愛の神徒
クリス達は大量のゴーレムに追い詰められていた。
倒しても倒してもキリがない上、こちらの力だけ消費する。
そして、今まで楽に勝てていたゴーレムに苦戦し始めていた。
「クソッ、倒しても倒してもキリがねえ!!一体どうなってやがる!!」
遂に味方の一人からそんな言葉が漏れる。
このままでは、全滅するのも時間の問題だと思っているが、クリスも既にミサイルを三回も使っており、魔力は枯渇寸前だった。
今は何とかアシュナが持ちこたえてる感じだが、それも時間の問題であった。
しかし、引いたら街にこのゴーレム達が原因で何人が犠牲になるか分かったものではない。
その為にここにいる全ての者は逃げ出したくても逃げられないのだ。
「数が多いとかそんな次元じゃねえ!!」
「この状況で弱気になってどうする!!敵に飲まれるなと言ってるだろ!!」
傭兵の隊長が部下に喝を入れる。
『流石にこの雰囲気はまずいわ。完全に負けムードじゃない』
クリスは既に八方塞がりな状況だった。
一方でアシュナも息をあげていた。
クリスの次にゴーレムに狙われていたのがアシュナだったが、ゴーレムがクリスは驚異ではないと判断したのかアシュナを最優先で狙って来ている。
「えい!!やあ!!」
アシュナは刀を左右上下前後に振りゴーレムを寄せ付けなかった。
「ライちゃんはきっと来てくれる。私が待っている限りいつでも来てくれるもん!!」
アシュナの瞳はまだ光を失っていない。
ライチェスがアシュナとの約束によって突き動かされるように、アシュナはライチェスの交わした言葉に突き動かされている。
「ライちゃんが一緒にいてくれる限り私は負ける訳にはいかないの!!」
アシュナの心は常にライチェスと共にある。
いつも側にはいないけど、心の何処かで繋がっている。
だから、寂しくなかった。
彼の強さを温もりを優しさをアシュナは誰よりも知っている。
だからこそ、疑わない。
信じて待っていれば、彼は来てくれる。
彼の強さは自分の弱さを言い訳にしない確固たる意志の強さだとアシュナは確信している。
本当に強いのは自分ではなくライチェスだと思っている。
「とう!!」
アシュナが刀を振り下ろし、両断すると両断したゴーレム諸共ゴーレムの背後にいたゴーレムが攻撃を仕掛けて来る。
「!!」
アシュナは完全に不意を突かれ殴り飛ばされる。
「きゃんっ!!」
神通力のおかげで外傷はないが疲労が凄かった。
立ち上がろうとする暇を与えないかのようにゴーレムが覆い被さるように襲いかかる。
「ライちゃん・・・」
アシュナは祈る。
神様ではなくライチェスに祈った。
すると目の前のゴーレムが一瞬で崩れ去る。
アシュナはゴーレムが倒されたことよりも目の前の存在に涙を浮かべ飛び込む。
「今戻ったよ。シュナ」
ライチェスもアシュナを優しく抱きしめる。
いつもは痛いだけだったが『神通力』のおかげで痛みは感じない。
その代わり、アシュナの温もりを感じた。
左目の白目の部分が黒くなり、瞳の部分が白くなってる事と白のインナーに紅のコートが変わってること以外はライチェスだった。
そもそも、見た目が変わってもアシュナがライチェスを見間違えるわけがなかった。
ライチェスの背後からゴーレムが拳を振り下ろすが振り返ることもせず片手でゴーレムの拳を受け止め前から来てるゴーレムに振り下ろす。
「これって『神通力』!!なんで、ライちゃんが使えるの?」
アシュナは疑問に思っていたがその目は嬉しそうだった。
『神通力』に関する記憶はゼファードに改竄されたことによって今までは使えなかったが、今は使える。
そして、記憶が戻った事でそういえばあの時に見せてなかった気がした。
そもそも、ゼファードに止められていたからである。
「僕には元々、『神通力』が使える素質があったらしい。ちょうどいいや、肩慣らしにはもって来いかな」
