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第227話 戦場

「良い天気だな」



雲一つない晴天、此処まで青い空は久方ぶりに見る、見通しの良い草原の先には無数の黒い点が動いていた。



「いよいよ始まるって感じだな」



肩に大剣を担ぎゆっくりと隼人の隣へと歩いて来る、様々な場所に仲間は配置され、最前線に居るのは隼人とオーフェンの2人だけだった。



戦争を目前にして居るにも関わらず兵士の士気はそれ程高くない、度重なる戦いのせいで疲れ果てて居るのだろう。



「俺達が居なかったらこの国、惨敗してるな」



士気の低さに呆れるオーフェン、全てを諦めた、そんな感じの兵士が多かった。



「この戦争、死ぬ気で勝とうと思っている兵士なんて一握りですよ」



兵士に混じって全く気が付かなかったが人混みを掻き分けシグルドが此方へとやって来る、相変わらず団長の風格がなかった。



「勝とうとする奴が一握りってどう言うことだ?」



「国王ですよ、この国はいずれあの人の所為で滅びる運命だったんですから」



一昨日会った時何となく好かない雰囲気を醸し出していたがやはり無能の王の様だった。



「この国は機械技術でのし上がって来ました、それこそ此処50年の成長は凄まじいと聞きました、ですが3年前、前国王が死去して以降アルバルト国王に代わったのですが気に入らない者は死刑、力を入れ始めていた外交も担当者を殺し全部無に……そんな国に嫌気がさして恐らくあの方も逃げ出したのでしょう」



「あの方?」



「ルナルドさんですよ」



彼も国王の被害者だったという訳か。



「シグルドさんはルナルドの事恨んで無いんですか?」



「技術を流した事への理解は苦しみますがあの人は意味のない事はしないですから、国民も皆んな知ってますよ」



爽やかな笑顔で答える、アルブスとの話しだけでは知らなかった、余程良い人だったのだろう……娘が死ぬまでは。



しかし色々な人から話しを聞けば聞くほど何故アクスタで出会ったルナルドは俺に自身を悪く見せる様な話しをしたのか疑問だった。



「そろそろ開戦の時ですね……」



太陽が真上に来ているのを見るとシグルドはゆっくりと兵士達の前に出る、その顔付きは先程の爽やかな青年から一人の戦士へと変わっていた。



「あー、相変わらず緊張するな」



一瞬だけシグルドの表情は緩む、だが直ぐに引き締め直すと彼の足元から風が生み出され、ゆっくりと浮き上がった。



「我が名はシグルド、この国の団長である!」



彼が現れた途端、兵士に響めきが走った。



「知っての通り我が軍の士気は低い、その原因は国王にあるのも知っている……この国は守る価値が無い、皆んなそう思い始めているだろう」



「ははっ、団長の言う言葉じゃねーぞ」



オーフェンは何処か楽しげだった。



「だが此処で戦うのをやめれば国に居る家族が、友が死ぬ事になる……度重なる戦いでそれを失った者も居るだろう……だが皆が愛した国を、亡き者の為にももう一度守って欲しい……前国王様の為にも!!」



