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ゴーレム

翌日、ライチェスは帰って来なかった。

叔父と言っていたし、そのまま泊まっていったのだろうとクリスは思っていたが、アシュナは不安そうだった。


「大丈夫よ。あいつの事だから今頃ゆっくり食事でもしてるんじゃない」


クリスはまさかライチェスが自分の叔父に捕らえられてるとは微塵も思ってない。


「きっと、ライちゃん部屋から出して貰えなくて泣いてるもん」


アシュナに限ってはライチェスがどんな目に遭ってるか的確に答えていた。


「それこそありえないわ。あいつがあんた以外に対して泣くなんて考えられないもの」


クリスはあの男がアシュナ以外に泣かされた所など見たことがないのだ。


「ライちゃん早く帰って来て欲しいなぁ」


アシュナはライチェスが早く帰って来るように願う。


ライチェスが不在の為クリスとアシュナは街を見て回っていた。


「や、やっと見つけました!!」


衛兵の一人がクリスに駆け寄って来る。


「どうしたのよ。血相を変えて?」

「た、大変です!!また、男子が攫われる事件が発生しました」

「早速!?」


クリスはいくらなんでも早すぎだろと思う。


「女ではないんですがゴーレムが子供を連れ去っていて我々も駆け付けるんですが、手に負えそうにないんです」

「ゴーレム!?」

「基本的には遺跡などを守護してる奴でこんな所に出るようなモンスターではないはずなんです」

「偶然?にしても出来過ぎてるわね。で、そのゴーレムは何処へ向かったか分かる?」


クリスはゴーレムが向かった先にあの女がいると考えている。


ーーーーー


街の外れにある小屋にその女はいた。


「ハァハァ・・・」


女は息を粗くして年端のいかぬ男の子に跨る。


「やっぱり、男性はオッサンより男の子よね。ああ♡すごい♡」


この女は重度のショタコンで発情期を迎えるとショタを抱きたくなる衝動に駆られる。

攫ったショタに食事を与え、ケガや病気にも気をつけているが洗脳を施されている為、逃げられないのである。


「・・・ハァハァ、まだ・・・足りない」


女は一人や二人のショタで満足するような女じゃなかった。

それだけに自分をはめたあのショタを蹂躙したくなった。


「・・・最初からゴーレムを使っていればこんなことにならなかったけど、男の子は自分で品定めしたかったわ」


この女は最初のうちはゴーレムで攫っていたが調整が上手く行かなかったため、男の子ではなく女の子を連れて来たり、身長の余りに低い男性を連れて来たりしていたため、自分で品定めする必要が出て来たのだ。


「待っていなさい、あなたには取って置きを使ってあげる」


女はローブを羽織り、瓶詰めにされた光る石を見てうっとりしている。


「私の最高傑作で、楽しませてあげる」


女は瓶を玩び、中の石を転がす。


ゴーレムは魔物の中では厄介なものが多く、遺跡の侵入者を撃退する為に魔法に耐性を持っているものが多い、そしてもちろん鉱石系の魔物なので物理にも耐性がある。

しかし、『消滅』を扱えるクリスと破壊力に定評のある刀を持つアシュナの敵ではなかった。


「あんた、遊んでないで真面目にやりなさい!!」


クリスは本気を出さないアシュナを叱りつける。


「んー、戦いを楽しむ上で手を抜く事もまた一興なんだよ」

「嘘仰い!!ミュラー相手に最初から随分と本気だったじゃない」


クリスがミュラーの名前を出すとアシュナは首を傾げる。

ミュラーが誰だか分かっていないようだった。


「あんた、まさか特別生で私とライチェス以外を知らないって言わないわよね」


ニーナはともかくあの見た目はどう見ても不良なのに真面目に授業を受けてる存在感の塊に気付かない方がおかしい。


「知ってるよ。ライちゃんとお姉ちゃんと・・・龍・・・あれ?確か特別生って五人って聞いてたけどもう一人って誰?」


アシュナは龍の部分だけかなり憎々しげに言っていた。


「その龍が、ミュラーよ。あいつは色んな人に迷惑をかけたのに反省する気が無いのよ。あんたとは偉い違いだわ。特に一番迷惑をかけた私に言い訳ばかりする始末だし、あいつは本当に反省する気あるのかしら」


