答
ゼファードの修行が半年を迎えた頃だった。
「お前さんに『神通力』を教えてやる」
ゼファードは突然そんな事を教える。
「どうしたんですか突然」
「正直、これ以上鍛えたところでお前さんの魔法技能は上がらない。最近、調子が良くねぇだろ。魔法技能に関してはそこがお前さんの限界だ。だが、炎と風と光が極級クラスを扱える奴なんてお前さんの歳で到達する奴はまずいねえな。まあ、俺の教え方がいい事あるが、お前さんには一つの可能性を視野に入れる必要がある」
「それが『神通力』ですか?しかしアレは鬼の・・・」
「実を言うと出来ない事はない厳しい修行を得る必要がある。体内にある魔力を感じ取りコントロールする技術が必要だ。『神通力』は鬼人しか使えないと思っているようだが実は違う。鬼人が一般的な魔法が使えないのは外にある魔力に対する『干渉力』が極めて弱いからだ、その代わりに自分の中にある魔力を操り肉体に魔力を留める技能に関して発達している。この肉体に魔力を留めることができないから、鬼人以外は扱えない。魔力を留めそのまま維持をするのは長い修行をしないと出来ないが・・・お前さんはおそらくそれに関しては問題なく出来るだろう」
「どうして分かるんですか」
ライチェスはやってもいないのにどうして出来ると言えるのか不思議だった。
「誰に教わったか知らねえが、お前さんが良くやってる指に火を灯すアレは普通にやって簡単に出来るもんじゃねえ。かなり高度な魔力のコントロール技術が必要だからな。そこまでのコントロール技術を持つのは俺の知る限り初代の『メイセンズ』くらいだ。奴も他の初代と劣らずかなりの化物だったな。まさか、『神通力』を扱えたのには度肝を抜かれた」
そういえば、アシュナはこれを見て凄い凄いと褒めてくれたが、自分としてはそこまで凄いとは思っていなかった。
それに『メイセンズ』はライチェスは聞いた事がある。
『技の神』のことである。
「初代の『技の神徒』をご存知なのですか?」
ライチェスとしてはそっちの方が気になった。
「元門下だ。破門された身だがな。だが、後悔はねえ。俺は奴に仕返しする方法を思いついたからな」
ゼファードはライチェスをニヤニヤ見つめる。
「どうして破門されたんですか?」
「・・・それは最後に教えてやる。さあ、やってみろ」
ゼファードが真面目な顔で答える時は重要な時か言いたくないかのどちらかだと言う事はライチェスはなんとなく分かって来ていた。
「肉体に魔力を留めるイメージですね」
「しっかりやれよ。じゃなきゃ死ぬぞ」
ゼファードは懐から投げナイフを取り出す。
「ちょっ!!」
流石にライチェスは焦っている。
「大丈夫、大丈夫、しっかりと使えれば『付与魔法』がないこんななまくらでは刺さるどころか傷すら付かない。まぁ、しっかりと使えてればの話しだがな。『神通力』は見てみないと分からないからな。避けるなよ。『神通力』で防げ!!防げなかったら自分で治癒しろ治癒の魔法は前回教えたはずだからな」
ゼファードは容赦なくナイフをライチェスに投げるが、ナイフはライチェスに刺さらず弾かれる。
「おお!!一回くらいは刺さると思っていたが」
ゼファードは一回で成功するとは思ってなかった。
「むしろ、こっちの方がしっくりくる感じがします」
ライチェスは他の魔法は必死に覚えたがこれに関してはすんなり出来ていた。
「・・・なら、次は自分の目にも同じことをしてみろ。次は全力で避けろ」
ゼファードは更に容赦なくナイフを投げるとライチェスは全て避けて見せる。
「おいおい、嘘だろ。完全に当てるつもりで狙ったんだがな」
「なんか、投げたナイフがかなり遅かったので脚力に魔力を集中させて避けました」
「・・・なるほど、これは盲点だった。お前さんの適正はどちらかというと鬼人に近い、だからこそお前さんの一般的な魔法の伸びがかなり悪いんだ。仕方ねえ、これは俺からのご褒美だ。会わせてやるよ。お前さんが一番愛する者に」
「その顔で毎回、愛を語るのはやめてくれませんか?気持ち悪いです。愛の神でも語るつもりですか?」
ライチェスはゼファードに冷たい視線を向ける。
「お前ってたまに毒吐くことあるよな。だが、愛の神か、それいいな。それなら俺は愛の神を自称するぜ。だとしたら、お前さんが初代愛の神徒になる訳だな。こりゃいい!!傑作だ!!」
「やめて下さい、気持ち悪いです」
「まったく、ノリが悪い奴だ。今から鬼人の都センガイに向かう」
ゼファードとライチェスは一月かけてセンガイに到着する。
「なんと言うか独特な雰囲気ですね」
センガイは和風一色な建物が多くライチェスにはとても新鮮だった。
「お前さんに『神通力』の適正が分かった以上、お前さんは武術を獲得してもらう必要がある。お前さんの愛が本物ならすぐ終わる」
