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消滅の魔女と四英傑 〜天才少女、異世界へ降り立つ〜  作者: ディノ
一章 学園内部抗争
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クリス・スロットVS冥王の使徒

クリス・スロットは体育倉庫の前に立つ。


「ここね。おそらくここにこの『多重迷宮結界』の術式があるんでしょうね」


クリス・スロットは体育倉庫の扉を蹴り破り、扉の奥に入る。


「・・・学園長室ってこんなに広かったかしら?もしかして空間を広げる魔法と言ったところかしら」


学園長室は数十倍以上の広さになっていた。


「やはり、貴方が来ましたか。クリス・スロット!!」

「うん、前置きは面倒だからパスしてくれない。学園長はどこかしら?死んでたら死体でもいいからくれないかしら?」


副校長のエリンは相手にされず、むっとするがすぐに表情を戻す。


「その傍若無人な態度いつか後悔しますよ」

「あら、そのいつかが分かるなら是非教えて欲しいものね」

「ええ、教えてあげましょう。それが今です!!『暗黒物質(ダークマター)』」


クリスの真上に空間の歪みが発生するとその歪みから黒い物質が落ちてくる。

クリスは真上に消滅の盾『消滅壁』を発生させ防ぐ。


「やはり、そうです。どういうわけかその魔法だけは理解できません。全てを知る『冥王』様ですら知らなかったのです。その魔法は私どもにとっての脅威です。貴方を殺した後ゆっくりと解明致しましょう」

「一つ突っ込むけど全てを知ってるなら、どうして私のこれを知らない訳?矛盾してない?全てを知るじゃなくて殆ど知ってますって言った方がいいわよ。言ってて恥ずかしくならないの?」

「くっ!!『冥王』様を愚弄しますか?」

「愚弄も何も当然の事を指摘しただけでしょ。何年教員やってるのよ」

「まあ、いいでしょう。『冥王』様からはここに来た者を相手にする場合はあらゆることを想定して準備をするように仰せいただきました」


エリンは『魔力増幅剤(ブースター)』の原液を取り出す。


「これが何か分かりますか?」


副校長は学園長が座る椅子に近付く。

学園長は椅子に縛られ、目隠しをされたうえにギャグボールのような物まで口に咥えさせられ拘束されている。

ある意味でエリックが来なくて正解だと思った。

あらゆる意味でエリックはショックを受けトラウマになっただろう。

場合によってはグレる。


「・・・いい趣味してるわね。私のペットも引き取ってくれないかしら?きっと気に入ると思うわ」


クリスはエリンにニーナを本気で引き取って欲しかった。


「まさか、この趣味を理解できないとは・・・貴方もこっち側の人間かと思っていたんですが」

「残念ね。私は至ってノーマルよ」


クリスはエリンにそんな趣味があるとは思っていなかった。


「で、その『魔力増幅剤(ブースター)』でどうしようっていうの?」

「つまり、貴方が相手をするのは学園長という事です」

「ふーん」


クリスは既に『魔力増幅剤(ブースター)』の精神汚染を止める方法を知っている。

今のクリスにとってだから何という状態だった。


「その態度、まだ御自身が置かれた状況を理解してないようですね」


エリンは『魔力増幅剤(ブースター)』を学園長に使うと同時に学園長を解放する。

それとほぼ同時にクリスは『精神魔法』を学園長に使う。


「さあ、殺し会いなさい!!」


しかし、学園長はピクリとも動かない。


「・・・?」


その様子に副校長は慌てた様子で近寄る。


「何故!?どうして動かないんです!?」


副校長が恐る恐る近寄り様子を見ると学園長は寝ていた。


「何故!?どうして!?こんなことが!?」

「ふーん、精神汚染を治せたのがそんなに不思議なんだ」

「き、貴様ぁああ!!」


エリンの被っていた皮が遂に剥がれ落ちる。


「なんなんだ貴様は!!『冥王』様の話ではお前と学園長は殺し合うはずだ!!何故、貴様は『冥王』様に逆らえる!!貴様だけじゃない、あの魔人も鬼人も龍人も獣人も何故だ!!」

「知らないわよんな事」


エリンは憎々しげにクリスを睨むが、クリスは涼しい顔をして答える。


「『精神汚染(ソウルウィルス)』」

「うがぁ!!」


クリスはエリンに精神汚染を仕掛ける。


「こ、これはまさか!!そうか、そういうことか!!何故貴様がこれを!!サトリの秘術『魂魄魔法』を使える!!」


サトリが『魔力増幅剤(ブースター)』の影響を受けない絡繰はつまり、サトリの里ではこの『魂魄魔法』が既に認知されており、『魔力増幅剤(ブースター)』を使ったとしても自分で治せるから問題ないという事なのである。


