智VS祟
クリスには当然、考えがあった。
フェラチアが子供達を助けなかった場合子供達に当たる直前で魔法を消すつもりだった。
そして、クリスの目論見通り子供達を助けに入ったのだった。
フェラチアはクリスの策にまんまとはまってしまったのである。
クリスはフェラチアに、いざとなれば子供達を巻き込んで攻撃することを思い込ませたかった。
ただ脅したのでは、ハッタリだとバレてしまう。
あえて、危害を加えることで、「こいつはやらない」から「こいつならやりかねない」と印象付けることが狙いだった。
子供達が死ねば報酬がなくなる可能性があることを知ってるクリスはそんなことはしない。
これで相手の注意がクリスだけじゃなく子供達にまで向くことがクリスの狙いだった。
「さて、抵抗してもいいけど分かってるわね」
「もう私の天使達に手出しはさせないわ」
フェラチアは土人形をクリスに差しむける。
クリスは自分の周囲に消滅の槍を出現させると近付く土人形は消滅するが、第二波が来ると流石に魔力が残り少ないクリスでは面倒この上ない。
クリスは子供達に攻撃する素振りを見せ、相手を牽制しながら戦うことでこの不利な状況を打開しようとしているが、バレるのも時間の問題だった。
『手元に戻るだけじゃ、ただの無限に投げられる投げ槍なのよね』
クリスは同時に天穿槍『ロンド・グラン』の秘めたる力を考えている。
この絶望的な状況を打破出来そうなのはこの槍しかないのだ。
『そもそも、どうして手元に戻るなんて言い回しなのかしら、手元に戻って来るでもいいはずなのに、どうして手元に戻るなの?もしかしてこの言い回しこそが答えなの?』
クリスはその言い回しにこそ答えがあるのではと考える。
『逆ね、どうして戻って来ると言う言い回しを使わないのか考えた方が早いわ。この言い回しから察するに戻って来ないことがあるから使われないんだろうけど、そもそも戻って来ない事なんてあったかしら?』
クリスは今まで『ロンド・グラン』を投げて来たが手元に戻って来なかったことはなかった。
『おそらく、来ない時があるから、この言い回しなんだろうけど、そもそもこの槍って空間転移して戻って来てるのよね・・・まさか、天を割くっていう言い回しは、空を割く、空間を割くって意味なんじゃ。だとしたら確かにあいつが恐れるのも納得だわ。でも空間転移って面倒な上に疲れるのよね』
クリスは一度その魔法を理論的に組み上げ使ったが、一度自分の初期位置を設定し、移動先の距離を三次元的に設定しないとならない、この設定でミスると壁や地面に埋まったり、上空に放り投げられることもある。
初期位置は移動する度に変動し、その度に距離の設定をし直さないといけない上、視界にはっきりと見える範囲じゃなければ危なくて出来たものじゃない。
特に激しい動きを要求される戦闘時においてはそんな設定などしてる暇などまったくない。
そして何より消費魔力が多いのだ。
正直言って使い道がなかったので使わなかったのである。
『これは試す価値があるわね』
クリスは土人形と土人形の間に槍を投げる。
「どこを狙って!!」
フェラチアはクリスの姿を見失った。
「なるほど、なるほど、槍を投げた先に転移することも可能って訳ね。へぇ、これはなかなか面白いわ」
「!?」
フェラチアが声の聞こえる方に顔を向けるとクリスは槍を投げた先に立っていた。
「あなた、まさか・・・」
フェラチアはクリスのハッタリに気付く。
「気付いたところでもう遅い。私に考える時間を与えてしまったあんたが悪いのよ」
「でも、これであなたもおしまいよ。子供達を人質に使わないなら、もう一度爆発をお見舞いしてやるわ」
クリスに土人形がクリスに迫りフェラチアはもう一度土人形を爆発させるとその場にクリスは既にいない。
「よく分かったわ。これは手元に戻って来るんじゃなくて槍の方に向かって手元に戻ることも可能だから来るとは表現せず、戻るだけなのね。ふむふむ、なかなか面倒くさい言い回しをしてくれるわ。しかも天を割くって意味が空間を割くって誰が気付くのよ」
クリスはこの武器の説明の分かりにくさを愚痴る。
「まさか、投げた先に瞬間移動したというの?」
「あら?この槍について知ってるような口ぶりだから知ってるものかと思ってたわ」
「チッ・・・」
フェラチアはクリスに舌打ちをし、土人形を使っての爆発は意味がないことを理解したのか、土人形を全て解除する。
