第63話 グレイアス
遅れた分一日一本以上で頑張ります
グレイアス・アルフォード、オーエン国と言う海に面した小さな国に彼は生まれた。
決して裕福では無いが貧乏でも無い……ありふれた家庭で育ち、モンスターや敵国から国を守る騎士に憧れ騎士を志したごく普通の青年だった。
そして16歳になったある日、グレイアスに転機が訪れる。
オーエン国主催の闘技大会、それにグレイアスは最年少で出場し、優勝した。
呆気なく……軽々と勝ってしまったのだった。
大した努力もせず揺るぎない騎士への信念も無い……そんなグレイアスが寝る間も惜しんで鍛錬し、命を賭けても国を守る信念を持った人々に勝利してしまったのだった。
グレイアスはいわゆる……天才だった。
剣、槍、斧、弓……様々な武器や武術を一目見れば人並み以上に出来てしまう、騎士団に入団してから2年、18歳の頃にはもう既に騎士団長として国民から尊敬される存在となって居た。
何故モンスターに苦戦するのか、何故あの程度の人間に手こずるのか……グレイアスには全てが理解できなかった。
他国との戦争で多勢に無勢だったとしてもグレイアス一人で戦局を変えた、筋肉の動きを見て軌道を予測する、そして躱し次の攻撃をしようとしている者から殺して行く……例え大勢で来ようともグレイアスは負ける事が無かった。
敗北のない……そんな人生をグレイアスは送っていた。
そしていつしかこんな事を思っていた、大陸で……一番強いのではないのかと。
幾度と戦争を重ね勝ち続けたグレイアスにとっては当然の発想だった。
だがある日、グレイアスは敗北を喫した。
黒い騎士を名乗る者に。
広い草原で膝をつき絶望するグレイアス、彼の目の前には黒い鎧を身に纏った異質の騎士が立っていた。
白は正義、黒は悪と言うイメージから黒い甲冑を着るものは居ない……それ故に異質だった。
「な、何者なんだあんた」
痺れる腕で必死に剣を持とうと試みるが握れずに落とす、それ程大きく無い姿からは想像もつかないパワー、歴戦無敗の自分が一瞬にして負けた……信じられなかった。
「この世界を……統べる者だ」
そう答える黒騎士、声は機械の様な声で性別が判断出来なかった。
「世界を……統べる」
一介の騎士に過ぎない者からの言葉に思わず笑うかと思ったがグレイアスは不思議にも笑って居なかった。
自分で笑うと思っていたのに何故笑わないのか……この黒騎士ならやり遂げる、そんな気がしたからだった。
「付いて来い、右腕として働け、そして世界を統べるのだ、お前にはその資格がある」
そう言い放つ黒騎士、その言葉にグレイアスは迷った。
何も分からぬ謎の人物、目的は世界を統べると言うザックリとした物……それに加えて数千万と言う人間を敵にしなければ行けない……果たして自分は戦力になるのだろうか、そんな思いが頭の中を駆け巡っていた。
迷っている様な表情をしているグレイアスに黒騎士は手を差し伸べた。
「お前を今以上に……もっと強くしてやる」
正直向上心などは無かった……だが目の前の黒騎士よりも強くなれる可能性があるなら……試さない他は無かった。
グレイアスは黒騎士の手を掴み立ち上がった。
「精々飼い犬に手を噛まれない事だな」
そう言い歩いて行くグレイアス、その背中を見つめ黒騎士は笑った。
これが後の暗黒神との出会い……そしてその後グレイアスは儀式を経て怪物の姿へと変わり、実績を重ね本当に右腕的存在となった。
魔人グレイアスと呼ばれる様になってからは負け無し、ずっと無敗だった……そして暗黒神が封印される際も完全に負けた訳では無く不意を突かれ封印されただけ……つまりグレイアスの人生の中で敗北は暗黒神との一戦のみだった。
だが目の前に迫り来る斧、圧倒的な力の差……初めてグレイアスは諦めた。
勝つ事を、生きる事を……どうやっても目の前に居る大きな男、フェンディルには敵わないと分かっていた。
「カルザナルド……後は頼んだ」
そう言いグレイアスは目を閉じる、その瞬間彼の頭部は宙を舞った。
グレイアスの頭部を跳ねても尚止まらぬ斧をフェンディルは魔法を使い引き寄せると地面に置き一息吐く、それなりに強い相手だった。
結局最後まで消える原理は分からなかったが……死んだ今となってはどうでも良かった。
アルセリス様への報告用に頭部を持ち上げるとタオルを巻きカバンの中へと仕舞う、そして冒険者達を守って居た結界を外すと彼らはなだれ込む様にフェンディルの元へと駆け寄ってきた。
「あ、あんた一体何者だ!?その強さプラチナ……いや、ダイヤモンドは余裕であるぞ!?」
「なんでアンタみたいな奴が無名なんだ……」
冒険者達は溜まって居た疑問を次々にぶつけてくる、だがフェンディルが言う事はただ一つだけだった。
「俺はアルカド王国第1、2守護者……フェンディル・ワーグスト、アルセリス様の部下だ」
その言葉を残し姿を消すフェンディル、残された冒険者達はただただ疑問符を浮かべるだけだった。
「ふ、フェンディルさんと言いセリスさんと言い……世界は広いな」
気絶から目を覚ましたアダムスがヨロヨロと立ち上がる、そしてグレイアスの死体近くに転がって居た剣を仕舞うと瓦礫に腰かけた。
アルカド王国……聞いた事の無い国、階層守護者と言う事はダンジョンなのだろうか。
「分からない……ただ、報告の必要はありそうだ」
アダムスはフラつく足で立ち上がるとヨロヨロとオーリエス帝国の方へと足を運んだ。