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第85話 過去の記憶

綺麗に長く伸びた金髪は黒く染まり紅く煌めく眼光が操られている筈のライノルドを本能的に怯ませる、その一瞬の隙にシャリエルは拳を腹部に叩き込む、辺り一帯は風圧で飛ばされ建物が崩壊した。



「ライノルド……あんた言ったわよね、国民が傷付く日が来ようとも俺が命を懸けて守り抜くって」



悲哀に満ちた表情でシャリエルは呟く、嘆かわしい……だがそれと同時に怒りも込み上げて居た。



ライノルドにとって国民が傷付く事は自身が傷付く事よりも辛い筈……それにも関わらずライノルドに国民を傷付けさせる……その辛さは計り知れなかった。



「ねぇ、聞こえてるの?」



何度問い掛けようとも答えは無い……力付くで止めるしか無かった。



拳を握り締めるとシャリエルは地面を抉る程の脚力で駆け出し背後へと回る、通常時なら腹部を貫通する程の威力を喰らっても尚、洗脳されたライノルドはピンピンとして居た。



振りかぶるモーションを見せガードの構えを取らせると瞬時に背後上空に回る、そして頭目掛けかかと落としを喰らわせようとするがライノルドは両手でそれを受け止めた。



腕が折れる様子は無い……地を砕く蹴りでもビクともしないとは勘弁して欲しかった。



少し距離を取ろうと退がるがライノルドは急に距離を詰める、剣は使わず拳の応酬、シャリエルはそれに答えるかの様に殴り合う、だが幾ら禁忌の魔法で強化しようとも男女に起こる身体能力の差は埋められなかった。



ライノルドの拳がシャリエルの腹部にめり込み、建物を幾つも崩壊させながら吹き飛ばす、内臓がやられたのか吐血して居た。



「痛い……」



痛みで起き上がれない、晴れた空、照り付ける太陽すらまるで自分を嘲笑ってるかの様……どうして自分は何も守れ無いのだろうか。



アーネストに申し訳なかった、魔剣を奪われてからは自分が守ると彼女に告げた……だが今の自分には彼女を護る権利は無い……護れる程に強くは無かった。



国民に対してもそう……国内最強の魔導師と言われ、期待され……尊敬されて来た、そして如何なる時も守ると皆に誓った、だが実際はどうだ、アラサルの時も今も……誰一人として守れて居なかった。



弱い自分が嫌で魔紙を使い、強く見せ掛けて来た……だが本当は皆んなが思っている様なシャリエルでは無い、自分は国内最強なんて肩書きを貰える程に強くは無かった。



ただ……辛い事から逃げ、貴族と言う肩書を捨てて冒険者へとなった弱虫なだけだった。



シャリエル・ブラッシエル=イルフォード、それが本名。



国内では知らない者は居ない程に有名な貴族の生まれだった。



だがイルフォード家は数年前、最近滅びた……理由は次期当主であったシャリエルが逃げ出した事により次期当主が居なくなった事、だが父が……あんな奴が死んでも悲しくは無かった。



妹を殺した者なんてどうでも良かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



シャリエル・ブラッシエル=イルフォード8歳、今から15年ほど前の話だった。



妹と父、そして数十人の使用人と共に東セルナルドの最大権力者として何不自由なく暮らして居た……母が他界するまでは。



母が生きて居た頃は争いとは無縁、温室育ちのお嬢様だった。



だが母が病に伏せ、日に日に弱っていく姿を見て父はおかしくなって行った。



そして母が死んだその日、父は変わった。



「シャリエル、ユエル、これを持て」



広い中庭で使用人達が見守る中、父から投げ渡された木の棒を拾い上げる、そして二人は顔を見合わせた。



「父様、これは?」



8歳のシャリエルは投げられた木の棒を物珍しそうに眺め首を傾げる、別段木の棒が珍しい訳ではなかった。



怪我をしない様にと大切に育てられて来たシャリエルは外で遊ぶ時、木の棒など万が一にもけがの危険性のあるものは触れさせて貰えなかった、それを父から投げ渡された意味が分からなかったのだ。



「構えろ」



威圧的な態度でそう告げる父の言葉に幼い二人は怯える、妹のユエルはシャリエルの後ろに隠れ服を掴み、怯えて居た。



初めて見る父の表情に困惑する……自分が何か悪いことをしたのか、それは何なのか……だが幾ら考えても答えなど出る筈が無かった。



シャリエルとユエルは何も悪い事をしていないのだから。



父は木の棒を構えると加減もせずにシャリエルへと振り下ろす、木の棒は脳天を直撃しシャリエルの意識を奪った。



残されたユエルは倒れ込むシャリエルの身体を必死に揺さぶる、だが父は構わずに木の棒を振り下ろした。



そしてこの日から地獄が始まった。

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