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意志の力

ライチェスはアシュナと共にラチェットンの屋敷に到着する。


「僕は一緒に君と歩くと決めた。だからこそ、ここに来たここにはフロス家歴代最強の男がいる。血統主義者ばかりにこだわる時代遅れの男がね」


ライチェスは叔父とは呼ばない。

もう、彼の中では叔父ではなく、赤の他人なのだ。

フロス家には何の未練もない、何故なら自分はもうフロスではなくクロムスの神徒である、ゼファードの話によると歴代最強の『愛の神徒』らしいが、最強はアシュナの為にある言葉だとライチェスは思っているので、どれほど強くなってるかは、まだ詳しくは分かってない。

先程のゴーレムはライチェスにとっては土人形同然で、雑魚もいいところだった。

だからこそ、一度敗北したラチェットンの相手は丁度良かった。


「・・・ライチェス、その穢らわしい鬼人と一緒に来るとは何のつもりだ?」


叔父はどの面下げて戻って来たとでもいいたげだった。


「僕のことは何を言われても構わない。だけど、僕の愛するシュナを悪く言わないでくれないかな」


ライチェスはラチェットンを睨み付ける。


「帰って来た瞬間これか、どうやらまだ痛い目を見ないと分からんようだな!!」


ラチェットンは自分の配下の兵を呼ぶ。


「お前を従わせるにはやはり、その鬼人の女は邪魔のようだ」


ラチェットンは配下の兵にアシュナを狙えと命令する。


「シュナ、僕が片付ける。こんな奴ら君が相手をする価値すらない。『縮地・烈風脚』『風月脚』『風迅乱脚』」


ライチェスはアシュナに放ったラチェットンの配下に距離を詰め蹴り飛ばし、蹴り上げ、両脚での連撃を放つとラチェットンの配下は全員吹き飛ぶ。


「なっ!!なんだ!!それは!!やはりそうか、何故貴様が『神通力』を使える!!それは奴らの、出来損ないどもの力をどこで身につけた!!」


ラチェットンは、ライチェスが魔封祓神力樹の手錠を破壊した可能性は『神通力』しかないと思っていた。


「あなたは鬼人の事を何も知らない癖に良くそこまで悪く言えたものだよ。これが自分の身内だと思うと反吐が出るね。魔法が使えることがそんなに偉いのかい?」

「フンッ、貴様は落ちこぼれだったからそういうことが言えるのだ」


ラチェットンはライチェスの言葉を吐き捨てる。


「そうだ、僕は落ちこぼれだ。それは僕が一番よく知っている。だから、それがどうしたというんだい?僕はシュナさえ認めてくれるなら、後はどう思われようと構わない。僕を信じてくれる人がいてくれればそれでいい。あなたは可哀想な人だ。自分の血統や力しか信じることができない」


