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第235話 再来

「マリスは……どうしようも無かったんだよな」



「魔力のコアは特別な物、更に彼女に使われて居たのは私達の祖父であり最高の機械技師でもあるレイデスが特別に改造した物、寿命を迎え、人生を全うしたと考えた方が良いと思いますよ」



マリスの亡骸を眺め呟く隼人にもルナルドは後ろから声を掛ける、右手にはボコボコに殴られたアルブスを掴んでいた。



「そうですか……レイデスさんのお墓にお礼を言いに行かないと行けないですね」



「そうでしたら案内しますよ、祖父の墓は屋敷の裏なので」



そう言いアルブスを引きずりながら歩く、だが2、3歩行った所で何かに気が付いたのか、此方を振り向いた。



「すみません、クロアを運んで貰えませんか?出来れば祖父と父の隣に埋めてあげたいんです」



「良いですよ」



その言葉に隼人はゆっくりとクロアを持ち上げる、足を破壊され、主人も気絶中のクロアは大人しかった。



「隼人様、私は此処でマリスさんを見張ってますね」



そう言いマールはマリスの側に腰を下ろす、なんだかんだ仲は良かった二人、色々と思い出す事もあるのだろう。



「そうか、すぐ戻るよ」



「はい、待ってます」



そう言い残しルナルドと共に階段を上がって行く、引きずられるアルブスは至る所を階段にぶつけて居た。



「そう言えばルナルドさん、海で言って居た事は結局真実なんですか?」



「海?……あぁ、あれか」



隼人の言葉に独り言を話し記憶を辿る、ルナルドの言葉をアルブスは嘘だと言い、そしてルナルドはそれを嘘だとさらに言った、何を信じれば良いのか、何が真実なのか未だに分からなかった。



「アルブスが情報を流したのは嘘ですですが奴は危険、それを印象付ける為に嘘をついたのですが……結局接触してしまいましたし、無駄でしたね」



そう言い彼は笑う、根っこから優しい人間の様だった。



「私も一度はクロアを甦らせようとしました……ですがそんな事しても意味が無いって気が付いたんです」



「無意味?」



「はい、妻を失い、娘を失った……世界一の不幸者、私はそう思ってました」



確かに現代ならこれ以上ない不幸だった。



「ですがこの国を出て色々な村や街を見て気が付きました、私の様に家族を失っても、手足を失い不自由を強いられても懸命に生きる人々を……それに比べれば小さいなんて事は無いですが私も同じ人間、強く生き、彼らを手助け出来ると」