ライチェスは次々とゴーレムを爆砕していく、その姿はまさに蹂躙そのものだった。
「・・・そんなつまらない小細工で僕の愛を穢すというなら消えた方がいいよ」
今のライチェスは『断魔の力』を得た影響で出た『断魔の魔眼』により魔力を視認できている。
「『導火線』」
全てのゴーレムは一つの魔力に集約されている。
それがゴーレムを無限に生み出し続けている。
この魔法は『断魔の力』と炎魔法を組み合わせた魔法で魔力を導火線にしライチェスの任意で爆破することができる。
ライチェスが指を鳴らすと同時に地面が爆発し、ゴーレムが魔力を失い崩れていく。
「もしかして、神徒になると能力だけじゃなく魔力も上がるのかな。今の大した威力じゃないはずなんだけど・・・」
ライチェスはアシュナに近寄る。
「シュナ、僕は君に謝らなければならない」
ライチェスはアシュナに真剣な顔をするとアシュナは不安な顔する。
「僕は君が僕を守ってくれる限り側にいると言った。アレは君を悲しませないための嘘なんだ。僕は君が悲しい顔をするのがとても辛いんだ!!僕は自分の自己満足の為に君に嘘をついてしまった。僕は何があろうと君の味方であると誓った!!これは君に対する裏切りなんだ。許してくれなくても構わない。それでも僕は君の側にいたいんだ!!」
ライチェスは完全に嫌われたなと思った。
しかし、アシュナはライチェスを抱きしめる。
「知ってるよ。ライちゃんはいつでも私の事を考えてくれた。別れが寂しい事もあったよ。でも、ライちゃんは必ず来てくれた。ライちゃんがいつも私が悲しまないようにした事も知ってるよ。ライちゃんがいつも助けてくれた守ってくれた支えてくれた。それがとても嬉しかった。その嘘だって私の為にしてくれたライちゃんの優しさなら私にそれを責める資格はないよ。私は結局、ライちゃんの優しさに甘えてただけだもん。でも、やっと答えてくれたね」
「ああ、何度だって言うよ。僕は君と、シュナと共にいたい。今までも、そしてこれからも」
「ライちゃん」
「シュナ」
二人は見つめ合い沈黙が支配する。
「ハイハイ、いい雰囲気のところ悪いけど邪魔するわよ」
クリスは二人の世界を割って入る
「師匠!!」
「まったく今までどこほっつき歩いてたのよ」
「こ、これには深い事情がありまして」
ライチェスは普段通り情けなくクリスに事情を話す。
「あのオッサンやっぱり黒だったのね」
「無理矢理、縁談の話を付けられそうになったので断ったら返り討ちにあって、捕らえられたというわけです」
「そうよね。あんたには愛する女がいるものね」
クリスはライチェスが断る姿が目に浮かんだ。
この男はアシュナ以外の女は眼中にないので縁談など望むはずがないとクリスは理解している。
「それにしてもさっきの全部あんたがやったの?」
「さっきの?」
ライチェスはゴーレムのことなどなかったという感じで忘れている。
「あのゴーレムの大軍よ」
「あれは核のようなものがあってそれがゴーレムを無限に生み出してただけですからね」
「そんなもの見えなかったけど?」
「地中深くに埋められていましたね」
「・・・なるほど、あんた見えてるのね。魔力が・・・」
ミュラーが見えるのは知っているがライチェスまで見えるようになってしまったらいよいよミュラーの立つ瀬がなくなってしまうではないかとクリスは思う。
「ところで、アシュナに抱きつかれてるけどいいの?いつもなら情けなく助けを求めてなかった」
「『神通力』を使っているので問題ないです」
「それって鬼人しか使えないんじゃなかったの?どうしてあんたが?」
「元々素質だけはあったらしいです」
「ふーん、良かったじゃない。これで遠慮なくライチェスに抱きつけるわよ」
「遠慮なんてしたことないよ」
アシュナはライチェスに遠慮などした事はなかった。