「あら、諦めるの?諦めたらそこで試合終了よ」
クリスは某バスケ漫画のとある監督のような台詞を吐く。
「何を言ってるの?あなたがコンティニュー出来ないのよ」
フェラチアは某同人シューティングゲームの吸血鬼妹のような台詞を吐く。
「『岩石王』」
フェラチアは『岩石王』を形作る砂や岩石に飲み込まれ、巨大なゴーレムの王を生み出す。
「そして、更に『岩石王国』」
フェラチアは更に『岩石騎兵』を大量に生み出す。
「!!」
『どうなってるの?こんな大量のゴーレムを生み出したら既に魔力切れを起こしてもおかしくないのに!!』
クリスは燃料切れを起こしかねない勢いで魔法を行使するフェラチアに違和感を覚える。
「不思議そうな顔ね。何故、魔力切れを起こさないのか気になってるようね。でも、あなたの知る必要のないことよ」
『岩石王』からフェラチアの声が聞こえる。
フェラチアは『岩石王』を動かし巨大な岩の棍棒をクリス目掛けて振り下ろし、クリスは槍を投げて瞬間移動することで回避する。
「なっ!!」
クリスが槍を投げた先には既に『岩石騎兵』が待ち構えていた。
『岩石騎兵』は容赦なくクリスに棍棒を振るとクリスは槍で受け止め、消滅の力を持つ槍で『岩石騎兵』を貫く。
「嘘でしょ」
クリスは『岩石騎兵』の破損箇所が修復されてるのを見て唖然とする。
「だから言ったじゃない。作り物と一緒にするなって、あんな小物と私じゃ格が違うの」
フェラチアは棍棒をクリスに振り下ろす。
槍を投げて瞬間移動で避けるが、更に多くの『岩石騎兵』が待ち構えている。
クリスが瞬間移動をすると同時に棍棒を振りかぶっていた。
「ぐはぁっ!!」
『岩石騎兵』の攻撃がクリスに直撃し、クリスが吹き飛ぶとチャンスとばかりに『岩石王』を操作するフェラチアは棍棒をクリスに振り下ろすと棍棒はクリスに直撃した。
その一撃は大地を揺るがすほどの威力で人間など即死させる一撃だった。
「・・・少し本気を出してこの程度なんて大したことないじゃない。これは『冥王』も満足の結果ね。神装具の回収も忘れずにっと」
フェラチアは勝利を確信した。
今の一撃を受けて助かるはずがなかった。
土煙りが晴れ視界がはっきりするまでは、クリスの潰れた肉の塊があるだけだと思っていた。
そこには地面に大きな穴が空いていた。
クリスは地面に向かって消滅の力を使い、穴を空けてそこでフェラチアの攻撃を回避した。
「フッ、フフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、馬鹿ね。それは土魔法を得意とする私にするには一番の悪手よ。もはや埋めて下さいと言ってるようなものだわ」
フェラチアは一瞬で穴を埋める。
「これで今度こそ終わったわ。神装具は埋まってしまったけど、これは仕方ないわね。さて、私の天使達は・・・えっ!?」
フェラチアが子供達の方へ向かうと既に子供達はいなかった。
その代わりに地面に大きな穴が空いている。
「・・・」
そこでフェラチアは気付いた。
クリスは地面に大きな穴を掘り進んで逃げたということに
「あの女ああああああああああ」
フェラチアはクリスに弄ばれたことと子供達を奪われたことに対し激怒する。
「ハァハァ、だ、大丈夫よ。また攫って来ればいい話じゃない。簡単なことよ」
フェラチアはいなくなったならまた攫えばいいという無茶苦茶な考えをしていた。
クリスは穴を掘り進んで逃げてはいなかった。
そもそも、掘り進んで逃げるほどの魔力は残されていなかった。
クリスは地面に穴を空けて攻撃を回避し、あたかも地面に逃げたとフェラチアに思い込ませ、光魔法で姿を消して子供達の方へ移動、フェラチアがクリスが逃げたと勘違いしてる穴に夢中になっている隙に子供達のいた場所の近くに穴を空け、光魔法で姿を消してそのまま魔力が尽きるまで逃げたのだった。
『まったく、無茶苦茶な力ね。でも、昔から逃げるが勝ちとも言うからね。とりあえず、子供達を救出できたことだけでもよかったわ。でも、あの女をなんとかしないと結局は意味がないのよね』
クリスはフェラチアをなんとかしないと根本的な解決にはならないと思っていた。
それ以前にあの無尽蔵とも言える魔力をなんとかする必要がある。
クリスはフェラチアに対抗する方法を考えるが、結局のところ数で押されるのが一番きついのだ。
数には数で対抗すればいい話だが、そんな足し算で本当に勝てるのかとも思っている。
