表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/266

第253話 開戦

どこからでもかかって来い、そう言わんばかりに武器も構えずに立つシャルティン、だが隙だらけの姿が逆に攻めづらかった。


ウルスも彼に負けた……使って来る魔法や攻撃方法は未知数、下手をすれば一手で全滅するかも知れなかった。



「中々攻めてこないね、怖いとか?」



「あぁ、怖いさ……ウルスでも勝てなかった相手なんだからな」



「驚く程に正直だね」



「虚勢を張ったところで変わらないさ」



「それもそうだね」



まだ動きは無い、先程のアルラが言った加護……それがどの程度の物か確かめる必要があった。


リカの魔力を借り氷塊を複数生成すると威力重視でシャルティン目掛け放つ、今の彼なら避けずに加護を見せつける様に受ける筈だった。


迫る氷塊を避ける事無くシャルティンに直撃する、だが氷塊はシャルティンに当たる直前で粉々に砕け散った。



「何かしたかな?」



余裕の表情で頬を掻く、確かに攻撃は通らない……だが全ての攻撃を無効化する加護なんてある筈がない、必ず限度はある筈だった。


それに先程の攻撃はこちらに注目させる為、シャルティンが気付いているかは分からないが既にアルラ達はシャルティンが視界に捉えられない位置へと移動して居た。


固まって居れば視界に捉えやすい、死角からの攻撃も出来ない……基本的だが複数対一人なら有効な戦い方だった。



「加護とは言え限度はある筈だ、それに氷塊ならまだたっぷりある!!」



そう言い隼人はありったけの氷塊を生成する、飽く迄も俺の今の役目は注意を引き付ける事だった。


一瞬視線を死角へと回ったアルラとシャリエルの方へと移す、両者とも最高の一撃を静かに準備して居た。



「視線、バレバレだよ」



「なっ!?」



氷塊の弾幕で視線はバレない様にした筈……だがほんの一瞬、シャルティンの視界に別の方へ視線を移す隼人が映って居た。


そしてシャルティンは一瞬でその場から姿を消した。



「何処へ……」



姿を探そうとしたその時、アルラの鈍い呻き声の様な声が響いた。



「アルラ!?」



「大丈夫です、少し油断しました」



そう言いながら腹部を押さえる、既にシャルティンの姿は無かった。



「最初はやっぱり補助役から倒さないとね」



彼の声が聞こえて来たのは先程までのサレシュのいた場所だった。



「サレシュ!!」



シャリエルの声が響き渡る、サレシュ一人ではやられる……だが間に合う距離じゃ無かった。



「まずは一人脱落だね」



そう言いシャルティンは剣を振り上げる、必死に届かない手を伸ばすシャリエル、不甲斐ない、そんな表情を見せるアルラ……誰もがサレシュの死を悟って居た……ただ一人、隼人を除いて。


振り下ろされる剣に思わずシャリエルは目を伏せる、だが聞こえて来たのは肉が断たれたとは到底思えない、何か金属が折れた様な音だった。



「驚いた……そんな力を使えるなんて」



「考えが甘かった……シャルティン、お前相手に温存しとこうなんてのがな」



サレシュを抱え黒い影の様な物を身に纏いシャルティンの攻撃を防いだ隼人、だが形容仕様のない……不気味な雰囲気にシャリエルは息を呑んだ。



「すまないサレシュ達、少しの間下がっててくれ」



そう言い抱き抱えて居たサレシュを下ろす、その言葉に悪態を付くかと思っていたサレシュは無言で頷いた。


今の隼人を前に自分は邪魔になる……理解していた。



「は、隼人さん……その力は?」



身体から溢れる不気味な黒い影、不穏な力に違いは無かった。



「不穏で不気味な魔力からして……冥王の力かな?」



「時間がない……五分……いや、一分で終わらせる」



「随分と大きく出たね、それが可能ならもっと早くから力を使ってるんじゃない?」



その言葉に耳を貸す事無く隼人は距離を詰める、そしてシャルティンに蹴りを入れると鎧が粉々に粉砕された。



「凄い威力だね」



そう言い距離を取る、圧倒的な力……初めてシャルティンに勝てるかも知れないと言う希望が見えた、だがそれでもアルラの表情は暗かった。


隼人さんから戦力にならないと宣言されたのも辛いがそれ以上にあの危うい感じがする力が恐ろしかった。


シャルティンは冥王の力と言っていた……冥王、暗黒神を倒した後に出会ったあの恐ろしい冥府の王、なぜその力が使えるのか、そしてそれを何故隼人さんは伝えてくれなかったのか、分からない事だらけだった。