「どうかしら?それが精神汚染の苦しみよ。自分が徐々に自分ではない何かに乗っ取られそうになる感覚、まずは他人に使う前に自分で味わってみなさい」


クリスは更に駄目押しでもう一度放つ。

エリンは既に目の焦点が合っておらず、うわ言のように『冥王』様、『冥王』様と言っている。


「呆気ないものね」

「ががが・・・『冥・・・お・・・う』しゃ・・・ま・・・」


エリンはぐったりと項垂れる。


「・・・まさか、この我にここまでの醜態を晒すとは」


エリンはゆっくり顔を上げる。

その目は虚ろだが先程と違い意識がしっかりしているように見えた。


「我は『冥王』パント・ミストガン・ジーニアス、全てを知る者、全知者也」

「・・・エリンでしょ。何自分を『冥王』なんて言ってるの?」

「この者は我の傀儡としては良くやった。一番の誤算は『財の神徒』と貴殿の存在だ。貴殿らはどこまで我を愚弄すれば気がすむ?」

「知らないわよ。勝手に自滅しただけでしょ。人のせいにしないでよ」

クリスにとって逆恨みとしか受け取れなかった。

「どこまでも傲慢な男だ」

「残念ながら私は女よ。確かに自分でもイケメン過ぎて困ってるくらいだけど」


最後のはクリスなりのジョークだった。


「全知者の癖に相手の性別すら見抜けないなんて全知者じゃなく全恥者じゃないの?フフフ、我ながらなかなか上手い事を言った気がするわ」

「愚かなり、我の下にくだれ。さすれば命だけは助けてやろう」

「百ゴルドいただけるなら考えてあげるわ」

「よかろう。それくらいはした金だ」

「へぇ、随分と気前がいいじゃない」


クリスはいつもなら嬉しそうな表情をしているが今回は違った。


「でも、考えてやるだけよ。やるなんて一言も言ってないわ!!」

「ならば、後悔するがいい。『加重負荷(ハイグラビティ)』」


エリンが左手をかざすと前方に重力場が発生し肩から先がぐしゃりと潰れる。


「うっ!?」


クリスは片膝をついて立ち上がる事すら出来ない。

上から何かに抑えつけられてるようだった。


「やはり、我が肉体ではないからこの身体では持たんな。だが既に終わった者だ。最後に我のために死ねるならこの者も本望であろう」

『こいつ・・・一体』

「成る程、成る程、何もかもを消せる訳ではないようだ」


クリスは真上に消滅の盾を使ったが防げなかった。


「実はな。貴殿のその『消滅魔法』には多少興味があるのだ。一体どういう式を組み込めばそのようなことができるのか」


エリンの肉体を借りたパントは自分の知らない魔法に心躍らせているようだった。


「嫌よ。これは私の罪の形、あんたには教えない。私の罪は私のものよ。天才という言葉を否定しながら、心の何処かで自惚れてた。その結果、あんなものを生み出してしまった。私は人間に絶望した。もう、あんなことになるのはごめんなの。だから、これはいわば抑止力のための力なの。相手に力を使わせないためのね」

「くだらんな。抑止力の力になんの意味がある。力は使うためにあるのだ!!」


パントにとって強い魔法は使ってなんぼだった。


「『重力零(ゼログラビティ)』」


クリスの身体が宙に浮く、クリスはどうしてこの魔法は消滅出来ないかは理解している。


「やはり、この肉体では長くは持たんな」


クリスの身体が天井に届こうとしている。


「さて、もう一度問おう。我の下にくだれ」

「まったく、しつこい奴は男だろうが女だろうが嫌われるわよ」


クリスの答えはつまりNOだった。


「そうか、それは残念だ。死ぬがよい。『乱喰闇喰(グラトニー)』」


吸収し破壊する無数の闇の球体が落下するクリスに放たれる。

魔法自体のスピードは速くはないが、クリスは落下しているのであまり関係なかった。

クリスは『消滅弾』で球体を破壊するがとても追いつかない。

それだけでも厄介なのだが、地面との激突による衝撃を風魔法で抑えなければならないのだ。

クリスはここに来て今までにないほどのピンチだった。


「くはぁっ!!」


クリスは地面に叩きつけられる。


「なんだ、つまらん。この程度なのか?貴殿は?」

「くっ、確かに・・・上手い手ね。それなら、動きが遅くても関係ないわね。」

「ほう、それならこれはどうだ?」


パントの放たれた言葉と同時に右の脇腹に氷の塊が刺さり血が吹き出る。


「がああああ!!」


正直、年頃の女子が出すような声ではない叫び声だった。


「成る程、これも防げんか。所詮は人間の小娘だな。力はあっても所詮は子供、大賢者の我が敵ではない」


パントは更にクリスの左の太股を氷で貫く。

クリスにはパントの攻撃がまるで見えていない。

これでクリスはまともに歩く事すら困難になった。


「つまらんな。久々に楽しめると踏んだが、やはり貴殿も我に挑んだ者達と一緒か・・・」


エリンの表情を見てもパントの感情の変化は分からないが、何処か寂しそうだった。


「これで最後だ。我にくだれ」


断ったら殺されることをクリスは理解していた。

しかし、クリスは人の指図を受けるのは嫌いだった。

どうせ、一度は死んだ身だ。

そもそも、前の世界では本当に生きていたのだろうかとさえ思う。

ただ人に使われるだけなら作業ロボットと変わらないのではないのか。

この世界に来て、クリスは一つのことを決めていた。

他の者の為じゃない、自分の為に生きると

自分勝手に生きようと

結局、最後の最後で他人の為に動いてしまった。

その結果がこれである。

だが、ここに来て初めて悪くないと思えた。

他人と一緒にいてここまで楽しいと思えたことがここで初めてだった。

だからこそ、死ぬ訳には行かなかった。

ここに来て初めて生きたいと思った。

だからこそ、彼女はこう答える。


「悪いけど興味ないわ」


パントの手によってクリスの死が確定した。

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