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与える者

クリス達が街郊外の荒地に到着すると既に衛兵がいくらかやられていた。


「これは、確かに多いわね」


クリスはあまりのゴーレムの多さに絶句する。


「これはワクワクするね」


アシュナはクリスとは逆にすぐにでも突っ込みたいようだった。


「いいわよ!!存分に相手してあげなさい!!」


クリスが許可を出した瞬間にアシュナはゴーレムに斬りかかる。

アシュナは次々と斬り伏せていくと後へ続けとばかりに他の冒険者達や傭兵達も突っ込んでいく。

クリスも当然後に続き、取りこぼしたゴーレムを消して行く。


「すげえ、流石『消滅の魔女』と呼ばれるだけはある!!」

「そもそも、どうすればあんなことができるんだ?」

「ほ、本当に本物だったなんて」


クリスの魔法を生で見れて興奮する者、疑問に思う者、本物だったと絶句する者様々だったが、共通認識が、味方で良かったということである。

それはアシュナも一緒であり、アシュナの圧倒的な力と卓越された剣術は見る者誰もが納得せざるを得なかった。

これが『剣帝』と呼ばれる者の力だと言うことを思い知らせた。

これは勝てるとアシュナを含め周りの者達は思っていたが、クリスは違った。


『思ったよりも数が減ってない。それにゴーレム自体が私達に合わせて強くなって来ている!!倒し続けることで学習してるとでも言うの?だとしたら、長期戦は逆に危険ね』


クリスは奥の手を考えつく、魔力の全てを使いゴーレムを消滅させる。

これしかなかった。


「皆んな、私より後ろに下がりつつ『結界魔法』を使える者は皆んなが脱出と同時にゴーレムの動きを封じて!!一気に消してやるわ!!」


クリスは他の人が戦ってる間に魔力を溜めていた。

力を多く消費するため、溜める必要があった。

クリスが叫ぶと、ゴーレム達から次々と離脱していき結界魔法でゴーレムの動きを封じる。


「消えなさい。『消滅弾道ミサイル』」


なかなかのネーミングセンスだとクリスは思っている。

今まで名前がなかったのでつけてみたのだ。

クリスの放った消滅の力はゴーレム達がいる中央に命中すると次々とゴーレム達を消滅させていき、遂には全て消滅した。


「勝った・・・のか?」


衛兵の一人が呟く。


「あの数をたった一人で・・・」


クリスはしまったという顔をしていた。

以前にこれ以上目立つ真似はしないと思っていたにも関わらず、目立つ真似をしてしまったからだ。

その役目はライチェスがする手筈だったが、ついうっかり忘れてしまっていたのだ。

誰もが終わったと安堵していた頃だった。


「おい、嘘だろ!?」


傭兵が顔を真っ青にしてるので傭兵の視線の先を追うと大量のゴーレムがいた。


『冗談きついわ!!今の結構全力だったのよ。あんなの何発も撃てないわよ!!』


クリスは先程使った魔法が原因で若干の気怠さを感じていた。


『これは、何か絡繰がありそうね。ゴーレムを無限に生み出す何かが・・・』


クリスはその絡繰がどういうものかを調べたかったが、調べるにしてもゴーレムが邪魔で何も出来ない状況だった。

そして、ゴーレムは最優先でクリスの方に向かって来るのであった。


「なるほどね、さっきのでコイツらのヘイトを集めちゃったわけか」

クリスはこの状況に冷や汗を流す。


ーーーーー


ゼファードに握られた絶魔銃『エデルガ』はライチェスにこれが最後のチャンスだと告げている。


「僕は一度目は分からなかった。二度目は分かった気になってた。でも、今なら分かる。この質問の答えはいつもシュナが教えてくれていたんだ」


ライチェスがアシュナに待ってくれるように頼むと彼女はいつでも待ってくれていた。

さっきまでは、優しい彼女に甘えているだけかと思った。

しかし、それは違った。

彼女はいつも、待ってくれるように頼むと何も言わずに笑顔で答えてくれた。

あれが愛じゃなければ何が愛だというのだと、ライチェスは自分自信が抱いている感情だけが愛だと思っていた。

アシュナのアレがあの姿こそが真の愛でなければ何が愛かと思ってしまった。

だからこそライチェスは答える。


「その質問はまず前提が間違っているよ」

「なに!?」


ゼファードはトリガーの指に力を入れ、険しい顔になる。


「命は賭けるものかもしれない。だけど愛は賭けるものではなく与え与えられるものだからだ!!

