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第74話 復讐

鳥のさえずりが朝を伝える、辺りには昨日の宴で燃やしていた木屑の匂いが微かに漂っていた。



見張りの兵士はジェルジアスが帰った後、ずっと寝ずに見張っていた所為かうつらうつらして居た。



「ご機嫌如何ですか?」



エレスティーナの声に兵士は眼を覚ます、気配も無くいつの間にか目の前に立って居た。



「め、女神様!?」



「気にする事はありません、処刑までの間休憩を取りなさい」



「し、しかし……」



任務を全うしようとする兵士に対しエレスティーナは笑顔を見せる、その笑顔は何処か恐怖を感じるようなものだった。



「あ、ありがとうございます」



兵士はそう言い野営地へと戻って行く、何度も彼は振り返るが絶えずエレスティーナは笑顔のままだった。



「さて、リリィ……懺悔はしましたか?」



エレスティーナはパンっと手を叩き仕切り直す、懺悔なんて微塵もして居なかった。



「貴女こそ懺悔をしたらどうかな?これまで殺して来た天使達にね」



その言葉に笑みを浮かべるエレスティーナ、彼女も自分同様、殺す事に何の罪悪感も感じて居ない様子だった。



そう言う点では似た者同士……勘弁して欲しかった。



「まぁ懺悔の時間なんて建前です、本当の目的は昼、最も天使の力が高まる頃に貴女を殺す為ですよ」



「昼に力が高まる?」



懺悔の為では無いとは思って居たがそんな理由とは予測もつかなかった……昼に力が高まる、そんな感覚は今まで無かった筈なのだが……少し興味深かった。



「月に呪力、太陽に魔力と言う言葉は聞いた事ありますか?」



エレスティーナの言葉に頷く、その言葉は天界だけで無く地上でも有名な言葉だった。



月を作り出した黒魔道士と太陽を作り出した白魔道士……その功績を称えての言葉、だがそんな事はあり得ない筈だった。



一つの惑星を創り出すほどの魔法……神の所業だった。



「月を作り出したのが暗黒神、太陽を作り出したのが太陽神……アグラドゥール様なんですよ」



「アグラドゥール……」



聞いた事も無い名前だった、だがそれよりも暗黒神が月を創り出して居た事への驚きの方が大きかった。



「アグラドゥール様は女神の生みの親、女神が生みの親の貴女達にとっては祖父の様な存在ですね」



「それで、アグラドゥールが昼、天使の力が高まるのと何の関係が?」



「月は闇の、太陽は光の魔力が籠っていると言う事です、光の魔力は天使の力を増長させます……だから昼に殺した方が力をより得られるのですよ」



そう言い笑みを浮かべるエレスティーナ、彼女の行動はアグラドゥールと言う者が存在するなら把握している筈……だが止めないと言う事はその程度の神という訳だった。



「今の時刻は11時、そろそろ行きましょうか」



そう言い女神は檻の鍵を開けるとリリィを檻から出す、シャナの方には目もくれて居なかった。



「シャナも殺すのかな?」



リリィの言葉にエレスティーナは初めてシャナに気付いたかの様な表情を見せた。



「あら、こんな子が居たのね……リリィの小さな頃にそっくり……子供?」



「仲間から譲り受けただけさ」



「ふーん……まぁ貴女さえ殺せれば良いから彼女は兵士に任せるわ」



大した興味も抱かず眼を背ける、兵士に任せると言う事はまともな殺され方はしない筈だった。



シャナの方を見ると彼女も察している様だった。



「大丈夫」



その言葉だけを残しリリィはエレスティーナに連れられ歩いて行く、大丈夫……力強く安心感のある声にシャナの恐怖はいつの間にかなくなって居た。



「大丈夫だなんて何処からそんな考えが出て来るのかしら?」



「さぁね」



エレスティーナの言葉に笑って答える、磔台の周りには兵士が無数に集まって居た。



その下には燃えやすい木々が置かれて居る……どうやら火炙りで決まった様子だった。



「燃やされるのは嫌だね……」



「ふふっ、苦痛を与えれば力の濃度が増すのも実験済みなのよ」



そう言いエレスティーナの枷を外し磔台の枷に嵌め直す、用心深いのか磔台の枷も魔法を使えない特殊な作りの様だった。



「これより罪深き堕天使の処刑を行います!松明の火を!」



エレスティーナの号令で兵士達が松明を片手に足元の木々に火を放つ、足元の木々は圧倒言う間に燃え上がりリリィの身体を燃やして行った。



「どうかしら、苦しい?」



「少し熱い程度だね……私に苦痛など無意味だよ」



そう言い微笑む、だがリリィの服が焼け落ち皮膚がただれて行く、リリィの美貌はあっという間に見る影も無くなった。



15分間燃え続けた火はやがてエレスティーナの手によって消される、鎮火され辺りには煙が充満して居た。



やがてその煙が晴れる、磔台にはボロボロに焼け崩れたリリィだった物が磔られて居た。



「これで……私は絶対的な力を手に入れられる!」



エレスティーナはリリィの身体に手を突っ込む、そして血の結晶を探した。



ずっと彼女の事を探して居た、天使の中でもずば抜けて強く一番自分の脅威だったリリィ……彼女の羽を全て取り込んだ時の力はとてつも無かった、そんなリリィの血の結晶……天界を制する力を手に入れられる筈だった。