ライチェスはラチェットンに哀れみの視線を向ける。


「なんだ、その不愉快な目は・・・お前は結局、他者に頼らないといけない弱者というだけの話ではないか!!」

「それなら、あなたは僕より弱い。あなたの配下ですら僕を止められない。シュナが相手をするまでじゃない。僕一人で事足りるよ。あなたの配下もあなたもね」

「フンッ、配下如き倒したくらいでいい気になりおって。『氷柱刺突(アイシクルスピア)』」


ラチェットンは鋭く尖った氷柱をライチェスに放つ。

ライチェスはその場に立っており、避けようとすらしない。


「!!」


ライチェスに氷柱が当たりはしたが、ライチェスには傷一つすらない。


「どうかしたかい?その程度で『神通力』が破れると思ってるなら、一から魔法を学び直した方がいいよ。せめてあの時使った氷の大剣くらいはないと」


ライチェスの言ってる魔法は前回ライチェスが炎の剣で押し負けた氷の大剣である。


「貴様に言われるまでもないわ!!『氷山刃(アイスバーグブレード)』」


ラチェットンはライチェスに大きな氷の刃を振り下ろす。

ラチェットンはライチェスを確実に仕留めた。


「なん・・・だと・・・!?」


と思ったがライチェスは左手で氷の刃を受け止めていた。


「凄いな。超級の魔法を受け止められるのか、確かにこれくらい防げないと到底、龍人とは戦えないというのは納得かな」


ライチェスは魔力を肩、腕、拳に魔力を集中させて、氷の刃を受け止める力を得ていた。

魔力を拳に集中して、氷の刃を掴んでる指先に力を入れると氷の刃がへし折れる。


「『神通力』か、シュナと同じ感覚を共有できるのはある意味嬉しいことなのかな」


そういえば、『神通力』が使えると分かった時にアシュナが嬉しそうにしてた理由はこれではないかとライチェスは思った。

そうであったら嬉しいと思った。


「何故だ!!あの時は確かにお前は押されたはずだ!!どういうイカサマをした!!」


ラチェットンは『氷山刃(アイスバーグブレード)』を受け止めたことが不可解で堪らなかった。

ラチェットンは『神通力』で防げるものだとは思ってなかったのだ。


「質問ばかりしないで少しは自分で考えなよ。それが、今まで自分の才能と血統とやらに甘えていた結果だよ。これでも、まだやるかい?」


ライチェスは再び質問する。

アシュナに土下座をするか、このまま続行か。


「貴様ぁぁぁあああ!!」


ラチェットンは怒りをあらわにする。


「続行ってことでいいんだね。ところで、あなたは龍人とサシで喧嘩することは出来るかい?」

「貴様、それは本気で言ってるのか?魔法において頂点における種族に喧嘩を売ると言っているのだぞ!!そんな愚かな真似出来るわけ無かろう!!」


ライチェスはつまり出来ないという解釈をした。


「そう、愚かな真似だというのは僕でも分かる。でも、その龍人に対抗できる力を持つ者がいることを知ってるかい?」

「馬鹿が、奴等にはあの神木があるから、龍人に対抗できるのだ!!」


ラチェットンは、『魔封祓神力樹』のおかげで龍人に対抗できるのだと話す。


「それを本気で言ってるなら、あなたは鬼人はおろか龍人すらも分かっていないよ。いや、理解しようとしなかったのかな。龍人が鬼人に対抗するために生み出した魔法の存在があることを知らないんだから」

「ナニッ!!」

「まぁ、『召喚魔法』は彼等の中でも特に力のある一部しか使えない奥義だからね」

「・・・聞いたことがある。龍人の中には膨大な魔力を餌に異界の魔獣を呼び出す存在がいると」


ラチェットンは噂程度しかその魔法の存在は知らなかった。


「アレは魔獣ではなく召魔というんだけどね。召魔の攻撃は召魔の持つ力を使う。その力に関してはあの神木でも防ぎきる事が出来ないのさ。分かるかい、それでも鬼人は龍人の天敵であり続ける事が出来る理由がね。」


ライチェスは何故あの二つの種族が未だに天敵なのか知っている。

それは互いに互いの力を認め、その上でそれを超えようとする歴史があるからである。


「その理由が『神通力(これ)』だよ」

「ハッ、何を言い出すかと思えば、『神通力』だと。あんな身体強化しか出来ない出来損ないの力で何が出来るというのだ。奴らは馬鹿のひとつ覚えのようにそれしか使わん。それが出来損ないじゃなくてなんというのだ!!」

「そうだね。彼等にとってはまだ未完成、いや完成する事はないのかもしれないね」


ライチェスは初めてラチェットンに同意する。


「ほら、見ろやはりお前もそう思ってるじゃないか!!」


しかし、ライチェスはラチェットンとは違う考えだった。


「勘違いしないで欲しいけど、僕は彼等の力を出来損ないだと思ったことはない。彼等にとってはまだ、完成されてないだけと思ってるだけさ」

「同じことだ」

「いいや、違うね。彼等の『神通力』は日々進化している。自分達の力に誇りを持ち、戦うことに対し強い意志と意地を持つ、彼等の『神通力』は彼等の努力の結晶だ!!昔も今もそしてこれからも!!何も知らないお前に彼等の力を否定させたりはしない!!」


ライチェスは三日だけだが鬼人の都にいた。

ライチェスは三日の特訓で『神通力』を使いこなせるようになっていた。

そして、『神通力』というものを知った。


「これはただの身体強化の力じゃない」

「ただの身体強化じゃないだと?」

「そう、これは意志を繋ぐ力、親から子へ子から孫へ、常に進化し続ける力、それこそが龍人が鬼人を天敵にしている理由だ。龍人が怖いのはその意志の力だ!!だから、彼等にとっては完成することはないのさ」

