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第62話 六魔の真の力

グレイアスが動き出すよりも速くフェンディルは身の丈程の斧を構え一瞬にして背後を取ると速さ重視の一撃を繰り出す、だが斧はグレイアスの肩を捉えるもかすり傷すら付けられなかった。



小手調べの一撃ではあるがフェンディルは少し驚き反応が遅れる、その隙を突かれグレイアスの拳が顎を捉える、そして一瞬宙に浮くもすぐ様グレイアスは4本の腕を握り締めると地面へ叩きつけた。



「どうした?こんな物なのか?」



咄嗟に距離を取るフェンディルを見て挑発する様に手を広げるグレイアス、身体的能力が数倍に跳ね上がり身体の強度も同様に上がっている様子だった。



フェンディルは紙を取り出すとメモをする、今後六魔と戦う時の参考になる筈だった。



「こっちから行くぞ」



そう言い走り出すグレイアス、フェンディルは斧を構え4本の腕から繰り出される別々の攻撃を防いで行く、右上部からのアッパーで斧のガードが挙げられ隙が出来た腹部に右下部の腕からストレートが繰り出される、それを膝でガードすると斧を振りかざす、グレイアスは一瞬防がずに受けようとするが今でとは違う圧を感じ咄嗟に後ろへ仰け反った。



その隙に距離を詰めようと一歩前に踏み出すフェンディル、だがその時腹部に鋭い痛みを感じた。



「ぐっ……何が?」



グレイアスから距離を取り腹部に視線を移す、腹部には何か鋭利な物で突き刺された様な傷ができて居た。



咄嗟にグレイアスの方を見るが彼は武器を持っていない、手にも血は付着して居なかった。



辺りを見回し探知の魔法を発動するが気配は感じられない……突然出来た傷にフェンディルは困惑して居た。



「何が起きたか分からない……そんな表情だな」



そう言い笑うグレイアス、少しマズかった。



謎の攻撃の手段が分からなければ迂闊に動けない、遠距離攻撃なのか時間差なのか……少し不利だった。



「頑張って見抜く事だな」



そう言い再び距離を詰めるグレイアス、4本の腕から繰り出される攻撃を防ぎながら謎の攻撃の解析……思考が追いつかなかった。



やはり実戦から長く遠ざかっていると鈍りまくりだった。



「何を笑っている」



不敵な笑みを浮かべるフェンディルに不思議そうな表情をし、グレイアスは尋ねた。



「いや……考えながら戦って居るのが馬鹿らしくてな」



その言葉に疑問符を浮かべるグレイアス、フェンディルは笑って居た。



元より自分は考えるのは苦手な性格、人間に似た容姿だが人間では無く、サイクロプスだがサイクロプスでも無い……両者から迫害され何の教育も受けず生きてきた筈、そんな自分が考えて戦える筈が無かった。



本能に従う……それだけだった。



フェンディルは斧を手放す、その瞬間辺りの空気が変わった。



グレイアスの影響で揺れて居た地面はいつしか止まって居た。



「なん……だ?」



変わった空気感にグレイアスの表情は歪む、フェンディルから尋常では無い『何か』を感じた。



「魔力解放……だ」



そう呟くとフェンディルの額に三つ目の目が縦に開く、その瞬間先程まで晴れて居た空に雷雲が掛かり、暴風が吹き荒れた。



「天候を変えるほどの力……デタラメじゃねぇーか」



あまりの力に後退りするグレイアス、元よりアルセリス様からは圧倒的力で勝利と言われていた……背後の冒険者たちにも強さは伝わっている筈だった。



「俺……怪物同士の闘い見てんだよな」



「あ、あぁ……」



冒険者達は息を飲む、人間では到底及ばない力だった。



「この絶望……あの時を思い出すな」



グレイアスは苦笑いを浮かべ細心の注意を払う、いつ動き出すか筋肉の動きを注目して見続ける……だが瞬きをした次の瞬間、天を仰いで居た。



「な……?!」



何が起きたのか理解できなかった、立ち上がろうと腕を動かすが4本とも全て切り落とされて居た。



「基本的に第三の眼はアルセリス様が強大過ぎる魔力を抑える為に封印を施して頂いて居たのだが……この場合仕方ないだろ」



そう言い斧をグレイアスの喉元に当てるフェンディル、あまりの実力差に思わず笑って居た。



「強過ぎる……到底俺じゃ敵わないぜ……不意を突かなければな!」



そう言い何処から出て来たのか、剣を持った5本目の腕がフェンディル喉元を目掛けて伸びる、だが剣はフェンディルの喉元に当たるも折れてしまった。



「な……」



「魔法で身体の強度を変えるのも出来るだろ?」



そう言い斧を振り上げるフェンディル、その瞬間グレイアスの頭に走馬灯の様な物が駆け巡った。



(死ぬのは……やっぱり怖いな)



迫り来る斧を眺めながらグレイアスは遠い……まだ人間だった頃の過去を思い出して居た。

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