良い人を通り越して聖人だった、恐らくアルブスの持つ筈だって良心も全て奪い取って生まれて来たのだろう。



「私は人助けと言う生き甲斐を見つけた……ですがアルブスは祖父を越す事に囚われ、それを生き甲斐とした……それが分かれ目だったんでしょう」



そう言い引きずって居たアルブスを抱える。



「彼の暴走は私の責任でもある……そしてこの戦争も」



ルナルドの表情は後悔、責任感、様々な物に押し潰されそうな表情をして居た。



なんと声を掛けて良いのか分からない、そうこうしている内に気が付けば隼人は裏庭の墓へと到着して居た。



五つの墓跡が並べられている、祖父母、父母……そしてクロアだろう。



「隼人さん……私はアルブスと共に王の元へ行きケジメを付けてきます、本当にありがとうございました」



そう言いルナルドは深々と頭を下げる、役目は終わった……そう言わんとする表情だった。



あの王の事だ、行けば確実に処刑される……そう分かっての事なのだろう。



「そうですか……俺も会えて良かったです」



彼の覚悟を止める事は出来なかった、去る彼の背中が小さくなるまで見送る、そして見えなくなると隼人は墓石に視線を向けた。



「レイデスさん……マリスを助けていただきありがとうございました、貴方のおかげでランスロットとマリスはもう一度会えた……感謝してもしきれません」



異空間から花を取り出しそっと献花する、そして立ち上がると他の人達にも礼と感謝を伝え献花した。



「覚悟は決めたけど……やっぱ悲しいな」



「悲しいですか……その感情は久しく味わっていませんね」



一人感情に浸ろうとしその時、忘れもしない声が聞こえてきた……シャルティンだ。



「シャルティン!!」



咄嗟に身体を捻りシャルティンの方へと視線を向け刀に手を掛ける、だがその仕草に彼は両手を挙げた。



「物騒ですね、私はただ話しをしに来ただけですよ」



「話をしに来た?何の為にだよ」



彼の言葉は全て嘘くさい、表情も笑顔を浮かべるがその裏はどんな感情なのか分かった物じゃ無い……底が見えなかった。



「そうですね、ずっと君を観察してました、私を殺すに足る人物かどうか」



「何言ってんだ、こっちはお前の所為で仲間を何人も亡くしている……言われなくても殺してやるよ」



「怖いですね……ですが此方も観察は終わり、最後の戦いと行きましょうよ隼人君」



そう言い懐から一枚の手紙を取り出した。



「この中に記されている国に私は居ます……無事辿り着けたらその時は、最後の戦いをしましょう」



そう言い残しシャルティンは手紙を残して姿を消した。



残された手紙を雑に破り中を確認する、この大陸の最西端、シャルティナと言う国に彼は居るとの事だった。



国名からして彼の国……何故ここを早く見つけられなかったのか、バレバレだった。



「取り敢えずアルラ達に報告だな」



通信用の水晶で連絡を取ろうとしたその時、ちょうどタイミングよく水晶に通信が入った。



「おぉ、アルラかちょっと伝えたい事が……」



「隼人さん……オーフェンが殺されました」



アルラの言葉に隼人の手から通信用の水晶がこぼれ落ちた。



「隼人さん?聞こえてますか?場所はアジトのある森から北に3キロの遺跡です……」



アルラは冗談なんて言わない……そう知ってるからこそ、隼人は尚信じられなかった。



オーフェンが死んだ……誰に殺されたのか、あの戦場には少なくともあいつより強い奴なんている筈無かった。



仮にもアダマストの英雄……死ぬ筈が無かった。



「いや……リリィが居る、まだ希望はある筈だ」



隼人はマールが待っている事も忘れ直ぐに転移の杖を使い一度マークしたアジトへと転移した。



アジトから北に3キロ……隼人は今までに無いほどのスピードで走って居た。



マリスを失い……オーフェンまで失うのか、もしそうだとすれば俺は耐えられないかも知れなかった。



3キロの道のりを1分半程度で駆け抜けると異質な大きな穴の空いた場所を見つける、その周りにはアルラ達も居た。



「アルラ!オーフェンは?!」



隼人の言葉にアルラは顔を背け一点を指さす、其処には血だらけでボロボロのオーフェンが横たわって居た。



その横にはリリィが膝を立て顔を覆い座っていた。



「治療……出来なかったのか?」



「すまない……」



リリィはただそれだけを呟いた。



オーフェンの死……隼人はもう訳が分からなくなって居た。



そう時間が経たないうちに仲間が次々と消える……一体何が行けないのか、どうすれば守れるのか……もう何も分からなかった。



隼人は膝から崩れ落ちる、その時ふとオーフェンの身体が視界に入った。



鍛え抜かれた筋肉、血豆だらけの手に古傷だらけの身体……相当な修羅場を潜り抜けて来たのだろう。



オーフェンとは良く話をした。



女を探すから着いて来いと言われアルラに怒られて居た事もあった……女性率の高い中で数少ないバカをやれる男友達……それが彼だった。



記憶を辿っている時、ある言葉を思い出した。



あれは酒を飲むのに付き合わされ、柄にも無くオーフェンが感傷に浸って居た時だった。



『なあ隼人、傷心中のお前に一つ頼んで良いか?』



『なんだ?』



いつもとは違うオーフェンに戸惑う、今思えばこの時、ウルスを失って間も無く……それを励ます為に連れ出されたのだろう。



『こんな世界、こんな旅だからこそ……俺が死んでも悲しまないで欲しいんだ』



『馬鹿言うな、お前は死なねーだろ』



この時の俺はそう言葉を返した。



『まぁそうだな、もし死んだら大笑いしてくれよ!』



そう言い二人笑い合い酒を飲む……そういえばそんな約束をして居た。



「そうだったよなオーフェン……死にやがって、馬鹿野郎」



隼人は笑った。



「は、隼人さん?」



周りのみんなは混乱している、壊れたのでは無いかと……だが隼人は構わず笑い続けた。



俺はまだオーフェンの事を何も知らない、過去も何も……なのに彼は死んだ。



本当にふざけた奴だった、死ぬなら一言残してから死にやがれ。



「馬鹿野郎が」



隼人は精一杯笑い、最後にオーフェンの胸を軽く叩いた。



目から溢れる涙にアルラ達は何も言わずただ見ているだけだった。



オーフェン達の死を無駄にしない方法は一つ、シャルティン達を倒す事のみだった。



「オーフェンとリリィは誰にやられたんだ?」



「暴炎龍アヌシア、それしか私は分からなかったよ」



暴炎龍アヌシア……聞いた事ある名前だった。



とは言えゲーム時代は当てにならない、参考にして良いかは微妙だったがアヌシアはその名の通り幾つもの国を炎で焼き尽くし破壊した邪竜……この世界にもちゃんと実在したのは少し驚きだった。



竜はそれこそ神に近しい強さを誇る……また厄介な相手が増えたものだった。



「オーフェン、お前の大剣借りるぜ」



そう言い彼の横に置かれて居た大剣を持ち上げる、凄まじい重量……持ち上げるだけでやっとだった。



「なぁレクラ、オーフェンは何処に埋めてやれば良いか分かるか?」



側でただオーフェンを見つめて居たレクラに尋ねる、彼女も一時とは言えオーフェンの記憶を持って居た、何か心当たりがあるかも知れなかった。



「多分オーフェンが住んでいた小屋に手掛かりがあると思う」



そう言い再びオーフェンに視線を戻す、その姿に隼人は魔紙を4枚彼女に渡した。



「レクラ、オーフェンの埋葬……頼めるか?」



「私がですか?」



突然の頼みに少し困惑している様子だった。



「あぁ、オーフェンと良く一緒に居ただろ?」



良くレクラはオーフェンにダル絡みされて居た。



「まぁそうだけど……」



何か悩んでいる様子だった、だが何か納得したのかレクラは頷いた。



「分かった、行ってくる」



そう言い華奢な体でオーフェンを持ち上げると転移の魔紙を破り姿を消す、いつ見ても何処からあのパワーが出ているのか不思議だった。



「俺はマリスを埋葬して来るから皆んなは街で待っててくれ」



そう言い隼人も転移の杖を取り出すと姿を消した。

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