クリスの中でミュラーの株が修正のできないところまで下がっていく。

しかし、ミュラーの株が下がると同時に株が上がる存在がいる。

ライチェスである、あの男の方が口ばかりの龍人とは違いしっかりと行動で見せてくれるので、一番信用できるのだ。


「そう考えるとライチェスって意外と有能なのね」

「ライちゃんは何でも出来るからね。むしろ出来ないことの方が少ない気がするよ」


アシュナの話しだと一通りの家事だけじゃなく、裁縫やアクセサリー細工、そして何故か鍛冶と日曜大工も器用にこなすらしい。

確かに思い返してみるとこっちに来る時、馬車の整備をしていた気がした。


『そう考えると私の助手にするのもいいかもしれないわね』


クリスの事務所にはニーナもいるが、実際は助手でも何でもない。

いつも隣にいる這い寄る下ネタである。

クリスにとってストレスしかならない。

それなら、ライチェスの方がストレスが少なくてすむ、むしろ今以上に楽が出来る可能性があった。


「うぅ、ライちゃん会いたいよう。早く帰って来てよう」


アシュナのそれは旦那の帰りを待つ嫁のようだとクリスは思った。


「きっと思った以上に積もる話しがあったから昨日だけでは話しきれなかったんだと思うわ。大丈夫、きっと祭り当日の明日には帰って来てくれるわ。その時に存分に甘えてやりなさい」


その前にクリスにはどうしても片付けて起きたいことがあった。

ライチェスがアシュナにしてる隠し事だ。

アシュナの話しを答えなかったのは、それが自分に出来る自信がなかったからという可能性が高いとクリスは思っている。

だからこそ、ライチェスは表情で答えたのではないかとクリスは考える。

だとするとライチェスがアシュナの好意を受け取らないのも納得できることである。

ライチェスは分かっているのだ。

アシュナの行く先に自分がいないことをいずれいなくなることを分かっているから、将来の質問に関しては答えられないのだ。

だから、逆に気になるのだ。

何故、ライチェスは自らが将来的に死ぬことを知っているのかを

ミュラーなら何か知ってるかと思ったが知らないようだった。

実際は知っているが、ライチェスと約束をしていたため、どんな事情があれ教えない。

それが、死という覚悟を持った男への敬意だとミュラーは思っていたからだ。


『まったく、本当に使えない龍人だわ』


しかし、クリスにはミュラーのその真意に気付いてもらえず自らの株を自ら落とすだけだった。


ーーーーー


ラチェットンの屋敷地下の独房に男が倒れていた。

その男は太った醜悪な男だった。

死んではいないが意識を失っている。


「・・・これをライチェス一人でやったとでもいうのか!!」


ラチェットンは困惑した。

ライチェスを捉えていた手錠は『魔封祓神力樹』で作られたもので魔法で抜け出すことは到底不可能だったからだ。


「何故だ!!これは鬼人以外の魔法を封じるものなんだぞ!!」


ラチェットンは行き場のない怒りを気を失った男を蹴りつけることで晴らそうとする。


「・・・まさか、身に付けていたというのか?鬼人の持つ『神通力』を使えるというのか!!」


この『魔封祓神力樹』はどういうわけか、鬼の持つ『神通力』という身体強化には作用しない。

そしてこの『神通力』は鬼人しか使えないとされている。

鎖がねじ切られてる所を見ると力尽くで引きちぎった可能性が高かった。

だが、ラチェットンは『神通力』は自分達が使う魔法を使えない代わりに生み出された魔法と呼ぶに相応しくない不完全で瑣末なものだということを知っている。

だからこそ、不可解だった。

何故、自分達が使う魔法も使える上に『神通力』まで扱えるのかと不可解で仕方なかった。


ーーーーー


「くっ・・・」


ライチェスは屋敷から抜け、クリス達がいる宿に向かおうとした道中だった。


「・・・少しは休ませてくれないかい?僕はクタクタなんだよ」


ライチェスは無駄だと分かってはいるが、ゴーレムに言い聞かせる。

ライチェスは既にゴーレムに囲まれていた。

ライチェスは鞭に打たれボロボロである。

ゴーレムは集団で襲いかかる。

ライチェスは両手に『魔封祓神力樹』の手錠があるため魔法は使えない。


「『断魔掌・烈』」


ライチェスがゴーレムに触れるとゴーレムが爆散する。


「かはぁっ!!」


技を放つと同時にライチェスは血を吐く。


『これは使い続けたら死ねそうだ』


ライチェスは吐いた血を拭うとゴーレムを次々と拳で爆砕させていく、爆砕する度に血を吐いている。

爆砕する度に命が削られる。


『僕がもっと強かったら・・・いや、これは言い訳だな。まったく、君と会うと毎回自分が情け無い奴だと思い知らされるよ。君は追いつこうとする僕をあっという間に突き放す。でも、それでいい。それでこそ、僕の求める最強だ』


ライチェスはゴーレムを爆砕し、その後に襲いかかるゴーレムに掴まれる。

ライチェスは抵抗しない。

抵抗すら出来なかったのだ。

何故なら、ライチェスは最後のゴーレムを爆砕したと同時に事切れていたからである。

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