「何でもかんでも愛に結びつけるのやめてくれませんか?愛とはもっと高尚で神聖でないといけないんだ。師匠みたいな汚れきったお方が言うと言葉自体が穢れます」
「お前さん、ここぞとばかりに毒吐くのやめないか。そろそろいい歳したオッサンが泣くぞ。道のど真ん中で泣き叫ぶぞ」
ライチェスの自分の扱いがぞんざいになって来ている事を嘆く。
その話し声に反応したのか一人の少女が寄って来た。
「やっぱり、ライちゃんだ。どうしてここにいるの?」
その存在に気付くとゼファードは少し距離を置く。
「ちょっと用事があってね。君もどうしてここに?」
「ここが私の故郷だからだよ。いいところでしょ」
「そうだね。落ち着いた雰囲気があっていいと思うよ」
ライチェスはアシュナと再会できた喜びで心が一杯だった。
「そうだ!!もう一度あの刀貸してくれるかい?」
「いいよー」
アシュナはライチェスに紐で繋がれたら刀と鞘を借りる。
『今なら、出来る気がする』
ライチェスは呼吸を整えると剣を投げ、鞘に刀を納め逆に鞘を投げ刀を納める。
それを何度も繰り返し、アシュナが見せてくれた背面でのキャッチや鞘を蹴って刀を納める技を見せた。
「!!」
アシュナは真剣に見ていたが、その技を見ると驚いたような表情をした。
『コツが分かった。コレは刀、紐、鞘を自分の身体の一部としてイメージしてその上で向きや角度を調整するんだ』
「凄い・・・ライちゃんはやっぱり凄いよ!!」
ライチェスはアシュナが褒めてくれることよりも喜んでくれた方が嬉しかった。
「どれくらい、ここにいるの?」
「うーん、三日くらいかなぁ」
「明日も会いに来てくれる?」
「会ったばかりでそれを聞くのかい?
君が待ってくれるなら僕はそれに応えるだけだよ」
その言葉で彼女の表情は明るくなる。
まるで魔法の言葉だと今なら思うだろう。
彼女の優しさに甘えたいだけの彼女を笑顔にする卑怯な魔法の言葉である。
「それより、なんでその呼び方なんだい?」
「ライチェスでしょ。だからライちゃんなんだよ」
「なるほど、恥ずかしいけど君がそれでいいなら僕は構わないよ」
ライチェスは自分が恥ずかしいことよりもアシュナが喜んでくれる方が良かったのである。
センガイでライチェスは鬼人が扱う武術『悟掌拳』を教わった。
三日という短い期間だったが一通りの型を見て一通り練習した。
ライチェスはアシュナにもそれを見せるとアシュナは嬉しそうにそれを見ていた。
別れの日アシュナは悲しそうな表情をしている。
「次も会いに来てくれる?次はずっと一緒にいてくれる?」
ライチェスはアシュナの頭を撫でる。
「僕がいつか強くなって、僕が君と並び立てた時、一緒に歩もう。僕は君と同じ景色を見たい今も、そしてこれからも・・・君を思うこの気持ちは昔も今もこれからもきっと変わらない。心に・・・いや、魂に誓うよ。それまで待ってくれないかい?」
「うん、待ってる」
アシュナは笑った。
ライチェスはそれが嬉しかった。
「・・・良い女だな。お前さんにはもったいないくらいにな」
「そうですね。だからこそ強くならないといけないんです。彼女と同じ景色を見る為にも」
『だが、一目見て分かった。どうしてお前さんが彼女に会い、俺に会ったのか。
強い運命を持つのは彼女かと思ったがどうやらお前さんの方だったようだ。彼女もそれなりに強い運命の持ち主なんだがな。いや、強い運命同士引かれあってるのか?成る程、いい加減、俺も覚悟を決める時なのかもな』
ゼファードは何かを考えている表情を浮かべている。
「これが最後にお前さんに教える事だ。お前さんに以前話したと思うが、どうして俺が初代『技の神徒』に破門されたか。その答えがこれだ」
ゼファードは木に触れると一瞬で木が枯れる。
「一般的な魔法は自分の魔力により外の魔力に干渉することで制御する。『神通力』は自分の魔力を身体に留め操り制御する。こいつは他者の魔力の制御権を得ることができる言わば禁じ手だ。『断魔の力』と俺は呼んでいる。これを開眼させるには自分の命をかけないとならない。だからこそ、もう一度質問する。お前さんは愛のために命を投げ打つことができるか?」
最初はゼファードのこの質問の意味が理解できた。
そして、アシュナに再会したことで彼の覚悟は固まった。
「僕のこの気持ちが愛かは分かりません。しかし、彼女を守りたいというこの思いに偽りはありません!!命以上に優先するものが僕にはあるんです!!」
「これでも覚悟は揺るがないか、分かった。だが、言っておく、この力は滅ぼす事は出来ても誰も救う事は出来ない。そんな力だ。お前さんは後悔するかもしれない、だからこそ教えはするが使うかは自己責任だ」
ゼファードはライチェスに最後の力を伝授し、免許皆伝という事で断魔銃『ライネル』を渡した。
その後、ライチェスはゼファードが何処へ向かったかは知らなかったが、気付いた時には自国に帰っていたのは覚えている。




