第44話 五日前
アラサル掃討作戦が始まるより5日前、ランスロットとマリスはセルナルド東王国に屋敷を構えクリミナティの事を探ろうとして居た。
「マリス様も少しは手伝ってくださいよー」
「いや」
ダンボールにめい一杯詰められたナットやらボルトやらの機械部品をガチャガチャと音を鳴らしながら少し古びた外観の屋敷内に運んでいくランスロット、それを他所にマリスは馬車の荷台で寝転がり本を読んで居た。
セルナルド王国の東領土、セルナルド国王が治めている西の領土とは少し違いこの地帯は貴族が多く、王への反乱分子が多い……それ故にセルナルド王国の一部ではあるが実際の所国王の目も届かぬ無法地帯だった。
治安が特段悪い訳では無いのだが何より貴族が多い、そしてその貴族の中でも三つの派閥があり日夜水面下で争っているとの情報だった。
一般市民に被害は及ばないが貴族にとっては犯罪都市よりも危険な地域との事だった。
ダンボールの上に乗せてあるアウデラスから貰った東セルナルド国の情報に目を通す、マリスの方を見るが相変わらず怠けている……彼女があの調子、自分がキチンとしないといけなかった。
屋敷の扉を開けると両側に一部屋ずつ、そして階段があり階段奥に一部屋、そして登った所に二部屋と二人で住むには少し大き過ぎる内装だった。
木製の落ち着いた内装にランスロットは思わず笑みが溢れる、今日からマリス様と二人暮らし……楽しみで仕方が無かった。
「終わった?」
「おっとと!急に話し掛けないで下さいよマリス様!」
先程まで馬車にいた筈のマリスの声が背後から突然聞こえてきたこの事に驚きランスロットはダンボールを落としそうになるも何とかキャッチし地面に置く、眠そうな何とも言えない気怠げな表情……長く彼女の側にいるが相変わらず感情が読み取れなかった。
機械だから喜怒哀楽が無いとアルセリス様は言うがランスロットはそう思って居なかった。
見た目は人間そのもの、確かに体のメンテをしたりオイルが主食だったりとメカっぽい所もあるがマリス様程の高性能な機械なら感情があっても不思議では無かった。
「私寝るから荷物よろしくね」
無言でマリスを見つめるランスロットに彼女はそう言うと右の部屋に入って行く、極度のめんどくさがりな性格も人間そのものだった。
とは言え正直自分はロボットでも人間でもどちらでも良かった、あの性格、姿全て含めてのマリス様が好きなのだから。
「あぁ……愛おしい、この気持ちがマリス様に伝われば……」
届かぬ気持ちにブツブツ言いながら馬車の荷物を運びに戻ると何軒もランスロット達が住む屋敷の周りに並ぶ屋敷に住む隣人であろう人が門の前に立って居た。
「君が新しい貴族?」
カールの掛かった金髪のタキシードを着た男が腰に剣を携えてランスロットに話し掛ける、その姿にランスロットは少し警戒態勢を取るとあまり近づかずに頷いた。
「はい、小国の出身ですけどオリゲル家と申します」
「聞いた事無いですね……まぁいいです、私はラフォス家のラフォス・アラポルトです、宜しく」
ラフォスと名乗った男はランスロットに近づくと手を差し出し握手を求める、彼がラフォス……先程話した三代派閥の中の一つだった。
書類によれば西の本国と繋がりを持ち兵士や武器などを提供する比較的に協力的な貴族派閥の様だった。
「ランスロット・オリゲルです」
そう言い手を握るとラフォスは少し驚いた様な表情をした。
「なんと、かの有名なランスロット殿と同じ名ですか!」
そう言い手を握る力が心なしか強くなるラフォス、少し興奮している様子だった。
「かの有名な……あぁ、そうですね、同じですね」
ラフォスの言葉に苦笑いをするランスロット、恐らく彼の言っているランスロットは自分の事だった。
今から恐らく50年程前に大陸で名を馳せた光の騎士ランスロット……懐かしい名だった。
「すみません、私ランスロットさんの大ファンな物で……」
そう言い興奮して居たことに気がつき少し恥ずかしそうにするラフォス、自分のファンと言われるのは少し恥ずかしかった。
「ははっ、尊敬できる人が居るのは良いことですよ、私にも尊敬する人が居ますから」
「ランスロットさんにもですか、どの様な方なのですか?」
「そうですね……他人から見れば冷酷で慈悲の無い残忍な人に見える、けど本当は仲間思いの優しい人、圧倒的な強さを持ち人間としても騎士としても尊敬できる人ですね」
アルセリス様の事を思い浮かべながら答えるランスロット、するとその言葉を聞いたラフォスは手を叩き拍手をした。
「まさかランスロットさんが騎士とは思いませんでした!」
そう普段着のランスロットを見て何故か嬉しそうに言うラフォス、久しぶりのまともな会話に少しテンションが上がって話し過ぎたかも知れなかった。
「ランスロットさんは三代派閥をご存知で?」
「まぁ……一応は」
ラフォスの言葉に頷く、これ以上話が長くなるとボロが出るかもしれない……早い所解散して欲しかった。
「それなら話が早いです!ぜひ我ラフォス派閥の戦闘要員として参加して貰えませんか?勿論戦いの度に報酬はお渡しします、その他の支援も!」
そう困るランスロットを他所にグイグイと来るラフォス、クリミナティに一番近い派閥が分からない今は中立的な立場に立って居たかった。
「少しお時間をもらっても?」
「あ!分かりました、長々とすみません、私の家は隣なのでまた!」
そう深々とお辞儀をし立ち去っていくラフォス、やはり貴族同士での争いが起こって居る様子だった。
貴族を上手く交わしつつクリミナティの捜索……マリス様と一緒に居られるのは嬉しいが骨の折れる任務になりそうだった。
ランスロットは残りの荷物を担ぐと青い空を見上げ息を吐き屋敷へと向かって行った。