「意志を繋ぐだと?それが何だという?どうやら貴様は相当、その鬼人に毒されたようだな。これはもはや、ただの教育では矯正できんのかもしれん」


ラチェットンはくだらないと吐き捨てる。


「僕にとっては、あなたが語る血統の方がくだらないよ。それに一体どんな価値がある?あなたは言った。僕の血が僕を強くしたと」

「そうだ、お前の力はフロス家の血によるもの。その才能も全てフロス家のものなのだ」

「なるほど、あなたの魂胆がようやく分かったよ。フロス家の血を絶やさないことが目的というわけか」


ライチェスはラチェットンが縁談を強行した理由がわかってしまった。


「今更、貴様に隠し事をしたところで無駄だから話すが貴様の兄ラコフは獣人との間にそのまま獣人の国に籍を移し、弟のレインズは失踪した!!あとは貴様しかないと考えて来てみたらこれだ!!貴様ら兄弟はどれだけ私を失望させれば気がすむのだ!!」


ラチェットンはもう隠したところで意味がないことを分かっているので全てを暴露する。


「勝手に失望してれば良かったんだ。兄さんもレインズもその考えに嫌気がさしたから家を出たんじゃないかい?」

「!!」


そのラチェットンは驚いた表情をする。

どうやら図星だったようだ。


「愛の前では血統とかどうでもよくなるんだろうね」


そう考えると愛の力は偉大だとライチェスは考えるが、『愛の神徒』であることを考えると複雑な心境だった。


「貴様が・・・私の愛をこんな形で裏切ったお前が、愛を語るか!!」

「愛は与え合うものだ!!押し付けるものじゃない!!お前に愛を語る資格はない!!」


愛の神徒である自分が言うんだから間違いはないだろうとライチェスは思う。


「子供のお前に何が分かる!!」

「分かるさ。少なくともあなた以上には・・・」


でなければ、愛の神徒の試練は突破していないとライチェスは思う。


「力が血統を選ぶんじゃない!!強い意志を持つ者に与えてくれるものなんだ!!あなたはただ自分の血統に甘えてるだけなんだ!!」

「血だ!!貴様が強いのは先祖代々に続く血のおかげなのだ」


ラチェットンは駄々をこねるかのようにライチェスに語る。


「だから、あなたは分かっていない。血統ではなく意志のおかげなんだ。先祖代々受け継がれた意志があったからフロス家は名家でいられたんだ。意志なき血はただの血液に過ぎないよ。あなたの持つ誇りは意志を繋ぐことじゃなく血を繋ぐこと、その考えがある限り僕達がいてもいなくてもフロス家の時代は終わる」


ラチェットンは正論を突かれ肩を静かに震わせている。


「私の血に意志がないと言うのか!!」

「そもそも血に意志が宿ると思ってるのかい?意志は(ここ)に宿るものだ!!」


ライチェスは胸に親指を突き立て力強く語る。


「どこまで、どこまで私を愚弄すれば貴様は気がすむ。許さん、許さんぞ!!貴様にもう生かす価値などない殺す!!殺してやる!!」


ラチェットンはライチェスに全てを看破され、ライチェスに殺意を剥き出しにする。

しかし、ライチェスは涼しい表情をしている。


「やっと、やる気になったようだね。それくらい殺意を向けてくれる相手なら僕も遠慮なく本気を出せる」


ライチェスは左手に断魔銃『ライネル』右手に絶魔銃『エデルガ』を握る。

殺意を剥き出したラチェットンが氷柱の結晶を大量に放つがライチェスは全て撃ち落とす。


「!?!?」


ラチェットンは何が起きたのか分からなかった。


「僕の力はシュナと共にある。シュナ、この力の全てを君に捧げよう。シュナ、見ていてくれるかい?」

「うん、ライちゃんの強さを見せてよ」


ライチェスがアシュナに聞くとアシュナは真剣に答える。

アシュナは言葉じゃなく心で理解した。

これが彼なりの自分への告白(プロポーズ)だと理解した。

野蛮だと思うが鬼人界隈では普通のことである。

彼等は力こそが魅力なのだ。

それは結局、男も女も変わらない。

鬼人では女が強いというだけで強い男に惹かれないわけではないのだ。

だからこそ、彼女はライチェスに惹かれたのだ。

ライチェスが持つ意志の力が彼女を惹きつけたのだ。

だからこそ彼女は彼の力は本物だと理解している。

そして、ライチェスの扱う『神通力』が高いレベルで磨き上げられ鍛え上げられたものだと気付いている。


「見せてあげるよ。あなたが否定し、馬鹿にした意志の力というものをね」


ライチェスは断魔銃『ライネル』をラチェットンに向ける。


「・・・僕は君を否定する」


ライチェスは『ライネル』のトリガーを弾く。

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