僕が彼女に抱く感情が愛だとするなら、彼女がいつも待ってくれているのも同じく愛だ!!愛とは賭けるものではなくお互いに与え合う心のあり方だからだ!!」


ゼファードは目を丸くして驚いた表情をする。


「・・・合格だ。よくその答えに気付いた。成長したじゃねえか!!」

「でも、死んだ後に答えが出てもって感じなんだけどね」

「・・・まだ、終わりじゃねえ。お前さんにはまだ『断魔の力』を継承してねえからな」

「・・・はぁ!?」


ゼファードの言葉の意味が分からなかった。


「俺はお前さんに試練を与えた。お前さんにとっての愛が俺の満足する答えかの試練だ。それが三回というチャンスだ。それに気付かせるため、俺はお前さんに与えた力に細工を施した。記憶の一部を改竄し、『断魔の力』の一端を渡し、『断魔の力』を使うことで仮死状態にしここにお前さんを連れて来る事だ」

「・・・いまいち事情が飲み込めないんだけど」


ライチェスはゼファードの言葉の意味が理解できなかった。


「そうだな、まずお前さんに与えた試練が神の試練って言えば早いか?」

「それってまさか!!」

「そっ、『神徒』継承の試練だ。『技の神徒』に対する仕返しって訳だ。お前さんならなれただろうが、誰がさせるか!!お前さんには技よりこっちの方がお似合いだ。『愛の神徒』ライチェス・クロムス」


ゼファードはしてやったりと語る。

ライチェスは呆気に取られる。

ライチェスは『愛の神徒』の存在を聞いたことがないからだ。


「そういう冗談はやめてくれないかい?」

「いやいや、神の試練を実行出来るのが何よりの証拠、神の試練は神か神徒しか行えない。お前さんは晴れて神徒になった。後はこいつを継承するだけさ」

「そんな神徒が存在するなんて知らなかったよ」

「『愛の神』であるクロムスは、極度の恥ずかしがり屋で人前には出ない。最初の神徒の前に現れただけで後は現れたことがない。表舞台に出てない神だからその存在を知らない者の方が多い。だが、その力は本物だ。『聖なる慈愛』これが神徒に与えられる力、治癒魔法を強化し、あらゆる身体的、もしくは精神的な異常も治す。そして、自身に起きる身体的異常、精神的異常を抑えてくれる。他の神に負けず劣らず強力な力だ」

「要するに『四神』の知名度が高いだけで、他にも神が存在するってこと?」


ライチェスはゼファードに質問する。


「俺も全てを把握している訳ではないが、『死の神』という存在がいるのを知っている。その神徒も存在しているな。こいつの知名度が低い理由は常に引き篭もってるかららしい」

「流石に僕を神徒にしたというのは冗談だよね」


ライチェスとしてはこんな恥ずかしい神徒は夢でもごめんだった。


「事実を受け入れろ。お前さんはどちらかといえば技よりも愛に生きる方だろ。愛の為に技を磨いたようなもんなら結局は愛だ。それに俺の答えはもっと不純だったぞ。おそらく、お前さんは俺以上に相応しい。俺はあの時にしっかり言ったぞ。神徒にするって」


ライチェスは冗談で言ったつもりだった。

しかし、ゼファードは本気だったのだ。


「情け無い顔をするな。まだ、こいつが残ってる。『断魔の力』、使って気付いてるとは思うがこいつは使うと自分に反動が帰って来る。それは相手の魔力が拒絶反応を起こすからだ。しかし、『聖なる慈愛』がそいつを抑えてくれる。今のお前は自分、自然、相手の魔力を掌握できる。今のお前ならあの女に並び立てる、いやそれ以上の力がある。俺が保証する」

「ゼファードに保証されてもね」

「うるせえ・・・まあ、なんだ、お別れだ」


ゼファードはライチェスに絶魔銃を渡す。


「待ってた方がいいかい?」

「ハッ、言うようになったじゃないかガキが!!

いや、もうガキじゃねえな。

そんなことしてないであの女のところに行ってやれ」


ゼファードはそんなことで女を待たせるなと言いたいらしい。


「そうだね。彼女を随分と待たせてしまったからね。それと同時に決着をつけないといけない相手がいる。

僕はあの人を許す訳にはいかない!!

僕の愛する者を否定したあいつを!!」


ライチェスの倒すべき相手は決まっていた。


「お前さんは俺が今まで見た誰よりも強い。胸を張れ前を向け、その意志を貫き通す強さこそお前の強さだ。歴代最強の『愛の神徒』の力を世界に見せつけろ!!」


最後のは丁重にお断りしたいとライチェスは思っていた。

力を得たいとは思ったが神徒になりたいとは思ってないからである。

そして、ゼファードが消えると視界が明るくなって来る。


目を覚ますと何故か水槽に入っていた。

魔法を使い脱出し、適当に近くにあった服を着る。


「んっ?」


収納魔法でしまった記憶のないものが魔力を消費していることに気付く、それを取り出すとゼファードが着ていた紅いコートだった。

サイズが大きい為少しぶかぶかである。


「ゼファード、ありがとう大事に使わせてもらうよ」


ライチェスは恩師に礼をする。

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