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第73話 女神エレスティーナ

階段を下って来る足音にリリィは閉じて居た目を開く、足音は扉の前で止まると扉をノックした。



「そちらの動きは此方から観察出来るようになって居る、両手を頭の後ろに回して待機しろ」



扉の向こう側から聞こえて来た声にリリィは大人しく両手を後ろに回す、此処で無理に脱出してもシャナを危険に晒す可能性がある……それに女神との対面が当初の目的、捕まったのもそう考えれば好都合だった。



リリィが両の手を後ろに回し数分すると扉が一つずつ開いて行く、そして最後の扉が開くとそこにはジェルジアスが立って居た。



「ジェルジアスくん……騙してくれたね」



リリィの言葉に何を返す事も無く、無言で近づき手枷を二人に嵌める、そして強引に立たせると剣を片手に前を歩かせた。



初対面の時とは様子が全く違う、だが操られて居る様子は無かった。



それにしてもいつ罠に掛けられたのか……恐らく彼らは自分が天使族と分かってこんな行為をしている筈……だが天使族と分かる証拠はない筈だった。



光の羽を万が一目撃したとしても今の時代誰でも生やす事が出来る、何せ魔法の羽なのだから……いつバレたのか全く見当もつかなかった。



ふとシャナの方を見ると凄く不安な表情をして居た。



「怖がる事は無い、必ず私が守ってあげるさ」



「はい……リリィ様」



リリィの言葉に頷くシャナ、だが表情は晴れないままだった。



「外に出ろ」



ジェルジアスに剣を突き付けられたまま塔の外に出る、すると周りには砦の守護に付いていた兵士が広場へと皆集まって来ていた。



中央には十字の磔台が二つ、先人達の血に塗れ立って居た。



「私達は処刑されるのかな?」



ジェルジアスに尋ねてもまるで返事が無かった、すると一人の女性の声が聞こえて来た。



「察しが良いですね、リリィ・アクターズ」



聞き覚えのある声……その声を聞いた途端リリィは笑みを浮かべた。



「エレスティーナ……久し振りだね」



磔台の前に突然真っ白の長い髪をした女性が姿を現わす、大きな翼を持ち綺麗な羽衣を見に纏った美女……女神エレスティーナだった。



リリィが最も憎み、最も敬愛していた人物……やはり彼女がこの件に絡んで居る予測は正しかった。



「貴女の羽を引きちぎり地へと落としたのを酷く後悔してるんです……」



悲しげな表情で近づくエレスティーナ、だがリリィの目の前に顔を近づけると耳元で囁いた。



「天使族の中でもトップクラスの強さを誇る貴女の血を飲めなかったのですから」



そう言い頬に手を触れるエレスティーナ、やはり天使の事を只の餌としか思って居ない……昔のエレスティーナから変わって居ない様だった。



だが好都合……これで改心して居たら拷問する楽しみが減るって物だった。



「さぁ皆さん、この国に災厄をもたらす堕天使は捕らえました!」



エレスティーナはリリィを無理矢理前に出す、周りの兵士からは様々な殺害方法が飛び交って居た。



斬首、絞殺、火炙り……どうやら彼らは女神の本質を知らない様子だった。



とは言え此処で言った所で信じる者も居ないはず……この局面を打開するのは難しそうだった。



周りには200を超える兵士、そして女神も居る……一方こっちは少し愛着のあるシャナが一人だけ、戦闘能力はゼロ……彼女には死ぬのはおろか、怪我すらさせたく無い……あまり打開策は思い付かなかった。



「さて、私の同胞を沢山殺したこの者を早急に殺したい所ですが……一晩だけ懺悔の時間を与えます、己のした事を後悔しなさい」



その言葉だけを残し女神は姿を消す、周りの兵士達はリリィとシャナを乱暴に人1人が身動きとるのが精一杯程度の檻に入れると宴の準備をし始めた。



一晩の猶予……なぜ女神がそんな時間を与えたのか、不可解だった。



彼女は強欲で欲深い……そんな女神エレスティーナが懺悔の為に一晩の時間を与える……何か裏がある筈だった。



だがその何かが分からない……謎の手枷の影響で魔法も使えなくなって居る、少しまずいかも知れなかった。



「何か……打開方法は無いものか」



リリィは瞳を閉じて少し考え込む、辺りはすっかり暗くなり、少し離れた野営所では宴が始まって居た。



「あー、俺らも参加したーな」



「しゃーないだろ、女神様の命だ……それにしてもこんな少女も処刑されるとは流石に同情するな」



二人の兵士がシャナの方を見てそう呟く、彼らも人の子……同情を誘えば逃げ出せるかもしれない……だが女神がその辺の対策を打ってないとも考え難かった。



彼らを取り込むのはリスキー、万が一にもシャナに怪我を負わせるのは避けたかった。



「それにしても……どうして彼女に其処まで入れ込むのだろうね」



檻で小さくなり寝ているシャナの方を見ながらリリィは呟く、最初はただの奴隷としか思って居なかったが今となっては可愛くて仕方がない……まるで娘の様だった。



だが自分の子など居ない、作ろうと思った事もない……不思議な感覚だった。



檻から満天の星空を見上げる……自分に明日はあるのかどうか……それは分からない、ただシャナだけは守り抜きたかった。



「リリィさん、起きてますか」



空を眺めて居た時に聞こえて来た声、ジェルジアスだった。



「裏切り者のジェルジアス君じゃないか」



「その事については後悔してます……この檻から出す事は出来ません、ただ手錠を取り替える事は出来ます」



そう言いジェルジアスはリリィの魔法が使えなくなる手錠を外しそれと外見が酷似した別の手錠をはめる、見張りに居た兵士はいつの間にか居なくなって居た。



「見張りは?」



「宴会です、見張りを交代すると言ったらすぐ行きましたよ」



そう言い笑うジェルジアス、彼の目的が分からなかった。



「何故一度裏切ったのにこんな事を?」



その言葉にジェルジアスは少し悲しげな表情をした。



「西の都が滅んで居たのは見ましたよね?」



「そうだね、君と出会った場所だしね」



「あの都を崩壊させた天使崩れを産んだのがあの女神エレスティーナなんです」



そう言うジェルジアスの言葉にリリィは何も言わずに頷く、大方予想は付いていた。



「私はその現場を目撃しました……エレスティーナが力を与えている様子を、そしてその直後、リリィさんが西の都に降り立った、当初は国を乗っ取るつもりだったらしいのですがリリィさんの姿を確認するや否や、私の家族を人質に取り誘き出すよう脅して来たのです」



「成る程、それで初対面にも関わらず警備を依頼したんだね」



大方話の筋は見えた、エレスティーナはフェリス王国を乗っ取ろうと手始めに西の都を天使崩れに滅ぼさせた、そして王国も攻撃させようとしたが自分、リリィの出現により倒された……何故王国を襲うのか、大方力が弱まって来たのが原因なのだろう。



女神の力は人間の信仰心か血で補える、エレスティーナは後者を選んだ……と言う訳だった。



だが王国を襲わなくとも天使であるリリィが現れた、ならば彼女を殺し血を飲めばいい……そんな所なのだろう。



全く浅はか……女神と呼ぶにはあまりにもゲスであさましかった。



だがそれでこそエレスティーナだった。



「ありがとう、エレスティーナは私に任せてくれ……明日、彼女にリリィを狙った事を、堕天させた事を後悔させてあげるからね」



そう言い不敵な笑みを浮かべるリリィ、ジェルジアスは頷き何処かへ行くとリリィは檻にもたれ夜が明けるのを待ち眠った。

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