「冥王の力……凄まじいね、一撃一撃の攻撃で魂が吸い取られそうだよ」



そう言いながらも隼人の攻撃を去なす、加護で攻撃を防いでいる様子はない……とは言えまだ攻撃が通ると考えるのも早計だった。



「お前を倒す為の力だ」



「俺を倒す為だけに冥王の力を使ってくれるなんて嬉しいもんですね」



「一人称、俺になってんぜ」



隼人の言葉の後にシャルティンは笑みを見せた。


その笑みの意味は分からない、だが明らかに楽しんでいる様子だった。


外から見た二人の戦いは異次元そのものだった、守護者を統べる者……鬼神、そんな大層な名称を貰って置きながら指を加えてみる事しか出来ない、全く入る隙が無かった。



「神の力……」



「どうかしましたかシャリエル?」



一人ぶつぶつと俯きながら何かを言い続けるシャリエルにアルラは尋ねるが答えは帰って来ない、何か策があるのか……凄く真剣な表情だった。



「冥王の力はそんなものか?!」



シャルティンの拳が顔面に入る、冥王の力で身体能力が底からかなり上がっているにも関わらずかなりの痛み……普通の状態で喰らって居れば頭が飛ぶレベルだった。


だが何故武器を使わないのかが不可解だった。


だが今はそんな事を気にしている暇は無い、足元に闇を出現させると隼人はその中へと身を潜めた。



「気配が消えた……厄介な魔法だね」



一瞬にして消えた隼人に初めて警戒態勢を取る、そして背後に闇が出現した。



「後ろか!!」



まるで予測していたかの様に背後へと蹴りを繰り出す、だが背後には誰も居なかった。



「上だクソ野郎!!」



何も無い空間に不自然に生まれた闇から隼人が姿を現す、だが虚をついた所で加護を破れる術は無い……冥王の力を持ってしても攻撃を受けることは無い。


シャルティンは武器すら構えずにただ視線を上へと向ける、だが隼人が握っていた武器を見て表情が一変した。



「その剣は!?」



刀身に札が張られた不気味で異質な剣……ウルスが持っていた剣だった。


絶対防御故の慢心、それに加えてウルスから受けた傷の疼きに反応が遅れる、そして剣はシャルティンの身体を切り裂いた。


だが浅かった、反撃の可能性も考え少しだけ逃げる事が脳裏をチラついてしまった。



「まさかウルスがそんな置き土産を用意していたとはね……死ぬかと思ったよ」



「なら潔く死んでくれ、あんたも望んでるんだろ?」



「確かに……再三俺の事を殺してくれと言ったからね、でも無抵抗で殺されるほど優しくは無いよ……隼人、これは言わば最後の試練……君が俺を殺すに値する人間かどうかのね」



そう言いシャルティンは初めて戦闘で剣を手にした、その表情に油断は無い……どうやら本気にさせてしまった様だった。



『30秒経過だ』



冥王の声が響く、時間はあまり無い様だった。


だが不気味なだけと思っていた剣に加護を打ち破る力が秘められていたのは予想外だった……ウルスの置き土産、微かに魔力を感じた理由は頷けた。



「よそ見してる余裕があるのかな?」



剣に意識が向いている間にシャルティンが一気に距離を詰めて来る、間一髪で防ぐが凄まじい重さだった。


魔法で逃げる暇も無い、単純な剣術だけの勝負……手数も多い、圧倒的に押されていた。



「どうした隼人!そんなものか!!」



技術で負けている、幸いにもシャルティンの攻撃は普通、特に何の付与もされていない、攻撃を受けた側から冥王の力で治癒出来るがこのままではジリ貧だった。



『1分経過だ』



冥王の声に焦りが募る、後どれだけの時間が残されているのか……いつ死んでもおかしく無かった。


シャルティンの攻撃を弾くと蹴りを入れ距離を取る、そして大きく深呼吸した。


一瞬たりとも気が抜けない、張り詰めた空気感に凍る様な殺意……これが真剣の殺し合いなのだと肌で感じていた。



「隼人、左目が見えてないだろ」



いつ気が付いたのか、戦闘に影響が出ないように身体の向きや視線など工夫して居たつもりだったが……シャルティンには無駄の様だった。



「冥王の力は代償付きだからな」



「代償か」



そう呟くシャルティンの表情は心なしか少し悲しげだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