話を蒸し返すな。姉は『騎士流』を使うが妹は『銃剣流』という魔法銃と剣を扱う変わった剣術を扱う」
ゲイズはその話について触れられたくないのか話題を変えようと必死になる。
「ギィナさん、その話し後で詳しく」
「そういえば、近くに美味しいパンケーキ屋がありましたね」
「分かったわ。そこで話を聞きましょう」
「交渉成立ですね」
ジェニスはギィナにゲイズとブラン姉の話しを聞く為にギィナに奢ることで聞き出す交渉に成功する。
「ギィナあああ!!お前は俺の味方じゃなかったのかよ!!」
「それはそれ、これはこれ、何かある度に後輩に八つ当たりして、その時の私とリュンとクジャの苦労を考えて下さい」
ギィナは眉間にしわを寄せ溜息混じりに話す。
「分かった。ギィナ、一旦話し合おう。な?」
ゲイズが身を低くしてギィナを説得しようとしている。
「何故だろうな。こいつからお前と同じ感じがするのは」
ジンクはゲイズがギィナを説得しようとしてる姿が、今のミュラーを見てるようだった。
「一緒にするな。・・・と言いたいがその通りだから何も言えん」
「まぁ、俺っちもジェニスには頭が上がらないから人のこと言えないけどな」
「お前も苦労してるのだな」
少女相手に頭が上がらない男同士で謎めいた絆が生まれようとしていた。
「だが、レインズ・フロスって聞いたことないな」
「有名な剣士や騎士の息子や孫とかなら親の名前くらいは聞くからな」
ジンクとゲイズは有名な剣士や騎士では聞いたことのないファミリーネームだった。
「確か、ライチェスのファミリーネームがフロスじゃなかったか?」
ミュラーはクラスメイトなのでしっかりと憶えていた。
「あいつか・・・」
ゲイズはリュンを倒した奴という認識でライチェスを憶えていた。
「彼の親族なら、ある意味で安心ね。いざとなれば彼に丸投げできるもの」
ジェニスはレインズが何か起こした場合はライチェスに責任を取ってもらおうとしてる。
「いや、確かアイツは既にフロスとはこの前の一件で縁を切っているぞ」
「あら、それは残念。それで、縁を切ったということは今はフロスじゃなく何を使ってるの?」
「奴に戦い方を全て教えた師匠の名前からクロムスを使ってる」
『愛の神徒』は知名度が低いため、これくらいならバレることはない。
「とりあえず、本題に戻りますが、彼等と交流戦を行うこととなっております。その交流戦をする者をゲイズさん主導で決めていただきたいのです」
エリックは本題から話がそれて行ってるので一旦修正する。
「『剣帝』は決定事項だとしても、そんな大役を俺に任せていいのか?」
「むしろ、適任かと思いますが?」
エリックはゲイズが一般生徒達からそれなりに支持を得ている事を知っている。
「そこまで言われたらやるしかねぇが、俺も交流戦というからと言って手緩い選出はしたくねえ。この残り四枠を賭けて選抜メンバーを決める選考会をやる」
「あなたが本気を出すなら私も手伝いましょう」
ギィナはやる気を出すゲイズを見て嬉しそうに答える。
「悪いな。ギィナ、今回ばかりは譲るわけにはいかねえんだ。例えお前でもな」
ゲイズはかなりやる気に満ち溢れていたが、ギィナにとっては嫌な予感しかしなかった。