シグルドの声が辺り一体に響き渡る、一瞬の静寂の後、地を揺らすほどの声が兵士達から上がった。



「そうだ!俺達の国を守ろう!」



士気は先程とは比にならない程昂まっている、今なら彼らだけでも勝てるかも知れなかった。



「素晴らしい鼓舞だな、あいつは良い団長だよ」



「やっぱそう言うのって分かるのか?」



「色々な戦場を経験してるからな、さっきの鼓舞は歴代でも上位レベルだぞ」



そう言い軽く拍手を送る、確かにさっきの言葉は何も知らない俺でも士気が上がった。



「隼人、そろそろ始まるぞ」



オーフェンの声に前を見ると先程までは豆粒ほどだった盗賊達が視認できる距離まで来ている、不思議な事に盗賊と言うよりも兵士と言ったほうがしっくり来る見た目だった。



「隼人、余計な事は考えず目の前の敵を倒す事だけ考えろよ、生き残る事だけをな」



そう言い先頭にいるシグルドの近くへと歩いて行く、いよいよ始まる……正直気分は最悪だった。



今から人を斬る、余計な事を考えるなと言われれば逆に考えてしまうのが人間の性という奴だった。



「勝利を我が手に、行くぞ!!」



シグルドの掛け声と共に兵士達が走り出す、あまりの迫力に呆気を取られ先頭付近に居たはずの隼人はいつの間にか後ろの方まで下がっていた。



先頭では既に戦闘が始まっている、飽く迄も目的はアジトの発見及びコアの奪取、マリスにどれだけの猶予が残されているのか分からないが早いに越した事は無いはずだった。



走る兵士達の中を掻き分けながら前線を目指す、もう既に地面に横たわり生き絶える者も居た。



ふと前方で轟音と共に兵士達が吹き飛ぶのが見える、周りの兵士よりも一回り体のでかい敵兵が斧を片手に戦場を蹂躙していた。



「こんなものかアスタの兵士ってのは!」



機械技術が施された右腕に加えて彼の元々持つ物が合わさり凄まじいパワーとなっていた。



これ程強いと言う事は幹部クラスかも知れない……アジトの情報を掴むには良い相手だった。



「あんた、アジトの場所知ってるか?」



「何だお前?」



隼人を見下ろす様に男が首を傾げる、近くで見るとかなり大きかった。



圧倒的な力に周りの兵士も彼を避け10m程の円が彼を中心に出来ていた。



「俺は傭兵だよ、アジトが知りたいんだが教えてくれないか?」



隼人の言葉に男は酷く困惑していた、無理もない、いきなり自分達の拠点を教えろと言うのだ、教える訳が無かった。



「此処は戦場だ、無駄口叩いてんじゃねーぞ!」



振り下ろされる斧を刀で受け止める、予想以上のパワーだが受け止められない程では無かった。



渾身の一撃を受け止められた事に男は驚いたのか、隙だらけだった。



受け止めた斧を跳ね上げると胴体に一本の刀筋を見出す、だが隼人は振らずに一歩後ろへと下がった。



「何で攻撃しなかった」



男は怒り混じりの疑問を隼人にぶつけた。



「殺したらアジトの場所が聞き出せないだろ?」



そう言い手招きをする、言った事は本心、だが一瞬殺すのを躊躇ったのも本当だった。



「生温い男だ」



そう言い再び斧を構える、彼を倒すのは簡単だが気絶させるのがどうも難しかった。



それに此処は戦場、悠長にアジトの場所なんて聞き出せる訳が無かった。



再び男は斧を振りかざす、力任せの一撃、交わすのは容易だった。



最低限の動きで交わすと剣を喉元に突き付ける、これでアジトの場所を吐く筈だった。



「アジトが何処か教えてくれるか?」



「誰が言うかよ、ほら殺せよ」



そう言い剣に喉を当てる、本当に言うつもりはない様だった。



精神に干渉する魔法を覚えていれば話しは早いのだが……どうしようも無かった。



剣を鞘に収めて気絶させようとしたその時、男の頭部が飛んで行くのが視界に入った。



「大丈夫ですか隼人様!?」



マールの声だった。



昨日と変わらない服装、だが真っ黒の服に赤い血が飛び散っていた。



「な、何で殺した?」



彼を殺す必要は無かった、俺に危険も及んで居なかった、なのにマールは殺した。



「何故?此処は戦場ですよ」



不思議そうに首を傾げるマールに隼人は何も言えなかった。



彼女の言う通り、此処は戦場……間違っているのは俺の方なのだろう。



だが今のマールが少し怖かった、何の躊躇もなく人を殺した……それが彼女の本性なのだろうか。



「隼人様、敵のアジトを別の敵から聞き出しましたから行きましょう」



「アジトが分かったのか?!」



その言葉に頷くマール、本来なら褒めたい所だがそんな気分では無かった。



「そうか、場所は?」



隼人の言葉にマールは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。



「草原を抜けた山の中です」



「アルラ達には?」



「報告済みです」



心なしか機嫌が悪くなっている気がした。



「それじゃあ行こうか」



これ以上この場に居る必要もない、隼人は転がっている男の頭部を横目に戦場を駆け抜けて行った。

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