フェラチアが男の子を連れ戻す為に街に向かおうとした時だった。
「その辺にしておけよ」
ハットを被り薄汚れたスーツの上にグレーのトレンチコートを着た無精髭をたくわえた中年の男、『狩人』と呼ばれた男がフェラチアを止める。
「邪魔をしないで、レイファー!!」
「お前の性癖をとやかく言うつもりはないが、お前が
目立ち過ぎると俺たちが動きにくくなる。『冥王様』に迷惑をかけるのはお前も本意ではないだろ」
レイファーはフェラチアをなんとか宥めようとする。
「・・・そうね、親友を困らせるのは私の本意ではないわ。それで、私はどうすればいいの?」
フェラチアはレイファーに説得され落ち着きを取り戻す。
「サトリの隠れ里『キノン』に戻って来いだと、おそらくあの時期だから、お前の力を借りたいって感じなんだろ」
「もう、その時期なのね。幻夢の森が力を弱める時期は・・・」
フェラチアは遠い目をしながら答える。
「面倒なのは分かるがお前の戦力は、あの里を守るのには一番うってつけだからな。それと、こいつの面倒を見て欲しいそうだ」
レイファーの後ろから、金髪でベージュとグレーを基調した服装の天使の様な翼が生えた男児が現れる。
「!!」
その姿にフェラチアは当然歓喜する。
「まぁ、聖鳥種だから早々には死なないが、お前が殺されないとも限らない程々にしとけよ。『天使』のシノア・ネロウだ」
「シノアちゃんって言うのね」
フェラチアは戸惑うシノアを抱き上げる。
そのあまりのテンションの高さにシノアは戸惑いを隠せず、助けてくれるようレイファーに視線を向ける。
「俺もお前と別れるのは辛い、だがそいつにはお前が必要なんだ。それくらい慣れておけ」
レイファーは無情にもシノアを突き放す。
シノアは一番の頼みの綱に突き放されショックを受ける。
「まぁ、せめて仲良くやってくれと『冥王様』のお達しだ。それとそろそろ『勇者』が、神徒狩に動くらしい」
「まったく、『勇者』を冠する者が神に刃向かうなんて一体どんな冗談かと思ったけど本気だったのね」
「神が常に正しいと考えるのは思考をやめた愚かな者達だ。神からの傀儡の脱却、魂の解放、種族間差別のない世界こそ俺達の盟主『冥王様』の悲願だ。『勇者』がそれに共感したというだけだ。俺には興味はなかったが、『冥王様』には恩もあるし興味がある。『冥王様』自身に興味があるという俺の理由よりは真っ当だと思うけどな」
レイファーは『冥王』の志より『冥王』個人に興味があるから協力している感じだった。
「とりあえずこの天使は私が預かるわ。それと・・・」
フェラチアはクリスとクリスが持っていた神装具、天穿槍『ロンド・グラン』のことを話す。
「確かに要注意だな。奴には『嵐の覇龍』がついている。まだ、奴に喧嘩を売るのは賢い選択ではない。それに、その『天使』は今は最弱も良いところだが、いずれは俺達を助ける力になるらしい」
レイファーは楽しそうに語る。
「私は構わないんだけどどうして最弱なのを知ってるのに連れてきたの?『冥王』の所にいた方が私といるより確実に安全よ」
「あのな、俺がそこまで『冥王様』の考えを学の無い俺が理解できる頭を持ってると思うか?」
「まったく、『冥王』の右腕がよく言うわよ。いや、『死の神徒』と言った方が!!」
フェラチアが嘲るように話してると首筋にナイフを突きつけられる。
「嬢ちゃん、いくら『冥王様』の親友だからと言っても何もしない訳じゃんだぜ」
フェラチアは何も答えない。
魂を抜かれ答えられないのだ。
「おっと、悪い悪いついやっちまった」
レイファーは抜けた魂をフェラチアに戻す。
「まったく、そんな能力だから下手に脅しすらできなくなるのよ!!」
「うるせぇ、とりあえずお前も口には気をつけろ。次はないからな!!」
レイファーはフェラチアを注意し、立ち去ろうとする。
「あなたは何をするの?」
フェラチアはこの男が普段何をしてるか分からないので聞いてみた。
「とりあえず、狩って、食って、寝る。それだけだ。
俺は頭を使うことは苦手だからな。そういうのはお前のように得意な奴に任さればいいのさ。言うなれば俺は斥候だ。お前達が上手くやるためのな。それじゃあ、後は任せたぜ」
レイファーはそう言い残しその場から去って行った。
「さて、私達も行くわよ」
「う、うん」
フェラチアはシノアを抱き上げ、目的の場所へ向かう。
そして、その後の『マギナフェスタ』は何事も無く執り行なわれたのだった。