「さて、私は今からさっきのゴーレムの元凶をやっつけに行くけど一緒に来る?」
「場所は分かるんですか?」
ライチェスは何となく心当たりがあった。
「そういえば分からないわ」
「そこの森の中の小屋にそういえばゴーレムの残骸らしきものが散らばってましたね」
ライチェスはクリスに自分が目覚めた場所を伝えた。
「あんたはどうするの?」
ライチェスにはやる事があった。
ライチェスにはどうしても決着をつけたい相手がいた。
叔父のラチェットンである。
自分とアシュナを否定した叔父を今度は自分の持つ力で否定するとライチェスは決めていた。
その決着をアシュナには見て欲しかった。
彼女と共に歩く為にもこの戦いは避けられないものであった。
「僕自身の因縁に引導を渡して来ます!!シュナと共にいるために」
「いい顔になったじゃない。ここまで強くなっておいてまだ先に行こうとする。あんたの目にはそういう強い意志を感じる。なるほど、アシュナが言ってた意味が分かったわ。これは私もうかうかしてられないわね。それと、あんたはヘタレだと思ってたんだけどね。見直したわ」
クリスはアシュナの言っていたライチェスの強さの意味を理解し、クリスのライチェスの評価がかなり上がる。
「ね、言ったでしょ」
アシュナはクリスにドヤ顔をする。
ライチェスはしっかりやる時はやる男だとアシュナは以前から知っている。
アシュナは何故ライチェスがあそこまでヘタレていたか理由は知っている。
ライチェス自身にアシュナを待たせてる罪悪感があったからだ。
それがクリスにはヘタレてるように見えたのだ。
アシュナ自身、ライチェスはヘタレだとは思ってはいなかった。
むしろ、結構強引な方だと思ってる。
「流石に付き合いが長いだけはあるわね」
クリスはアシュナの過剰評価だと思ったがそうではなかった。
まさか、自分のした誤ちを語った後に告白をするとは思わなかった。
でも、クリスもそれはアシュナを悲しませない為の優しい嘘として許容できた。
しかし、それすらも許さなかったライチェスの誠実さと真摯さにクリスはあの言い訳にまみれたミュラーとは雲泥の差だと思ってしまった。
これでまたライチェスの評価が上がり、ミュラーの評価が下がってしまった。
『ライチェスを見てると本当にあの男の駄目なところが浮き彫りになってくるわね』
クリスはあの龍人の活躍を思い出してみるが出てこない。
出てくるのはアシュナとの件や反省してない所や思い出すだけで腹が立って来るだけである。
ライチェスが駄目な奴ならあの男は一体なんなんだろうとすら思う。
むしろ駄目な奴はミュラーのような奴のことだとクリスは考える。
「一度負けてるんでしょ?勝てるの?」
「シュナの愛に応える為にも負ける訳にはいかないんです」
「愛!?あ、愛って、あんた・・・変なものでも食べた?」
クリスのライチェスが一番言いそうにない言葉なので自分の耳を疑った。
「僕の愛にケチを付けるならいくら師匠でも容赦しませんよ」
本当に何があったとクリスは思ったが、とりあえずライチェスは愛の戦士にクラスチェンジしたのだと理解した。
「ケチは付けないけど、言ってて恥ずかしくないの?」
「それを恥ずかしいと思うということは僕がシュナに抱くこの感情が恥ずかしいと思う事と道義です。僕は一度もそんな事を思ったことはありません。
なので、恥ずかしくはないです」
その答えに呆れ、アシュナを見ると顔を赤くして嬉しそうに微笑んでいる。
ライチェスにとって一番恥ずかしいことは『愛の神徒』になってしまったことであった。
「と、とりあえず、僕は負けません。シュナが側にいてくれるんです」
「ライちゃん」
二人はまた二人の世界に入っている。
クリスはこれ本当に勝てるの?とすら思いかなり不安になっていた。