リリィの身体を探し続けるエレスティーナ、その時ある違和感を感じた。



何故か血の結晶が見つからない……彼女は息絶えている筈なのにあり得なかった。



「何か……問題でも?」



背後から聞こえてくる女性の声にエレスティーナは動きを止めた。



この砦に兵士は200名、その中で女性はゼロ……女性の声がする訳が無かった。



「何故……生きてるのですか」



エレスティーナはゆっくりと後ろを振り向く、其処にはリリィが全裸で立って居た。



「私が蘇生魔法の使い手なのは知っている筈、昨日ジェルジアスに手枷を変えて貰ってね、1日かけて蘇生術を自身の身体に施したのだよ……まぁ服は無理だったけど」



そう言い笑みを浮かべるとリリィは服を魔法で出し着替える、エレスティーナは焦っている様子だった。



「だ、堕天使が逃げました!皆さん、捕らえてください!!」



そう言い女神は下がると兵士達がリリィ目掛け武器を持ち襲い掛かってくる、雑兵で体力を消費させるのが狙いなのだろうが……無駄だった。



リリィは迫り来る兵士を殺さず、傷付けずに否していく、力による支配は極力するなとアルセリス様から言われて居る……それ故に兵士を殺す事は出来なかった。



「つ、使えない奴ら……私がやります!」



女神はそう言い羽を剣へと変化させる、天使族特有の天翼の剣……それを彼女が使うのは許し難かった。



「仲間の羽をあまり使って欲しく無いね……」



そう言いリリィは光の剣を精製する、過去の記憶を頼りにするならばエレスティーナは体術や剣術は得意じゃ無い……それにも関わらず剣を使用する、解せなかった。



一先ず光の剣を振りかざし無数の鋭利な光を飛ばすと一気に距離を詰める、エレスティーナは最小限の動きで交わして居た。



「成る程、運動が苦手なのは克服したようだね」



「当たり前です、天使族の力を吸収して居るのですから」



リリィの剣を防ごうとエレスティーナは剣を構える、だが光の剣はエレスティーナの剣をすり抜け、彼女の肉体を切り裂いた。



「どうしたのかな、天使族が逆らえないのを良いことに虐殺を続けて居て戦闘経験が無く……気付かなかったかな?光の剣は使用者によっては光の密度を変える事も出来るのを」



そう言い笑みを浮かべるリリィ、エレスティーナは苦虫を潰すような表情をするも直ぐに傷は癒えた。



周りの兵士は熾烈な戦いに近付けず、二人を中心に円が出来ていた。



「やはり強いですねリリィ……天使族の戦士を育成する場でもトップクラスの成績……天才と呼ばれた貴女が怖くて私は力を奪いました、ですが奪われても尚……その強さ、恐ろしいですよ」



「またまた謙遜を……仲間、同胞を食べ生きてきて女神様には敵わないですよ」



リリィは嫌味っぽくそう言い放つとエレスティーナの頭上に魔法陣を出現させる、魔法陣からは無数の光の矢が降り注いだ。



「この程度……」



エレスティーナは咄嗟に魔法障壁を生成し防御する、だが無数の光の矢は魔法障壁に当たっても消える事なく、エレスティーナの周りを囲んで行った。



「こ、これは……」



やがて光が隙間なくエレスティーナを包む、そして次の瞬間目を眩ます程の光を放った。



「目が……見え」



エレスティーナは必死に目を開けようとするが強烈な光によって一時的に視力を失って居た。



必死にリリィの姿を探すエレスティーナ、だがリリィは物音一つ立てずに光の弓矢を構えた。



「戦闘は元より……苦手なんだ」



ゆっくりと弓を引く、堕天させられたとは言え元上官……良くして貰った事はいっぱいあった。



戦地から救って貰った事も……だが彼女は殺さないと行けない、それが天界の為なのだから。



「さようなら……エレスティーナ様」



そう言い弓を射る、一直線に放たれた弓はエレスティーナの頭部を貫いた。



エレスティーナは何も言わず、そのまま地面へと倒れ込み……動かなくなった。

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